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#4 なむさんケントさん

「エントリーNo.20番と21番はステージに上がってください。」


 体育館に着いた途端、非情にも流れたアナウンス。ケントが震える声で背中のアムに問いかけた。


「アム・・・お前何番だ?」

「2と5番じゃ。」

「25番ね。ギリ、どうにか間に合ったな!」


 安堵の息を吐くと、アムを背中に乗せたままケントがその場に崩れ落ち、アムはコロコロと床に転がった。


「俺はこれ以上動くと本番に差し支えるから、アムだけアップしとけよ。」

「アップ?」

「いきなり身体動かしたら壊れるから、温めるために動いとけ。」

「なるほど。ちなみにケントは何番なんじゃ?」

「俺ら3ワールドはシードだからまだまだ先。いいか、お前が負けたら俺が弱いと思われるから、ぜってー決勝まで上がって来いよ。

 じゃ。」


 そう言うと、アムに背を向けて歩き出そうとしたケントが急に足をひっこめて辛そうに顔を歪めた。

「チッ・・・。」


「どうしたのじゃ?」

「なんでもねー。」


 そう言いながらも、ヒョコヒョコと足をかばうように歩くケントに、アムが特攻服の裾を引っ張った。

「怪我したのか? うちを背負って走ったから?」

「んなヤワじゃねーよ。昨日の練習で新しい技を試したからだし。こんなことで負けねーから、心配すんな。」


 手を払ったケントはアムの頭に手をポンと置くと、そのままステージの脇に消えた。

 ひとりポツンと残されたアムは、ケントの背中に向かってひそかに合掌した。


「なむさんなむさん、ケントさん。おぬしの犠牲は無駄にしないぞ・・・!」


 ※ 


「うちの勝ち! さあホクロをみせるんじゃ‼」


「ホ、ホクロ妖怪だーーー!」

 怯える敗戦相手の襟もとを強引に開いてホクロの確認をしたアムは、無邪気に観戦生徒たちの【アムコール】に両手を上げて応えた。


 予選は一対一のタイマン形式で、DJが流す生音の即興音楽に合わせた即興ダンスを踊るというバトルだ。相互に二回ずつ踊り、勝敗はダンス講師のジャッジで決まる。

 評価ポイントは高いレベルのセトリよりも、いかに即興の音を取ったパフォーマンスができるかということに焦点が当てられる。その都度の柔軟性のある対応が必要で難易度は高い。


 予選を勝ち抜いた上位四人の本選は3ヶ月後のダンスフェスティバル。全校生徒たちの前でダンスバトルをする。

 審査員のジャッジプラス、全校生徒の過半数のオーディエンスが貰えれば、晴れて日本藝術舞踊学園の番長(アタマ)として認められるのだ。


「またトレースされた!」

「俺のダンスが・・・‼」

 

 アムは得意のカンペキなコピーダンスで他を圧倒し、連続で三人を撃破した。ついでに嫌がる男子の上衣をひん剥き首筋のホクロも調べたが、ちぃくんに該当するニンゲンはまだ居なかった。

 アムはあごに手を当てて考えた。


「やっぱり3ワールドの誰かがちぃくんなのか⁉」


 ※


 3ワールドに挑戦する前の休憩時間。

 アムはステージ横の三人が座る特別席に、後ろからこっそりと近づいた。


「わ、ビックリした。何しに来たんだよ!」

 アムに気づいたケントを無視して、背後からユーリとジンの身体のニオイをクンクンと嗅ぐアム。


「ちょ・・・そういう性癖なの?」


 ユーリは身体を捻って逃げたが、逆にジンは面白がった。

「ほれ。」わざと靴を脱いで足をアムの鼻の前に突き出した。


(ちぃくんの体毛はきちんと刈られ黒色で、瞳も黒い。色はジンがいちばん近い。

 しかもダンスランク一位もジン…ということは、ちぃくんが成長した姿がジンなのだろうか?

 ただ、ジンの足のニオイはものすごくクサイ!腐った魚みたいじゃ!!)


 鼻が曲がりそうになったので、アムは顔をしかめて吐きそうになりながらジンから離れた。


「アム、俺のニオイは嗅がないのかよ?」

 ケントがなぜか恨めしそうにアムを見た。


 鼻をつまんだアムが、冷ややかにケントを見た。

「ケントのニオイはもう分かっている。濡れた雑巾みたいなニオイじゃ。

 しかもケントはいちばんちぃくんの容姿とはかけ離れすぎているから、首にホクロがなければとっくに対象外じゃ。」


 ジンとユーリがドッと笑い転げて、ケントは血相を変えてアムの胸ぐらをつかんだ。

「おまッ・・・ココまで連れてきてやった恩人に向かって、失礼すぎだろ!」


「ヘイヘーイ、遊びは終わりにしよう。」


 ユーリが短ランに改造した制服のポケットに眼鏡を入れて、着こんだパーカーのフードを目深にかぶるとアムとケントの前にスライドステップで躍り出た。

「バトルしよーぜ、アム。俺はオールジャンル踊れるからケントみたいにはいかないぜ。」


「俺も待つの飽きたから、隣でケントとやろうかな。秒で終わったらゴメン!」

 オーバーサイズの破れたデニムとスウェットに太い金のネックレスを合わせたジンも、逆立ちで跳ねてラビットをしながらケントの前に出た。


 二組同時バトルは今まで前例がない。

 司会進行役の生徒が戸惑っていると、校長先生がひょっこりと現れてマイクを握った。

「どうせなら、四人同時審査にしたらどうです?」

 

 その提案に会場がひとつになって爆発的に盛り上がった。

 校長先生は、審査員のハンドサインでOKが出るとすぐに姿を消した。

 アムだけは「もしかして狸神だったかも」と思ったが、確かめる術はない。


「お前らナメてんじゃねーぞ。今までの俺とはひと味違うところ、見せてやる。」

 ケントの色素の薄いグレーの目には蒼い炎が見える。


 アムはこれから待ち受けるバトルにワクワクとドキドキが止まらなくて、心を躍らせた。


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