第9話 バナナと唐揚げと、ときどき訓練場
畑での野菜栽培も始まり、亜弥と第三部隊の仲はますます深まっていた。
そして今、亜弥の家の前の空き地には――
王国騎士団第三部隊・臨時訓練場が爆誕していた。
訓練場備品庫もきちんと設置され、城下町の警護に出ていない隊員たちは、この訓練場で日々、戦闘訓練や野営訓練に励んでいる。これで、亜弥の家のベッドが足りなくても安心だ。
ルシウスは「第三部隊の訓練拠点を作った」と王と宰相には報告しているが、場所はあえて秘匿にした。
報告を受けた側も「どうせ魔物の森の近くだろう」と思い込んでおり、視察に行こうなんて思う者はいなかった。それほど魔物の森は恐れられているのだ。
だが、実際の現場はというと――
訓練は真面目そのもの。だが、実は食事とおやつの時間こそが最大の楽しみで、畑仕事にすら精を出しているというのが現状だった。
「この世界に醤油があって、ほんと助かった~」
そう、バナナは無いけど、醤油はある。
正確には「醤油」という名前ではないし、言語も日本語ではないのだが、神様の力か何かで、亜弥には最初から翻訳されたように聞こえている。もちろん亜弥はその事実に気付いていない。
「今日は鶏の唐揚げとポテトフライ、レタスとトマトのサラダ、パン、そして揚げバナナです!」
「唐揚げキター!!」
「これ、外はカリカリ、中はジューシーで、無限に食べられるヤツ!」
食材は第三部隊の皆が持ち寄ってくれるので、今ではバナナ以外の食事も豪華になっている。もともと亜弥は料理上手。実家では、共働きの両親に代わって夕飯を作ることも多かったのだ。
「パンもいいけど、やっぱり唐揚げは白ごはんで食べたいなぁ。年中ご飯が食べられたら最高なのに」
「ルクシオン王国は米に力を入れてないし、収穫量も少ない。輸入もないから、秋の収穫期に買いだめしないと春には手に入らなくなるんだよな」
「なるほど。だったら、秋にはお米を確保しておかなきゃ!」
この国の主食は小麦が中心で、パンやパスタが一般的。うどんはというと、亜弥が作って第三部隊の間でだけ密かに流行中だった。
亜弥以外は特に不便を感じていないが、日本生まれの亜弥にとって「ご飯」はバナナに次ぐ最重要食材。
その情熱に火が付いた。
(城の食料庫に……米、ないかな?)
ルシウスも密かに「亜弥のご飯料理を食べてみたい」と思っており、城の保管庫に米があるか調べて、もしあれば自費で買おうと考え始めていた。
亜弥の料理の虜になった第三部隊の騎士たちも、ルシウス以外の独身組はすっかり常連。
最近は常駐している人数がどんどん増えている。だが――
「ルシウス団長はアヤに気がある」
この事実には、隊員全員が気付いている。そのため、皆しっかりと一線を引いており、妙に統率がとれているのだった。
「ところで、この揚げバナナはそのまま食べればいいのか?」
「はい!そのままでも美味しいですが、もっと甘くしたいなら砂糖やチョコシロップをかけるのがおすすめです!」
「ふむ。これ、ポテトフライ的な立ち位置だな?」
「まさにそれです!ポテトフライ的ポジションです!」
(これ、ビールとかのおつまみにも合いそう……あれ?この世界、アルコールは何歳からOKなんだろ?)
そのうちバナナ酒も作ってみよう――
亜弥の新たな楽しみが、またひとつ増えた瞬間だった。