第6話 みんなバナナの虜です
王国騎士団第三部隊の隊員が交代で亜弥の手伝いをするようになってから半月が経ち、亜弥も第三部隊の皆とだいぶ打ち解けられるようになってきた。
この半月の間は森に魔物が出没することもなく、第三部隊は第二部隊のフォローで城下町の警護にあたっているのでそれほど人数も必要ではなく、このような時期は休暇が取れる人数も増やしている。
バナナ園の手伝い担当に組み込まれていないルシウス隊長(団長)やロデリック副隊長も、自身の休暇日を使って手伝いに来ることがある。妻子持ちのロデリックはそれほど頻繁に来ているわけではないが、独身のルシウスは休みのたびに来て、それはそれは楽しそうに手伝っている。
他の隊員もバナナ食べたさに当番の日まで待てず、休暇を使ってくる者が多い。
「第三部隊の皆さんのおかげで、バナナの売上金でミルクとか小麦粉が買えるようになりましたし、この国のお金も手に入れられて助ってます。しかも必要なものは皆さんが街で買ってきてくださるので、何も不自由はしていませんし、こんなによくしていただいてありがとうございます」
「アヤが持っていたお金は今まで見たこともないし、この辺りでは使えそうにないからね」
「バナナを家族へのお土産に買って帰るとすごく喜ばれるんだ。『こんな美味しい果物、食べたことがない!』ってね」
「一人暮らしで趣味に没頭したい時に、料理をするのが面倒でバナナを食べるんだけど、腹持ちが良くて助かっている。甘くて旨いだけじゃないんだよな」
「当然です!バナナは果物の王様ですから!!」
亜弥にとってバナナは宇宙で一番美味しい果物なのだ。
◇◇◇◇
今日は当番の2人以外に、隊長のルシウスと若手のアルフレッドが休暇を使って来ていた。
日が昇らないうちに外での作業が終わらせて、今の時間は全員家の中で掃除や騎士団の事務作業をしている。
「アヤ、バナナジュースを作ってくれないか?」
「あっ、俺も俺も!」
「はーい。じゃあ、わたしの分も入れて5人分作っちゃいまーす!」
亜弥はバナナジュース用のバナナを選んでミルクと一緒にジューサーに入れる。バナナの甘味で充分なため、砂糖等の甘味料は一切加えない。
「団長、休みのたびにここへ来てますけど、体を休めなくて大丈夫なんですか?」
「自分の屋敷にいると、誰かから城に呼び出されることが多くて面倒だし、ここにいる方がバナナのおかげもあるのか体が軽く感じるんだ」
「確かに。疲れにくくもなりましたよね」
「家族には口止めしていますが、これだけ体の調子が良いと、第二部隊あたりに気付かれるかもしれません」
「ふむ……」
この家やバナナ、亜弥のことはしばらく存在を隠しておきたいと、先日、城内にある第三部隊執務室で行った会議で、第三部隊の全員が意見を一致させている。
亜弥が未だに第三部隊員以外の人に出会ったことがないほど、この辺りは人が通る可能性はとても低いのだが、隊員が持ち帰ったバナナを家族がお裾分け等でどこかへ持って行ってしまった場合に、第三者に気付かれて追求される可能性も出てきた。
ノーマルバナナでも栄養素がたっぷりで腹持ちが良いことや、市場に全く出回っていない果物であることから、一旦持ち帰りはストップした方が良いのではという意見も出ている。
「でも俺達が買わないと売上にならないですよね……悩ましい」
4人が考え込んでしまったところに、「バナナジュースできましたよ!今日は、バナナチップスも作ってみました!!」と亜弥が元気よく声をかける。
「とりあえず、これを食べて飲んで休憩しましょう」
亜弥がテーブルにバナナジュースとバナナチップスを置くと、一斉に飲み食いを始める。亜弥が用意した飲食物については、もう毒味をしていない。
「バナナジュースが美味しいのはわかっているんですけど、このバナナチップスも結構いけますね」
「そうだな、執務室でのお茶請けになりそうだ。うちの部隊以外の者には出せないが」
お皿に山盛りだったバナナチップスがあっという間になくなった。
「アヤ、バナナチップスを持ち帰りで用意することは可能か?」
「大丈夫ですよ。ルシウスさんがお帰りになるまでに作っておきますね」
「ああ、頼む」
「とりあえずはバナナを大量購入して第三部隊の執務室に保管しておくか。アヤの当分の生活費にはなるだろう」
「お気遣い、ありがとうございます。そうだ!まだ何も植えていない広い畑がありますので、この土地で育ちそうな野菜の種を何種類か植えて、自給自足するのもいいと思いませんか?」
「やってみる価値はありそうだ。次来る時にいくつかの野菜の種を持参しよう」
「ありがとうございますっ!」
亜弥はまだ贅沢できるほどお金を稼げているわけではないため、街へ連れて行ってもらうことやおしゃれ等にお金をかけるのはは二の次と考えて何も言わないのだが、そのことに今のところ誰も気付いていないのが、男性のみで編成されているために女性の気持ちに疎い第三部隊の欠点である。