第2話 異世界生活開始
亜弥が目を覚ますと、そこは広いベッドの上だった。亜弥が上半身を起こして周りを見渡すと、日本で言うところの12畳の部屋より広く感じる大きさの部屋だった。
「ここは……シンが言っていた異世界なのかな……」
枕元には1通の手紙が置かれており、状況がわからない亜弥はとりあえず、その手紙を読むことにした。
ーーー
アヤへ
アヤの人生をメチャクチャにしてごめんなさい。
最高神様が承認された通り、バナナ生活をイメージした家を用意しました。
また、この世界には魔法が存在するため、亜弥にもバナナ生活に役立ちそうな火・土・風・水・氷属性の魔法を使えるようにしています。
この家での生活の仕方や魔法の使い方などは本棚にある本などを参考にしてください。
楽しいバナナ人生になることを祈っております。
シン
ーーー
「衣食住は問題ないようにしてくれたようだけど、一人でやっていけるのかな……」
亜弥はベッドから降りてベッドの脇にあったスリッパを履き、部屋の中を散策する。窓のカーテンを開けると、ここが2階だとわかる。
「部屋だけじゃなくてベランダも広いのね。一人でするかって言われると微妙だけど、バーベキューできそう」
亜弥は独り言を言いながら、窓を開けてベランダに出る。
「うわぁ、何もなーい」
この家の周りに柵があるが、柵の内側には何か植物が植えられているのが見える。また、その柵の外側には野原が広がっていて、ベランダから見える範囲に家などはなさそうだ。亜弥は部屋に戻り、ドアから出ると、亜弥が寝ていた部屋以外に2つの部屋とLDK・トイレ・お風呂・洗面所があった。
「2階が生活空間だとすると、1階は何だろう?」
日本人を意識して家を建ててくれたのか玄関にたたきがあり、2階は靴を脱いだ生活ができるようになっている。玄関で靴に履き替えてドアを開けると、2階から下へ降りる階段は2つあり、1つは直接外に出る階段、もう1つは1階へ降りる階段のようだ。
亜弥は1階への階段を降りると、そこにはすぐにお店を始められそうな感じの空間があった。何かを陳列する場所や、軽く飲食ができる感じのテーブルと椅子があり、カウンターの上には追熟中と思われるバナナがバナナフックにかけられて並んでいる。
調理場のような場所にはミキサーや貯蔵庫・冷蔵庫のようなものがあり、貯蔵庫の中には緑色のバナナがぎっしりと詰め込まれている。『貯蔵庫は食べ物が腐らないように魔法がかけられています。でも、魔力が空になると効果がなくなるため、定期的に魔力を補充してください』と書かれた付せんも貼られていた。
「何かお店っぽくておしゃれな感じなのに、食べ物がバナナしかないなんて、バナナが中心の家って感じね。ふふっ、ちょっと面白いかも。魔力については後で調べないとね」
窓際の日が当たる場所には観葉植物が置かれているのかと思えば、植木鉢に植えられているのはバナナの苗だった。札には「ドワーフ・モンキーバナナ」と書かれている。
「なるほど、この苗なら家の中でも育てられそうな大きさしか成長しないもんね」
シンがこの家を用意する時に色々調べたんだろうなと、何となく亜弥はそう思った。
1階も大体確認した亜弥がドアを開けて外に出ると、やはり柵の外側に何も建物がないが道路がある。
「この道路を辿っていけば街などがあるのかしら?」
亜弥は道路の先にあるものが気になったが、まず家の敷地内にあるものを確認するのが先だよねと、柵の内側をぐるっと回ることにした。家の脇には自分が乗っていた自転車もあり、街がそんなに遠くなければ自転車で行くのもありかなと思っている。
家のドアから裏手に回ると、敷地内ではあるけれど少し離れたところの畑の一角にバナナの苗が沢山植えられている。
「あぁ、これは普通にスーパーで売られているバナナと同じ品種ね。ここが南国と同じぐらい温かければちゃんと実が成るのかも」
そして家の側に並んでいる植木鉢には、他の種類のバナナの苗が植えられている。
「これは本当にバナナ尽くしだわ」
さっきまではこれからの生活に不安を感じていた亜弥だったが、思った以上にバナナに囲まれた環境であることがわかり、「これは楽しく生きなきゃ損でしょ」と開き直ることにした。
家の内外を大体確認できたところで、亜弥のお腹が「ぐぅ~」と鳴り、2階に戻って何か食事を作ることにした。そういえば、2階冷蔵庫っぽい入れ物の中はまだ見ていなかった。
亜弥は2階のキッチンにある冷蔵庫っぽい入れ物を開けると、保存の効きそうな食材が結構入っている。あと、隣の貯蔵庫の中には日本のカップラーメンなどのインスタント食品も入っていて、『初めからこの世界の食事を食べろと言うのは酷なので、ある程度日本食を入れておきました』と付せんが貼られていた。
「思った以上に至れり尽くせりなのね」
亜弥は早速何か食べようと思ったが、ポットのようなものはあれどもお湯の沸かし方がわからないし、コンロっぽいものの使い方もわからないため、貯蔵庫にあったすぐに食べられる栄養補助食品と、1階のバナナフックにかけられている完熟バナナを1本取って食べることにした。
「食事をしたら、キッチンの使い方を早急に調べないとね」
ずっと独り言を言いながら、亜弥はバナナの皮をむいて食べると、「うわっ、これめっちゃ美味しい!!」「甘いけど食べやすい。あー、これでバナナジュースつくりたーい」と更に独り言が増えた。
シンがどんなバナナを選んだのかわからないが、もしかしたらかなり高級なバナナを用意してくれたのかもしれない。残りの完熟バナナはこれ以上熟れると腐ってしまうため、1階の貯蔵庫に入れておくことにした。
「色んな電化製品もどきも魔力で動くっぽいよね」
1階の貯蔵庫は魔力が充電(電気ではないが便宜上この単語を使わせてもらう)されていたが、他の機器類は魔力が空の状態なため、ボタンを押してもうんともすんとも言わない。
「こういう作りってことは魔法はあれども電気はないってことよね。電気って偉大だったなぁ」
亜弥は電化製品のありがたみを今頃になって噛み締めるのであった。