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第16話 初めての町と、つないだ手

 二人は、ルシウスの瞬間移動魔法であっという間にバナナハウスから最寄りの町へ到着した。


「着いたぞ」

「はやっ!」


 目の前の景色が一瞬で切り替わったことに、亜弥は目を丸くする。風の流れすら感じる暇もなかった。

 ――もしかして、バナナが関われば自分もそのうち瞬間移動できるようになるかも?

 そんな淡い期待が、ふっと頭をよぎる。


「瞬間移動の魔法って、ほんとにすごいですね。どこにでも行けるんですか?」

「いや、行ったことのある場所しか無理だな。その場所の情景を知らねば座標を定められん。もっとも、第三部隊は魔物討伐であちこち回っているから、国内なら大体どこでも行ける」

「なるほど~。バナナハウスは第三部隊の皆さんしか知らないから、他の人は来られないんですね」

「あぁ、存在自体を報告していないしな」


 亜弥は自分が“秘密の存在”であることを、改めて実感した。


「そうすると、この町では私はどう振る舞えばいいんでしょう?」

「俺と一緒に城下街から遊びに来た体で大丈夫だ。俺が第三部隊の隊長であることは知られているから、同行者としていれば怪しまれることはない」


 ――つまり、はぐれなければOK。

 楽観的にそう考える亜弥の視線の先には、この世界で初めて見る町の光景……いや、正確には町を囲む巨大な防壁がどーんと広がっていた。


 ルシウスは門の前に立つと、近くの門番へ声をかける。


「お疲れ様。変わりはないか?」

「隊長様、おはようございます。第三部隊の皆様が魔物を退治してくださるおかげで、今日も平和です。……おや? そちらの方は?」

「俺の友人だ。城下街に住んでいて、この町は初めてなんだ。今後ちょくちょく来ることになるかもしれない。顔と名前を覚えておいてくれ」

「亜弥と申します。よろしくお願いします」

「アヤさんですね、承知いたしました。記録にも残しておきます」


「この町では、初めて訪れる者を門で確認している。すぐに通れなくてすまぬ」

「入国検査みたいなものですね。安全第一ですから、問題ないですよ」


 亜弥は少し申し訳なさそうに笑い、ルシウスの肩の力を抜かせた。


「門番の許可を得ると、その者の魔力の“波”を門が記憶する。次からは門番の確認なしで通れる。通行者の体には目に見えぬ“通行紋”が刻まれるんだ」


 この国では常識らしいが、亜弥にはすべてが新鮮だ。彼女はコクリと頷き、門をくぐった。


 門を抜けた瞬間、香ばしいパンの香りと、人々のざわめきが風に混じって流れ込んでくる。色とりどりの屋台、行き交う商人、どこかで聞こえる楽器の音。亜弥の胸がわくわくでいっぱいになった。


「まずは朝飯を食うか」

「はいっ!」


 異世界の朝ごはん――どんな味がするんだろう。期待でお腹が鳴りそうになる。


 そのとき、ルシウスが少し照れたように左手を差し出した。


「亜弥はこの町を知らないからな。はぐれぬように、手をつながないか?」

「あっ、そうですね。……こちらこそ、よろしくお願いします」


 亜弥は右手でルシウスの手を握る。

 その瞬間、温かさがじんわりと伝わってきて、胸の鼓動が少し速くなった。


 ――実はルシウス、昨夜はこの一言を言うための練習を鏡の前で繰り返していた。

 “どう自然に差し出すか”で三十分は悩んでいたのだ。


「ルシウスさんの手、大きいですね。やっぱり鍛えてる人の手は違うなぁ」

「ゴツゴツしてて悪いな」

「いいえ。この手で国を守ってるんですもん。触ったら御利益ありそうです!」


 ルシウスは耳まで真っ赤になりながらも、歩幅を合わせてゆっくり歩き出す。

 「隊長の歩幅に合わせたらアヤちゃんがついていけないですよ!」と隊員たちに散々言われたことを、ちゃんと覚えていた。


「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。……まぁ、私も男性と二人きりでお出かけするのは初めてなんで、ちょっとドキドキしてますけど」


 その笑顔に、ルシウスの理性が吹き飛びそうになる。


「そ、そうだな。普段どおり、普段どおり……」


 完全に挙動不審である。


 こうして、二人の“初めての町デート”は、少し照れくさい空気とともに幕を開けた。


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