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第15話 はじめての街へ

 翌朝。


 「デート」という言葉を知らずとも、心のどこかで浮かれポンチなルシウスと、朝になってからようやく「お出かけ用の服が一着もない」現実に気づいた亜弥は、そろって頭を抱えていた。


(バナナに関係ない物はシンから支給されないし……よし、普段着でもいいか聞いちゃえ!)


 夜明けとともに行われた第三部隊の早朝訓練。汗にまみれた身体をシャワーで流し、身支度を整えたルシウスは――。


「ま、まずい……着られるものが鎧と軽装備しかない……! 一度城へ戻って取ってくるか? いや、誰かに見つかれば討伐が終わっていることが王都に知られてしまう……それは避けたい……」


 ぶつぶつと独り言をこぼしながら思案したものの、隊員たちもここに私服を持ち込んでいないため、借りることすらできない。

 結果、二人そろって「デート用の服がない」状態となった。


「せっかくのチャンスを逃したくはない。……軽装備でもいいか、アヤに聞いてみるか」


 悩んでも仕方がないと腹をくくったルシウスは、替えの軽装備に袖を通し、朝の光が差し込むバナナハウスへと向かった。扉を開けると、甘く香ばしいパンの匂いと、ほのかに熟したバナナの香りが鼻をくすぐる。キッチンでは、亜弥がせっせと皆の朝食を用意していた。


「おはよう、アヤ」

「おはようございます。あの……今日のお出かけなんですけど……」


(ま、まさか行きたくないとか!? 俺の格好が原因か!?)


「私、外出用の洋服を持っていないんです。だから、今日のお出かけは普段着でもいい……ですか?」


 ホッと胸をなで下ろすルシウス。しかも、ホッとする理由は二重だった。


「ああ、まったく問題ない。実は俺も騎士用の装備しかなくてな。よかったら、町で外出用の服も買わないか?」

「ぜひ!……と言いたいところですが、相場が分からないので、私のお金で生地以外のものが買えるかどうかもわからないんです」

「お金のことは気にしなくていい。いつも俺や隊員たちが世話になっているお礼だと思ってくれ」

「本当にいいんですか?」

「ああ」


 好きな人のためにお金を使える――その事実が嬉しくて仕方がないルシウスは、顔に出さないよう必死だった。


「そうだ、朝ごはんは食べてから行きますか?」

「いや、せっかくだから町で食べないか? 朝からやっている店があるんだ」

「朝から営業してるなんて、カフェか24時間営業の丼屋さんくらいしか知らないから新鮮!行きます!じゃあ、皆さんの朝食だけ用意ができたら出かける準備しますね」

「ああ、いつもすまない」

「お互い様ですよ♪」


 パンを焼く香り、カリカリと野菜を切る音、ヨーグルトに混ぜ込まれたバナナの甘い匂いが、朝の空気に溶けていく。

 手際よく朝食を用意する亜弥の横で、ルシウスも慣れた様子で皿を並べた。いつもなら当番の隊員が手伝うところだが、今朝は気を利かせて誰も現れない。二人きりの時間を、彼らはそっと用意していたのだ。


「では、出かける準備をしてきますので、皆さんを呼んできていただけますか?」

「わかった」


 ルシウスが訓練場へ隊員を呼びに行っている間に、亜弥はマジックバッグへおやつ用のバナナクッキーやバナナチップスを詰め込む。

 容量・重量無制限、中身は腐らず鮮度を保つ――シンが「バナナを入れて、遠出にも使えるように」と用意してくれた特注品だ。


「隊長、アヤちゃんにいいところ、いっぱい見せてあげてくださいね」

「アヤちゃん、ルシウスとはぐれないように、ちゃんと手つなぐんだよ?」

「隊長はお金持ちだから、何でも買ってもらうといいよー!」


 ニヤニヤしながら冷やかす声が飛び交う中、亜弥は笑顔で手を振った。


「じゃあ、行ってきますね! 皆さん、お留守番よろしくお願いしまーす!」

「いってらっしゃい! 楽しい一日を!」


 こうして、バナナハウス以外の場所への初めての外出が始まった。

 この世界で初めて見る「町」という場所への期待は、亜弥の胸の中で、成長したバナナの株よりも大きく膨らんでいくのだった。


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