第12話 第三部隊、魔物討伐へ(後編)
焼いたバナナの皮から漂う甘い香りに引き寄せられた魔物たちが、一直線にこちらへ向かってくる。
だが、奴らがバラけていない分、第三部隊も一点集中で迎え撃つことができた。
「――来るぞっ!」
先頭を走るのは、魔法が効かない【グラズベア】。
その後ろに、鋭い牙を武器にする【ブラッドファング】、さらに雷を纏った【ストームハウンド】が続く。
大型の魔物たち、合計十三体が一斉に突っ込んできた。
「グラズベアは後回しだ! 他を仕留めるまで足止めしてくれ! それ以外の全員は、狼と犬を一気に叩け!」
「はっ!」
ルシウス隊長の指示に、第三部隊の全員が即座に応じる。
息の合った連携で、騎士たちは武器と魔法を駆使しながら、ブラッドファングとストームハウンドを各個撃破していく。
――が。
「……なんか、オーバーキル気味じゃないか?」
いつもよりも明らかに撃破速度が速い。
ルシウスはすぐさま次の指示を飛ばす。
「イタチサイズの魔物も来るはずだ。無駄に魔力と体力を使うな、温存しながら戦え!」
抑え気味に戦っても、討伐のスピードは落ちない。
第三部隊の騎士たちは、あっという間に十体のブラッドファングとストームハウンドを倒し、残るグラズベアの包囲へと移行する。
「体が軽い……。疲れも感じない。これって、まさか――」
「バナナ効果、なのか? だったら魔物が群がってくるのも納得できるな」
わずかな時間で敵を制圧した部隊は、次の動きを警戒しながら待機に入る。
――次に現れるのは、イタチサイズの魔物。
だが、先ほどのようにまとまってやってくる気配はない。バラついた足取りで、じわじわとこちらへ向かってくる。動きが遅いわけではないが、どこか違和感があった。
「……このパターンは初めてだな」
「あぁ。何か、妙だ」
イタチサイズの魔物といえば、【バイトマーチン】か【ニードルストート】だ。だが、今回の動きはそのどちらとも違う。
いつもよりもゆっくりと、だが確実に歩を進める影たち。予測できない相手に対して、第三部隊はむやみに動かず、いつでも迎撃できる態勢を取る。
そして――
「……来るぞ!」
全員が一斉に戦闘体勢に入る。
だが、草むらから姿を現したその魔物を見た瞬間――第三部隊は一様に動揺した。
「――えっ!?」
姿を見ればすぐにわかる。
全身黒っぽく、小柄で、人懐っこそうな顔。
それは、バイトマーチンでもニードルストートでもなかった。
なんと――【ストームハウンド】の子供だったのだ。
「魔物の子供なんて、初めて見るぞ」
一瞬、騎士たちは武器を構える手を止めかけた。しかし、ルシウスが鋭く声を上げる。
「魔物である以上、たとえ子供でも放っておけば、後で取り返しのつかないことになる。行くぞ!」
その言葉を受け、フェリクスが躊躇なく前に出て、素早く槍を突き出した。魔物の子供はあっけないほど簡単に倒れ、手応えもなかった。
その後も次々と現れるストームハウンド、ブラッドファング、グラズベアの子供たちを的確に討ち取り、瘴気地帯から出てきた魔物にも先手を打って攻撃を仕掛ける。
――戦闘は、ほんの一瞬だった。
「本来なら、大人になるまで瘴気地帯から出てこない魔物が……バナナの匂いに釣られてしまったのか?」
「その可能性は高いですね。数や大きさから見ても、本来ならあと二、三日は滞在して討伐を行う必要があったでしょう。……それが、今日一日で済んでしまいました」
副隊長のロデリックが冷静に状況を分析する。
「日没前で助かりましたね。暗くなると、灯りを点すだけでも魔力の消費が激しくなりますから。……今日は交代で見張りを立てつつ、問題なければ明朝に撤収としましょう」
「魔物の子供というのは、初めての例です。できれば何体か、調査用に持ち帰りたいのですが」
「それでいい。……皆、お疲れ! 食事当番は夕食の準備を。残りは死体処理と、研究用の個体を運ぶ準備を頼む」
「はっ!」
ルシウスがロデリックと今後の予定を話し合おうとした、その時。
「ウキッ!!」
甲高い鳴き声とともに、ミニモンキーがぴょんと跳ねてルシウスに近づいてきた。
「魔物の気配がなくなったから、戻ってきたのか」
「あるいは、またバナナが欲しいのかもしれませんね」
「おい、まだバナナが残ってたら、1本こっちに投げてくれ」
食事当番がモンキーバナナを1本放ると、ミニモンキーは軽やかに跳び上がって空中でキャッチし、器用に皮をむいて食べ始めた。
「……皮のむき方まで覚えたのか」
「相当、気に入ってますね。バナナ」
「アヤが見たら、きっと大喜びだな」
ルシウスの口元に自然と微笑が浮かぶ。
「明日アヤの家に戻ったら、第三部隊は全員、しばらくのんびりさせてもらいましょう。……土産話もできましたし」
「あぁ」
ロデリックは、ルシウスがアヤに特別な感情を抱いていることにとうに気づいていた。
いや、気づいているのは彼だけではない。第三部隊のほとんどが気づいている。だが、当の本人だけは「バレていない」と信じているらしく、それがまた周囲の微笑を誘っていた。
王太子と平民――本来ならば交わることすら難しい立場だ。
しかし、アヤは『神様からのご褒美を賜りし者』。運命を越えて結ばれる可能性が、ゼロではないと第三部隊の面々は信じている。
――そう、彼らは根っからの楽観主義者なのだ。
※ 魔物は全て木に登れない設定です。




