37. 密会
第三回試験が終了した翌日。
教室内はその話題で持ちきりだった。
第二段階へと進んだ生徒のほとんどがアルファクラスの生徒であったこと。
それにより各クラスに裏切り者がいることが確定したこと。
第二段階ではスターだけでなくスカルも与えられる可能性があったということ。
そしてアルファクラスのリガルダがスカルを与えられることになったということ。
その全てを、その場にいなかったにも関わらずデルタクラスのほぼ全員が知っていた。
というのも、昨日寮に帰った後にエレルトやダイア、ラティなんかに質問責めされて俺が概要を話したからだろう。
特にエレルトなんかに話せば音速レベルで噂が伝達していくからな。
「なあ、ワタルは次のテストでも結構加点されるんだろ?それに甘えてないでちゃんと勉強しろよ!」
俺の席を取り囲んでいた男子生徒の一人、スコッチが煽るように俺の肩を叩いてきた。
それに俺は適当に「わかってるよ」と返す。
あれだけ第二段階のカードゲームをやりたかった旨を訴えていたスコッチも、スカルを与えられる可能性があると聞いた途端にやらなくてよかったと安堵していた。
確かに普通に勉強していればスカルを与えられる下位三人に入ることはないだろうし、今回の試験はリスキーすぎるのだ。
まあ前回はかなり得点が加算されていたためにデルタクラスからスカルを与えられることになった生徒が俺しか出なかったのかもしれないが、スコッチならば加点されたところでスターを与えられる上位三位にも入らないと自分でもわかってる上での、妥当な反応だろう。
「にしても…あのクルート家のリガルダがスカルを手にするなんてな!びっくりだぜ!だってリガルダの紋章魔法って聞いた話によると透視なんだろ?それでカードゲームに負けるって、意味わかんねーよ!」
話に聞いた感じ、今回スカルを与えられることになったリガルダ=クルートは中々の名家出身だったらしい。
確かに第一回試験ではクラス旗を任せられるなどの重要な役割を果たしていたようだったし、少しやりすぎたか?
「そうだね、ワタル君。一体どんな手を使ったっていうんだい?聞いた話によると随分と卑怯なことをしたらしいじゃないか?」
ここで馬鹿にするように声を荒げるスコッチを静止して、話に割り込んできたアロルド。
その言葉の節々からは憤りのような感情が含まれていると感じ取れる。
思い通りにならなかったことに対する苛立ちからだろう。
にしても…卑怯、か。
それはきっと俺の手札からスカルを引いて動揺していたリガルダから、勝ちに繋がるカードを早急に抜き取ったことを言っているのだろう。
「そうか?ルールには反してないから良いと思ったんだが。事実ナイル先生から指摘の一つも受けていない」
あれがルール上許されていない行為だったとしたならば、試験の監督をしていたナイルから何も言われていないのはおかしい。それが絶対の証拠だ。
ここで気になるのは、ナイルは貴族忖度側の人間では無いのか?ということだ。
第一回目の試験でもアルファクラスの担任であるにも関わらずアルファクラスに贔屓するような様子は見えなかったし、本当に良心に従って行動しているのかもしれない。
「そうかい。まあ、次のペーパーテストも頑張ってくれよ」
嫌味っぽく去り際に吐き捨て、アロルドは自身の席まで戻っていった。
「なあ、卑怯な手って何だよ」
あれほど攻撃的なアロルドは見たことがなかったのか、スコッチが少し怯えたように尋ねてきた。
ここで丁度教室に先生が入ってきたので、「別に」と曖昧な返事をして、俺は俺の席の周りに集まっていた連中に自分の席へ戻るよう促した。
今日の授業さえ終われば、ようやく校長と対面することができる。
やはり第三回目の試験が始まる前にテトラと接触しておいて良かった。
◆◇◆◇◆◇
「ちょっと待ってください」
第三回目の試験の概要が説明され、エレルトに先に寮へと戻るように伝えて教室を出た俺は、職員室へと戻ろうとしている担任のテトラに話かけた。
テトラは話しかけられると思っていなかったのか、少し怪訝そうに振り向く。
「なんのようだ?」
「テトラ先生。あなたは校長…ヘキサ=ストレイアの息子ですよね?」
俺のこの質問は、テトラにとっては突拍子もないものだっただろう。
それに対しテトラは一瞬眉を持ち上げたように見えたが、すぐに元の表情に戻る。
「それを聞いてどうする?確かにそうだが」
やはり別に隠していることでは無かったようだ。
最初の自己紹介の時に聞いたテトラの名前は『テトラ=ストレイア』。
それに対しこの学校の校長の名前は『ヘキサ=ストレイア』。家名が一緒な時点で察した生徒も多いだろう。
俺は入学式の時点でその事実に気づいていた。
しかし、その関係性を利用して校長に合わせて下さいなんて言うには、当時のテトラとの関係は浅かった。
が、今は違う。
ここまで生活してきた中で気づけた、俺とテトラとの間にある『重要な関係』がある。
「簡単なことです。俺を校長と合わせてください」
まずは、今回テトラと接触した目的を告げる。
「何故だ?校長と会う条件は提示したはずだ。キングをとればいいだろう」
予想通りの返答が返ってくる。
そう、確かに俺が入学した直後にテトラに聞いた校長と会う方法は、スターを五つ集めてキングの勲章を得ること。
俺も最初はのらりくらりとその方法で校長との面会の機会を得ようなんて考えていた。
でも、考えが変わった。
一番大きな足枷となったのはデルタクラスの裏切り者、アロルドの存在。
アロルドは第一回目の試験でアルファクラスの優勝を邪魔した俺の存在を、あの手この手で退学させようと目論んでいる。
第二回目の試験で分かったことだが、その圧力は学校全体レベルにまで及んでいると考えていい。
よって俺がキングを獲得する前に、スカルを五つ集めて退学になってしまう方が早い可能性が高い。
もう一つの足枷…いや、心残りとなっているのは、当初の目的であるレヴィオンの動向の不可視性と、この学校を根城にしているという古代の代理人の存在。
リーラ曰く、古代の代理人が『計画』を実行するまでにはあまり時間がないらしい。
その計画とやらの詳しい内容はわからない。
だが、魔族の子供たちとミルを使って何やらやろうとしていることだけは分かっている。
結局のところ、今の俺には時間がないということだ。
俺はテトラにそれを伝える。
「…そうはいかないんです。時間がないものですから」
「どういうことだ?」
「古代の代理人って知ってますよね?」
テトラを懐柔するために最も重要な話、古代の代理人の暗躍。
ここで俺はそれを打ち明ける。
「聞いたことはあるが、それがどうした」
何故今そんな話を、とテトラは思っているだろう。
その反応。やはりテトラは古代の代理人の一員では無い。
まあ、その確信を得たのにはもう一つの材料があるのだが。
取り敢えずはテトラに危機感を持たせよう。
「そいつらが、この学校を基地にしていることは?」
「はあ?」
何を馬鹿げたことを、と一瞥するテトラ。
俺は話を続ける。
「知らないみたいですね。いいでしょう。少し俺についても語ります。とりあえず人気のない場所まで行きましょうか」
俺の言っていることが完全な嘘であるとは判断できないのか、俺の提案にテトラは頷き、場所を移動する。
移動した場所は以前アロルドを問い詰めた、ほとんど人の来ない廊下奥。
一通り辺りを見回して誰もいないことを確認し、続きが気になるのかテトラから会話を切り出してきた。
「それで、古代の代理人がこの学校を基地にしてるって言うのは?」
「まだ確証はないのですが…俺はサティスに頼まれてこの学校に入学しました。古代の代理人を止めるために」
嘘である。
もちろんサティスはこの学校に古代の代理人の奴らがいるなんて知らないし、俺がこの学校に入学した理由は一対の銀鏡を探すためである。
そしてサティスと聞いて硬くなるテトラの表情の変化を、俺は見逃さず言葉を続ける。
「サティスは以前言っていました。弟子になりたいと言ってきた子供がいたが断った、と。それは先生だったんですよね?」
「──何故わかる?」
テトラは、指摘されたくないことを言われたように顔を顰めた。
「勘ですよ。まあ根拠を上げるとすれば…四十年もの間サリィバの森から出ていないサティスと、この学校の校長は面識があるんですよね?つまりその校長の息子であるあなたがその子供であったと考えてもいいでしょう?あなたの年齢も一致している」
テトラはあたかも根拠なしに俺がサティスとテトラの関係を言い当てたと思っていることだろう。
だが、俺にはその関係に気づく裏付けとなるものがあった。
それは、テトラが時折俺に向けてきた言いようも得ない視線だ。
まあこれに関してはテトラが古代の代理人の人員であり、俺を監視していたためなどの可能性も否めなかったが、これは先に古代の代理人の話題を持ち出し、テトラの反応を試したことによって払拭された。
「…ふっ。まあいい。気づいていただろうが、俺はお前が嫌いだ。ワタル。何故俺を弟子に取らなかったサティスさんが、お前のような奴を弟子に取ったのかとな」
やはり、俺の推測通りだったようだ。
「別に俺が弟子入りを頼んだわけじゃないんですよ。死にかけていた所をサティスに拾ってもらったんです。そしてもう一つ、俺は先生に話しておかなければならないことがあります」
「なんだ?」
深く息を吸い込み、話すべきか迷っていたことを、告げる。
「俺は実は十八歳なんです。この体になった経緯の説明は省きますが…元の体に戻るのには校長が持っている魔道具──『一対の銀鏡』が必要なんですよ」
「一対の銀鏡…?元は十八歳?にわかには信じられんな」
一瞬目を見開いたテトラ。
耳を疑うのも分かる。だが、信じてもらわなければ困る。
「そうですか。でも俺の振る舞いに疑問を感じませんでしたか?。そして古代の代理人のことも話しておかなければなりません」
校長は確実に一対の銀鏡の存在を知っている。
校長に一対の銀鏡の在り処を教えてもらって俺の体が元に戻れば、テトラも信じざるをえなくなるだろう。
「そうだったな。古代の代理人がこの学校を基地にしてどうするって?」
「古代の代理人は、魔力量の多い子供を拐い、数々の非人道的な実験を繰り返してきました。それが意味することは分かりますね?」
「子供を拐う…ここは学校…そう言うことか。それで、お前はそれを阻止するためにサティスさんに送り込まれたと言っていたな。元の体に戻るのも、その任務の内か」
察してくれたテトラは右手拳を口まで持っていき考えるような素振りを見せる。
俺はあえて狙われているのがデルタクラスの生徒であるミルということは伝えない。
「そういうことです。わかっていただけました?元の体に戻れば俺はこの学校を辞めます。鬱陶しい俺がいなくなって、先生にとってもいいでしょう?」
「…そうだな」
「それと、もう一つ聞いていいですか?」
最後に今回の試験についてのことを聞いておく。
「なんだ?」
「先生は、アロルドの行動原理を知っていますよね?」
「まあな」
「明日の試験について聞きたいんですが、ほぼ全ての宝箱はアルファクラスの手に渡る。違いますか?」
「…そうだな。十一歳にしては妙に頭の切れる奴だと思っていたが、さっきの話を聞いて納得したよ。その通りだ。私も協力するよう『上』から要請が出ている」
いつもつまらなさそうにしているテトラが、初めて俺に目を合わせてくれた。
その色の無かった瞳には光が宿り、何かを俺に期待しているようである。
まるで、その『要請』とやらに刃向かう俺を想像するかのような、そんな期待を。
しかし俺はその期待に応えられはしないだろう。
「そうですか。それで、校長には合わせてくれるんですか?」
再度確認する。
今のテトラならば答えは一つだろう。
「ふっ、いいだろう。明日の試験が終わった後…そうだな、明後日。校長へ会わせてあげよう。是非、この学校を救ってくれたまえ。まだ古代の代理人がこの学校を根城にしていることなど、半信半疑だがな」
テトラは似合わず愉快そうにそれだけ言って、俺に背中を向けて去って行った。
テトラがいなくなった後で…俺は声をあげる。
「おい、盗み聞きしてる奴。出てこい」
確かに感じた、盗聴されているかのような──違和感。
しかし当然というべきか、俺が指摘した瞬間その気配は消えてしまった。
どうやら相当な手練れが…俺の動向を探っているらしい。
◆◇◆◇◆◇
さて、試験が終わった翌日。ついにテトラを介して校長と会える時がやってきた。
「それで、今日校長と会わせてくれるんですよね?」
面倒な授業も全て終わり、俺から第三回試験についての話を聞こうと寄ってきた連中も振り払って、俺はテトラのいる職員室まで来ていた。
俺の言葉を聞いたテトラは書類に目を落としながらコーヒーを口に運ぶ。
職員室はアルファからデルタクラスまでの教室がある棟とは別の『本館』にあるために他の生徒たちの姿は見えない。
校長室もこの本館にある。
「ああ。そう急ぐな…」
いつものように面倒くさそうな表情でコーヒーを飲み干し、テトラは立ち上がる。
そのまま共に職員室を出て、廊下を二人で歩きながら会話する。
「随分と視線が痛かったですね」
正直職員室はあまり好きではない。
俺が教室に入った途端に浴びせられる嫌な視線の数々。
何故デルタクラスの生徒が最初のあの試験でスターを、と思っている先生が多いからだろう。
はたまた、先生の中に古代の代理人の一員がいるのかもしれない。
いずれにせよ、居心地が悪い。
「気にするな。お前はアロルドたちのことを知っていると言っていたな。つまりそういうことだ。お前のことを気に食わない職員も多少いるだろう。職員としても体裁を守るためにアルファクラスの価値を高めているんだ。それが脅かされたら、名家からの報復が怖いからな」
何故かその言葉の節々から震えのようなものを感じ、俺はテトラの方を見る。
その顔には少し怒りのようなものが滲んでいるように見えた。
「そうですか。ところで、こっちの道は校長室とは別な方向だと思うのですが?」
俺は違和感に気づき、立ち止まる。だがテトラがその歩みを止めることはない。
「校長室に入る前に、お前と会う機会を作ってくれと申し出てきた生徒がいてな」
正直寄り道などせずすぐに校長室に行きたかったが、俺に会いたい生徒と言われて考えられるのは──。
「……ヴィライダルですか?」
テトラがその申し出を断らない理由。それは相手が王子だからだろう。それが俺の予想だったが、すぐに否定された。
「違う。ライリだ」
「ライリ?何で…」
考えてみれば、ヴィライダルは俺が校長と会おうとしていたことなんて知らない。
裏を返せば、ライリ……いや、リーラ=イクスチェンは俺が校長と会おうとしていたことを知っていたということになる。
いや、知っていたんじゃない。気付いたんだ。
そうか、そういうことか。
校長がわざわざ部屋の前に見張りを立ててまで姿を見せない理由。
リーラが掴んだ校長の真実。
俺はリーラが俺と接触しようとしていることの真意に気づく。
そして、一昨日俺とテトラの会話を盗み聞いていたのはリーラだったのだ。
だから、このタイミングを指定してきた。
「ほら、着いたぞ」
いつの間にか俺とテトラの二人は、本館の殆ど使われていない狭い講義室の前まで来ていた。
中に入ると、そこには言われた通りリーラの姿がある。
「なんか久しぶりだねー」
呑気な感じで前髪を人差し指でクルクルと回しながら挨拶してくるリーラ。
こんな人気のない場所でやる話。それは一つしかなないだろう。
にしてもテトラがいても良いのか?
テトラに仲介を頼んだってことは大丈夫ということなのだろうが…
俺はリーラが言うことを推測して、話を切り出す。
「校長は……古代の代理人と繋がってるって考えて良いんだな?」
俺の言葉に、リーラとテトラの両方は驚いたように目を見開いた。
特にテトラに関しては今までに見たことがないレベルで揺さぶられたように見える。
やはりリーラはそのことについてテトラに話していなかったか。テトラが校長の子息であることを知っていたがゆえか。
「どうしてそれを?」
表情を戻したリーラが尋ねてくる。
「まあ、お前から以前古代の代理人がこの学校を根城にしているという話を聞いた時、考えたんだ。何故、古代の代理人はそんな濃密にこの学校の深部へと潜り込めているんだ?ってな。その答えは、学校長こそが古代の代理人と繋がっているからに他ならない。そして、古代の代理人について探っていたお前が、俺と校長が会うというタイミングで俺に接触したと考えると辻褄が合うだろ?盗み聞きは良くないと思うがな」
「流石だね。…盗み聞きについては謝るよー。ほら、テトラを利用して校長に近づけばってアドバイスしたのは私じゃん?ミルちゃんの様子を確認しようと思って四階に行ったら丁度二人が話しててさ、思わず聞き耳を立てちゃったんだよねー。まあ、そのお陰で今こうして二人に会えてるんだけど」
確かに最近妙にミルがアルファクラスの生徒とも仲良くしてるなと思っていたが、ライリがいたからなのか。
「冷静に考えてみれば…もしも首尾よく事が進み、俺が元の体を取り戻せたら俺はこの学校にはいられなくなる。それはつまり…お前が俺に提案してきた『古代の代理人を共に潰そう』という約束が守れなくなることを意味する」
「そういうことだねー。後もう一つ、あんたに伝えなければならない重要なことがあってね。校長…いや、古代の代理人のやつらはあんたが求めてる一対の銀鏡を使って何かしようとしている。その計画が実行されるまで殆ど時間が残されていない。下手すれば…一週間も猶予がないかもしれない。その計画が実行されれば一対の銀鏡が使える状態で残っているのかもわからなくなる。だからその前にあんたにこの話をしておきたくてねー」
「マジ…か。そんな正確な情報をお前はどうやって調べたんだ?」
リーラの情報収集能力は常軌を逸している。
この学校に勤めているテトラですら片鱗を掴めない古代の代理人の存在に気づき、更にはその深部の情報までもを得ている。
──まあ、ライリの紋章魔法の性質を知っている以上想像に難くないが。
「魔法でいろんな人に姿を変えてねー、奴らの拠点を探すのには苦労したよー…」
やはり、そういうことか。
とここで──、
「待て、いろんな人に姿を変えるだと?紋章の形でバレたりしなかったのか?それに…今のお前の姿はオリジナルのライリなのか?」
今まで黙っていた、リーラの魔法について知らないテトラから疑問の嵐が出現した。
リーラが本当は魔族であると知ったらテトラはどれほど驚くんだろうな?
普段は表情を崩さないテトラが慌てふためく様は面白い。
「まあー、言っておくと今のこの姿は本物の私じゃないよ。紋章に関しては…めんどくさいから説明はあとあと」
「随分と女っぽい奴だとは思ってたのだが…本当は女なんだな」
テトラはリーラを精査するように顎に手を当てて考え込んでいる。
「それは良いとして、今回お前が俺に接触しようとしてきた本当の理由はなんだ?」
話を戻して確認を取りながら、頭の中で情報をまとめていく。
まず…俺は今日、校長の息子であるテトラを介することで校長と接触する予定だった。
そんな予定を盗み聞いていたリーラは、こうして俺の前に現れて──校長と古代の代理人が繋がっていることを教えてくれた。
古代の代理人の狙いはミル、そしてリーラいわく一対の銀鏡。
更に、古代の代理人は何やら『計画』を目論んでいるらしく…それが実行されるまでに猶予はないという。
これが俺がリーラから聞いた情報の全てだが、その情報を俺に渡すためだけに今回接触してきたとは思えない。
つまり、リーラが本当に俺に伝えたかった事がまだ不明なのだ。──危険だから校長と会うのをやめろなんて言うのかもしれない。
しかし、リーラの要望はそんな俺が予期したものとは真逆のものだった。
「私も一緒に校長室に連れてって」
リーラは珍しく真面目な顔付きになっていた。
その綺麗な碧眼に吸い込まれそうになる。
俺はそんなリーラの言葉から並々ならぬ何かを感じ取り──「分かった」と、頷く。
校長室に何かがある。わざわざ警備の騎士を常駐させなければならない程の──何かが。
「少しいいか?」
ふと、テトラが口を挟んでくる。
自分の父が怪しげな組織に入っていると告げられた上で、何か思い当たる節があるのだろうか?
「なに?」
「私の父が古代の代理人に加入した時期は分かるか?」
「えー…確か割と最近とかって言ってた気がするねー。そもそも古代の代理人がここを拠点にし始めたのが五年前くらいらしいし、その時くらいからなんじゃない?」
リーラの返答はそんな曖昧なものだったが、テトラの解釈と何かが一致したのか、深刻な表情で口を開いた。
「五年前…って言ったな。それは…私の母親が…死んだ時期と重なる。確かに父はあの日から人が変わったようになってしまった」
死んだ…?まさか古代の代理人の奴らに殺されたんじゃ?
俺はそこまで考えたが、口には出さなかった。
何故ならテトラの表情が、思い出したくないものを語るかのように辛そうに見えたからだ。
「それで、ライリも校長室に連れてって良いのか?」
「ああ。私も…父の真意を知りたいしな」
こうして三人の意思が一致したところで俺たちは校長室へと向かった。