第4話 逃避行
(そうだ!風呂場には点検口がある!!)
章護は風呂場に向かって、点検口を開ける。
(くそっ!暗くて何も見えない!懐中電灯どっかにないのか?)
リビングに戻り、章護は辺りを見渡す。
「そういえばブラックライトあったな。これを使えば...。」
そう言いつつ、脱衣所に向かう。。
(流石にあるよな...。)
「よし!この洗濯剤を使えば。」
そう言って洗濯剤をペットボトルに移し替えて点検口に戻る。
章護は、洗濯液の入ったペットボトルに向けてブラックライトの光を放った。
洗濯液が、ブラックライトの紫外線を吸収して発光し始めた。
(微々たる明かりだがないよりはマシだ。)
章護はそう思いつつ匍匐前進で奥へと進んでいく。
少し進むと、突き当たって左は道があり前には梯子があった。
(やっぱりな!ここはただのカレンダーを貼っておく場所なんかじゃない。地下室の入り口だったんだ!)
下に気をつけて梯子を降りていく。
「ここが電気か?」
そう言ってボタンを押す。
ランタンに近い形の照明が薄暗く灯る。
そこに広がる光景に章護は驚くことしかできなかった。
「なんだここ?!」
思わず声が漏れる。
そこには古くなった本が点々と置いてあった。章護は洗濯液とブラックライトをポケットに放り込む。
「ここは書斎か?なんで地下に作る必要が?」
疑問で頭が埋め尽くされるより先に章護の手が古い本を掴んだ。
[古記]
[これは、柱家と星住家の代々伝わる営みを記した本だ]
冒頭にそう書かれている。
(深鈴と、深鈴のお母さんの苗字が、、、)
章護はパラパラとページをめくってみる。
(ところどころが破られていたり墨で塗りつぶされてたりで完全には読めないな。)
[1882年1月1日31回目。一人の娘が伏魔島に送られる。自然の天秤は綺麗に■■■■。]
[産子は柱家の夫婦に託さ......の子も同......ってもらう......啓柱家当主.....。]
読み取れる部分はそれらだけだった。
(嘘だろ....)
章護は本を開いたまま固まっていた。
そうしているのも束の間に、玄関の扉が開く音が家中に轟く。
(深鈴?深鈴なのか?)
章護はいてもたってもいられなかった。
地下室を飛び出して脱衣所まで辿り着いた。
脱衣所につくと、廊下にある窓から差す光によって影があった。
(窓からの夕陽で廊下に深鈴の影が見える!)
深鈴に会いたくてたまらなかった。
電話のこと、旅行のこと、転校のこと。
何から聞けばいいのかわからないが、会いたいだけの衝動が章護の体を突き動かす。
一歩踏み出した章護の足が止まる。
(深鈴の身長は155センチ。今は午後4時。影の長さから計算するにこの人の身長は162センチ、、、)
一滴の汗が章護の頬をつたった。
(誰だ?!)
章護は脳みそをフル回転させてここから逃げ出す術を考えた。
(ここにいたら見つかるのは時間の問題。隣は廊下を挟んで台所。賭けに出るしかない。)
全速力で突っ走って台所に転げ込んだ。
(今の後ろ姿は深鈴のお母さん?!)
「あれぇ?」
その女がつぶやく。
(しまった!バレた!)
咄嗟にリビングのソファの後ろに逃げ込む。
女が台所まで来る。
「私の運転免許証どこ行ったのよ」
怒り気味の声が聞こえた。
(バレてない?!そして、この声は深鈴のお母さん!!)
体の力がぶわっとほどけた。
(深鈴のことを聞こう!)
そう思った章護だったが、古記の内容を思い出してどっと冷や汗をかいた。
(深鈴のお母さんの名字は柱だ。敵味方の分別がつかない。ならば、早くこの家から出なければ、、。)
章護は、前書いた間取り図を思い出しながら考える。
(次はどこへいけばいい?リビングにある出入り口は二箇所。うち一箇所は深鈴のお母さんが近過ぎて使えない。あっち側から逃げるしかない。)
幸子がソファに腰を掛ける。
(目の前にいる。目の前に。深鈴のお母さんが。)
自分の心臓の鼓動が聞こえる。
(あっち側の扉までの距離は大体4メートル。俺のスピードじゃあ2秒ってところか。どうにかして2秒を。)
「私の免許証どこいったのかしらねぇ」
幸子がつぶやく。
「知らない?章護くん。」
全身から汗が吹き出した。
(バレてる。)
「はぁっ。はぁっ。」
章護は一息つきたいところだが、幸子は待ってくれない。
幸子が振り向き始める。
振り向いてくる幸子の顔目掛けて、洗濯液を振り撒いた。
「ゔっ」
洗濯液が顔にかかった幸子が一瞬怯む。
その隙に章護はかけだして、廊下に出た。
横目で玄関を確かめる。
(やはり鍵がかかってるな。深鈴の家の正面玄関は表も裏もカードキーだ。正面玄関からの突破は無理に等しい。)
章護は家の構造を振り返りながら階段を駆け上がった。
とりあえず深鈴の部屋に入って様子を見る。
幸子が階段を登る音がする。
「ガタガタゴトゴト」
(なんだこの音!?。)
章護は部屋から階段を覗く。
そこには物干し竿やタオルハンガーを重ねて階段を封じている幸子の姿があった。
(階段を封じられた!どう逃げれば...。!!)
閃いた章護はすぐに動き出した。
「さあもう逃げられないわよ。」
「ヒラヒラ」
幸子は不機嫌な顔をしながら、カギを見せつけた。
「カギはここよ。さっさと出てきなさい。」
そう言ってカードキーを見せびらかしながら深鈴の部屋に入り込んできた。
章護の心臓が波打つ。
「ここかしら」
そう言ってベットの下を覗く。
「コクン」
章護は息を呑む。
「ここかな?」
そう言ってクローゼットを全開にする。
「いないわねー」
そう言って、ゆっくり出口に向かう。
そこで半開きの扉を完全に閉めて扉の後ろを確認する。
「ここよねぇ!!!」
自信げな声が放たれる。
章護の心拍数が跳ね上がる。
だがそこに章護はいなかった。
章護は吹き抜けの端にぶら下がっていた。
「ど、どこよ」
幸子の戸惑った声が聞こえる。
「カードキーは此処よ。」
いつもの口癖を言いつつ幸子はカードキーを見せびらかした。
恐る恐る深鈴の部屋を幸子が後ずさる。
その瞬間章護は力を振り絞って手すりを素早くよじ登る。
急に章護が背後に現れて幸子は一瞬反応が遅れた。
「んなっ?!」
幸子の愕然とした声とほぼ同時にカードキーが章護の手に渡る。
章護はホッとして全身の力を抜いた。
その瞬間章護は吹き抜けから落ちる。
「馬鹿なの?そこから落ちたら怪我じゃ済まないわよ」
そう言って一階を見下ろす。
そこにはソファに寝転んでカードキーを見せびらかしながら微笑む章護の姿があった。
幸子は一階に降りようとするが、階段は自分で置いた物干し竿やタオルハンガーでいっぱいだった。
「なによ、これっ」
玄関の扉が閉まる音がした。
「こんなことするんじゃなかったわ」
幸子は膝をつきネイルを施された爪を見てそう吐き捨てた。
一読いただきありがとうございます。
毎日投稿を掲げていますが、次の話から難しくなりそうです。