表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イブサン  作者: 時田総司(いぶさん)
第二章 強い者イジメ
8/17

第八節 天才よりもうれしい言葉

地獄の様な、利き手と逆の手で勉強する日々は、およそ一週間くらい続き……






「あぁぁああ!! もう!!」






イブサンのストレスは限界を迎えていた。だがそれと同時に、定期試験の二日前くらいに、包帯を取る瞬間が訪れた。


「痛みますか?」


外科医の言葉を聞いたイブサンは右手をグー、パーと、握ったり開いたりしてみる。ジワリと、少しだけ痛みがしたが――、


「大丈夫です……」


珍しくウソをついた。心の根底には “もう、左手で勉強したくない”その切なる思いが沸々と込み上げていたからである。


「お大事にー」


病院を後にするイブサンだったが、右手をふと覗いてみる。突き指した指には白いスジの様なモノが浮かび上がっていた。これ……大丈夫なのかと、イブサンは外科医を心から疑った。


さて、試験当日! 


痛む指を堪えながらイブサンはシャーペンを握った。


「始め!」


――、


「そこまで!」


小学校時代には無い、緊張感がそこにはあった。だが、不思議とそこには高揚感があった。教室の時計の秒針が動くのを見ながら、ペンを進める。分からないと、ペンを止めた数秒後、不意に答えが浮かび上がってくる。一週間の努力は無駄ではないと、イブサンは自信満々に試験を受けていた。


『努力』


――、といえばジャン〇の漫画で好きなキャラはロッ〇・リーとキ〇だった。〇バは知らないが、ロッ〇・リーは努力の人。


『才能なんて、努力で覆してやる』


中学に上がる頃からそう思い続けていたイブサンは、野球は――だったが、勉強だけはがむしゃらに努力、努力でやりきる気だった。だから、好きだったゲームは試験期間中、一切しなかったし、テレビもニュース以外見ない様にしていた。さて、試験結果が返ってきた。


国語100点、


数学100点、


英語100点、


理科9×点、


社会9×点! 




平均、96点!! 






「っしゃああ!!」






心の底からの雄たけびとガッツポーズが自然に出た。


それはクラストップの成績で、イブサンは辺りに囃し立てられた。


「おお!」


「やるな!」


Hはさぞ、快く思わなかっただろう。




「スゲー、天才じゃーん」




「!? ――」


ピクリと、その言葉はイブサンの耳に触れた。


「天―……、才……?」


その言葉はイブサンにしっくりとこなかった。




――、


小学校から続けている習い事の剣道、毎週月曜日の夜に道場に通っているイブサンだったが、習い事の終わりに一年上の先輩に話し掛けられた。


「定期試験、どうだった? 難しかったでしょ」


「平均、96点でした」


「うっわすご! 天才じゃん。頑張ったね」


「あのっ! でも……」


「?」


「どれだけやっても不安だったから、土日に平均8時間くらい勉強してました」


「すごーい。じゃあ、




努力家なんだねー」




「! ――」






『努力家』――? 






イブサンはうれしくてうれしくて、もじもじとしながら軽く、挨拶した。


「ありがとう……ございます……」


その日、床に就くときにイブサンは物思いに更けていた。




『努力家なんだねー』




努力――、


一生懸命勉強して、それが結果に繋がった時、心の底から嬉しかった。これは素晴らしいことだ。クラスの皆と“コレ”を共有したかった。


「そうだ!」


何でそんなに勉強できるの? と聞かれたら、皆も頑張って勉強すれば努力は報われるよと、言える人間になろう。そう心に決めながらイブサンは静かに、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ