表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イブサン  作者: 時田総司(いぶさん)
第二章 強い者イジメ
6/17

第六節 自分だって、そう

イスの裏に書かれていた、『バカ』の二文字――。


これを担任が見つけ、必死に消しゴムで消そうとしていた。それをイブサンが見て、油性マジックは消しゴムじゃ消せねえだろと、どこか冷めた目つきで視線を送っていた。担任はそのイジメの実態を帰りの会とかでは話に出さず、うやむやなままイジメ(それ)はもみ消された。イブサンは、なんだ。この教師も大したことないなと、見切りをつけた。


イジメグループの主犯格は、Hだ。続いてナンバー2はM。他は例の、トイレに行ったら陰口を二人だ。


Hは、見るからに性格が悪そうな顔をしている。ナンバー2のMはというと、誰がどう見てもブスとは言えなかった。




(回想)


四月――、


新しい小学校に通って初日の日、イブサンは我が目を疑う光景を見た。


今まで見たコトない、美人が居る――。それが、Mだった。


そんなイブサンの様子を見て、K君はすぐにイブサンに話し掛けた。


「やあ。僕はKって言うんだ。ビックリしただろ? Mちゃん、その辺の芸能人よりキレイでしょ」


「確かに……可愛い……」


それから数日後、Mがイブサンのすぐそばに近寄ってきた。思わずイブサンはドキッとして、胸の高鳴りを抑えられなかった。1、2秒後――、




「アッハハハハハ」




Mはイブサンの顔を指差してあざ笑った。


(んだよコイツ、顔だけかよ!!)


(回想終了)




(M、顔は良いんだけどなぁ……)


イスの件について、Mも加担しているというのは火を見るよりも明らかだった。


その時、騒ぎ声が聞こえてきた。




「やい! ○○」


「うっせぇ! ××」




男子達による教室内を飛び交う罵声を耳にし、イブサンはフーと、溜め息をつき思うのだった。


(そもそも、この学校に、善人なんて居ない……か)




「イブサン、ちょっと!」




「!」


不意に、Hの弟が話し掛けてきた。




Hの弟――、


それは陰口をよく言う、イジメの主犯格Hの双子の弟だ。一卵性双生児か、二卵性双生児かは知らないが、姉弟のペアの双子は、イブサンにとってド田舎でも珍しい存在に思えた。


「何?」


「U君が、お前のコト、同級生で一番嫌いだって言ってたよ」


「!?」




U君とは――、




前の学校でも一緒だった、たった一人の同級生の名前である。


(Sが母親のコトを皆に言いふらしていた時、教えてくれた、たった一人の同級生である、U君。あんなに優しいU君が――)


イブサンは少々、ショックを受けていた。




「なんでも、『昔からの付き合いだから』だってさ」




「! ――」


心当たりはあった。




『何でそんなにバカなん?』


『何で宿題やって来んの?』




小学校一年の頃の心無い言葉――。


それはイブサンがU君に対して言い放った言葉だった。今となってはそんな言葉は言わないのだが、言われた側も、言った側も結構覚えているものだなと思いフーと、息を吐いたイブサンは言った。


「そりゃそうだよな」


「?」


Hの弟は、首を傾げていた。




『同級生で一番嫌い』




そう言えば、ケンカでも起きて盛り上がるとでも思っていたのだろうか? 達観していたイブサンは遠い目をしていた。




人の振り見て我が振り直せとはよく言えたもので、




生徒同士で口喧嘩が絶えない。イジメがある。言葉遣いが悪いヤツばかり。ガキが多い教室の後ろの方で、人間観察をしていたイブサンは、自分はああ成らない様にしようと思っていた。そんな頃に来た『同級生で一番嫌い』という言葉。それはイブサンの胸にグサリと突き刺さった。


(そう言えば、U君、小学校三年生の時から走るのが早くなってたっけ)


不意にイブサンは昔を思い出す。




(回想)


小学校三年生の時のかけっこの授業。人生で初めて、イブサンはたった一人の同級生に負けた。


「もっ、もう一回!」


仕切り直して、再び100メートル走をする。


距離が進むにつれて、どれだけホンキを出しても、どんどん、どんどん離されていく。イブサンは次第に、自分から足を進めるのを止めている自分に気付く。100メートル地点では、体数個分も離されてゴールした。


何かあったなと思い、イブサンは他の生徒に話を聞くと、その子は野球を始めていた。


(なるほど、野球をするために走って鍛えたんだな)


子供ながら、考えて納得した。


しかし、一向に宿題をして来ない同級生。しびれを切らしたイブサン(イブサンは母ちゃんか、なんかか?)は言った。


「何で勉強せんのん? 野球やっててもプロ野球選手になれるかどうかも分からんのに」


するとたった一人の同級生は答えた。




「野球ばっかりやってるのは、……野球が好きだから」




その屈託のない笑顔にやられたイブサンは、何も返す言葉が無かった。


(回想終了)




(U君はあと一年くらい先に、中学生になって、野球部に入るんだろうな。僕はどんな部活動をするんだろう……?)


それは希望も不安も無く只々シンプルな、イブサンの疑問だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ