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イブサン  作者: 時田総司(いぶさん)
第一章 幼少期~小学低学年まで
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第三節 トラウマぽろぽろ

母が離婚して、悲しかったか――?


イブサンの答えはNOだ。




居ても居なくても一緒。掃除、洗濯、料理をはじめとする一切の家事をせず、実家の離れから顔を出さないコトも多かった。


母が離婚して、攻撃対象が居なくなってもケンカの絶えない実家だった。




父と祖父がケンカする。


父と祖母がケンカする。


父と曾祖母がケンカする。


祖父と祖母がケンカする。




父が多くの割合をもってケンカしていた。だが、一番血の濃い関係の父。そして、




『父さんが居なければ僕は死んでいた。父さんは命の恩人だ』




形はどうであれ、衰弱しきっていたイブサンを病院に連れて行ってくれた父には、心の底から感謝していたイブサンだ。ひとえに『父が悪い』とは言わなかった。そう、信頼していたのだった。しかし――、


(毎日毎日、ケンカしてばっか……疲れないのか?)


イブサンは流石に家族全員に対して呆れ返った様子だった。




ある日――、


イブサンは『ポ』の付くモンスターのゲームにどっぷりはまっていた。姉に、期待一杯でワクワクしながら、目を輝かせて聞いてみた。


「〇リンと〇ッピ、どっちが好き?」


すると、姉はとんでもない返答をしてきた。




「うるさい、黙れ! 死ね!! 私は今、宿題で忙しいんだよ!!」




「!? ――、」


10歳もいかない、いたいけな弟の、可愛らしい質問、それをとても姉とは思えない暴言で彼女は返したのだ。その日からイブサンは姉のコトを大嫌いとなった。


姉と一緒に、歯を磨くコトもなくなった。家に居るのは、入れ歯の曾祖母や祖母に祖父。父は三交代で決まった時間に家には居ない。かくして、一緒にハミガキをする家族が居なかったイブサン、近未来に全部の歯の半分くらい、虫歯になってしまう運命が決定づけられた。




さて、イブサンが小学校二年生、秋の時の話。


イブサン達は生活科の授業を受けていた。今回は前々から育てていたお芋を、枯葉で焼いて食べる様だ。


生徒達は期待に胸を躍らせていた。




――、


一同は畑に辿り着いた。担任が明るく声を上げる。


「皆居ますね? それじゃあお芋を収穫しましょう!」




十数分後――、


サッサッと、生徒達はほうきで枯葉を集めていた。これに火を点けてお芋を焼くらしい。


「皆ぁ―、これからアルミホイルを巻いたお芋を焼きますよー」


担任の一声で、焼き芋作りが始まる。




――数十分、芋が焼かれた。


「そろそろ頃合いかな? 皆、お芋を取り出しましょう」


ほくほくの焼き芋が出来上がった。




「はふっはふっ」


「あっちぃー」


「熱いけどおいひーぉ」




生徒達は、はしゃぎながら焼き芋を食べる。


(旨いなぁ……)


イブサンも静かに焼き芋をたしなんだ。




数分後――、




「あー、美味しかった!」




生徒達は全員、焼き芋を食べ、教室に帰ろうとしていた。


「!」


イブサンは気付いた。芋を掘る際に使ったスコップ類が、そのまま片付けられずに放置されているコトに――。


(仕方ないな)


イブサンは一人でそれを片付けるべく、スコップ類を5つ、手に持った。




「あっ!」




「!」


イブサンは振り向いた。『あっ』という声のする方へ――。


そこには片付けられずに残ったスコップに気付いた、女子Aの姿があった。残るスコップ類は3つ。女子でも容易に片づけられる量と、イブサンは判断した。イブサンは残りのスコップ類を女子Aに任せ、5つのスコップ類を片付けた後、教室に戻った。




その日の帰りの会――、


担任が興奮した様子で話を始めた。


「Aちゃんだけが片付けに気付いて!」






「!!」






イブサンは驚愕した。『女子Aだけが?』片付けたのは女子Aだけではない。僕も片付けた、なのにどうして? イブサンの頭にはそういった言葉が浮かんでいた。むしろイブサンは先に片付けていて、女子Aはそれに気付いて、イブサンに触発されて片付けをした。しかも、イブサンは5つ、女子Aは3つのスコップ類を片付けており、イブサンの方が多くのスコップ類を片付けていた。


小学校二年生だったイブサンは、『良いコトをしたので褒めてもらいたい』という当たり前の感情がわき上げてきた。


「センセー、僕も片付けを……」


「それでねー、Aちゃんは……」




「!!」




担任はイブサンをガン無視して話を続ける。


「ちぇっ。僕も片付けたのに……むしろ初めに動いたのは……」


イブサンはぶつくさ呟いていた。


(き……気まずい……)


女子Aはそっと思った。


「くっそ、何で僕は……」


イブサンは未だに呟いていた。




『良いコトをしたので褒めてもらいたい』




当たり前の感情を持ったイブサンは不服だった。せっかく自分から動いたのに、担任は気付いてくれないのか? 担任を見る。


「それでね、……」


相変わらずイブサンはガン無視されていた。


「くっそ……」


イブサンは下を向いた。


すると――、






「黙りなさい!!」






「!?」




「私が話しているに! ぶつくさぶつくさと!!」






「!!」






当時小二のイブサンは泣きそうになった。


「黙っときなさい!!!!」


「!」


イブサンはまた、下を向いた。そしてイブサンは学んだ。




『誰が、どう見ても、他人にとって良いコト、善行を行ったとしても、褒めてもらえるとは限らない』




と――。





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