第十二節 平穏の終焉
イブサンは数秒だけ頭を使ってみる。
(イブサン君の頭の中がどうとか言っていたような……。それが分かる、何か? そんなモノ、あるわけ無いか。脳波をとるのにも、大掛かりな機器や、頭に付ける、吸盤の様なモノが要るっていう時代なのに)
イブサンはすぐにその疑問に対して、頭を使うのを止めた。
そして、十冊以上持って来た漫画を読み進めていくうちに夜が明けていった。
(もうすぐ5時だ!)
日の出を拝むのに心を躍らせて、イブサンは砂浜へと足を進めた。
予定通り、日の出をバックに、イブサンは砂浜を走った。もうすぐ訪れる、“終わりの始まり” を知るよしも無く――。
「痛ててっ」
数分走ったところで、海水が足に染みた。ふじつぼか何かでケガをしたらしい。ふと、足の指を見てみる。直線的な傷が、確かに刻まれていた。血も少量覗かせていた。見ているだけで痛い。裸足で走るのは頭がいいとは言えなかった。こういうところで、ミスするのがイブサンの悪い癖だ。走るのを止めてテント近くまで帰った。
1泊2日のキャンプだが、イブサンと同じく徹夜した同級生も多かった。
朝ごはんを食べ、何かしら話をしていたらすぐに昼ご飯の時間となり、その時間もすぐに去って行き、キャンプは終わった。
自分の親が幹事のキャンプだったが、イブサンはハズレのキャンプだったと思った。場所はガタガタのキャンプ場で、海辺の割には釣りも海水浴もできそうにない、きったない海岸だった。イブサンは愚痴を心の中で言いながら、車に乗せられて家路を辿る。徹夜した所為か、車の中で眠ってしまった。随分と安心した様子で――。
家に帰っても、眠気は取れない。
「徹夜なんかして! 今から眠っときなさい!」
帰ってすぐ、イブサンは祖母に叱られ、再び一階で眠ることにした。
イブサンが眠りに就いて、小一時間程経っただろうか? 廊下を挟んで隣にある、広間から何やら声が聞こえてきた。
「あなたの教育がなってないからよ!」
「このままだと、犯罪者になるわよ?」
イブサンの聞いたコトのある、声だ。
(アイツら……!)
同級生の保護者達の声だった。
(保護者達が来るのは、初めてだ! 車の後をつけてきたのか……? 何にせよ、不法侵入だ! 警察を呼んでやる! それに……)
(回想)
「イブサン……人を傷つけるな、人のものを盗るな、人を傷つけるウソをつくな。それ以外なら何をしてもいい」
(回想終了)
(僕の父さんは間違ってない! 教育がなってないのは寧ろお前達の方だ!!)
イブサンは保護者達に殴りかかろうと、その場から立ち上がった。その直後――、
「まぁまぁ、人様の家庭のことを、他人が口を出すものじゃあありませんよ」
(これは聞き覚えのある声だ! その時口を開いたのは、いつも遊びに行っているK君の家のお母さんだった。そのお母さんは、教師をやっている。流石、教育者だ。言うコトが違う)
イブサンの怒りはその一声で収まった。いや、収まってしまったと言った方が良いだろう。この後始まる、地獄の日々のことを思えば――。
怒りが収まったので、もう一寝入りしよう。イブサンは祖父や祖母と同じ部屋で寝ていて、毎日8時間は寝かされるので、徹夜した分を取り戻すためには少々時間が掛かる。そして――、
イブサンは再び眠りについた。
――。数時間後、イブサンは目が覚めた。
(17時か……)
「おい、起きたみたいだぞ」
遠くで声が聞こえた。
(K君か……)
「K君か……」
(! ! ! !?)
(今、思ったことが誰かに知られ……)
「今、思ったことが誰かに知られ……だって。本物じゃん、コレ」
(! !?)
(Tの声が……。Hも居る……)
兎に角、今何が起きているのか、整理しなければ、そうイブサンは動揺していた。
(回想)
「どうなっているのかしら、イブサン君の頭の中」
「それ、絶対使うべきよ! 早く準備して!」
(回想終了)
(頭で考えた事が、読み取られる“何か”を使われている……!?)
イブサンは困惑と恐怖で頭を抱えるコトとなった。




