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イブサン  作者: 時田総司(いぶさん)
第二章 強い者イジメ
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第十一節 本当の地獄の始まり

イブサンが中学二年生のある日の、夏――。彼の父が幹事を務めた、キャンプ。夏休みのその日から、イブサンの人生の全てが、再び狂い始めた。






「合宿と書いて、キャンプと言うんだろ?」






アダルトサイト事件から立ち直ったイブサンは、お調子者だった。同級生の部活仲間、野球部のWに気丈に言った。特に気負うコト無く、気丈と言うのは変な話だが――。




「ハイハイ。で、何企んでるの?」


「ふっふっふ。明日の朝型まで、日の出をバックに砂浜を走るんだ!!!」




イブサンは声を大にして言った。




「ハイハイ、一人でやってな」


「えー、走ろうよー」




イブサンが駄々をこねたけれどWは応えてくれなかった。


「もういい、一人で素振りやってる!」


「バット持って来たんかい!?」


Wは冷やかしたけど、イブサンは半ば本気だった。


バットを持ち、その場で素振りを始めた。




百何回振っただろうか……いつの間にか、夜は更けていた。流石に疲れて来て、ふと周りに目をやるとイブサンは独りだった。耳を澄ませてみると遠くで女子達が話をしていた。


「えー!? T君て、Mちゃんのコトが好きってマジ?」


「止めた方が良いって。人気あるけど、性格が相当悪いから」


他人の色恋沙汰に全くと言っていい程、興味が無いイブサンは、その話の中に入って行こうとは思わなかった。


「(あちらはあちらで、完徹コースかな?)こちらとて、寝るつもりは毛頭無い」


イブサンは更に持って来た漫画を取り出して、テントの中で読み始めた。そうやって朝日が昇る5時前後まで過ごそうとした。


不意に、保護者たちの談笑の声が聞こえて来た。少しだけ気になったので、耳を傾ける。酔っ払ったおばさんがやけに大きな声で話をしていた。


「どうしてイブサン君だけ成績がいいのかしらね?」


イブサンの名前を口にする者の声がした。


「家に帰ったらすぐ勉強しているよ」


イブサンの父も居り、やんわりと答えた様子だった。


成績が良いのは、イブサンの中では当たり前だ。宿題が終わるまでゲーム、テレビ、漫画は禁止しているし、試験期間には多い日で平日6時間、休日9時間勉強をしている。これで成績が悪かったら相当頭の悪い勉強の仕方をしているか、ながら勉強をして勉強をする振りをしているかのどっちかだ。


「それがおかしいのよぉ」




(!!)




イブサンは虚を突かれた。


「中学生だからと言ってもまだまだ子供だから、遊んだ方が健全なのよぉ」


この発言をイブサンは全否定した。


(おかしいのはお前達の子供とお前達だ。子供たちの殆どは全く勉強をせずに、遊んでばかりで悪い点をとっている。何の辱めも無く――。そしてそう教育しておいて、僕の成績の良さを逆恨みし、我が子の成績が悪いのを不思議がっている親。甚だ滑稽だ。)


「わしはもう寝るよ。お休みなさい」


イブサンの父は寝る様だ。


本人の親が居なくなったんだ。もっと酷いコトを言い始めるに違いない。イブサンは身構えて耳を澄ました。


「やっぱりおかしいわよ。ほら、ニュースで犯人になっている人も、周りの人から『普段はマジメで大人しそうな人でした』って言われてるじゃない? どうなっているのかしら、イブサン君の頭の中」


(おいおい、人を犯人呼ばわりか。侮辱罪で訴えれば勝訴するかもな)


イブサンはそっとツッコミを入れる。








「……これだけは使いたくなかったんだが……」








(!? 誰だろう……? そして、何を、使う……?)


当時他人に依存していなかったイブサンは、声だけでは誰の親かは判断できなかった。






「…………」






(何だ? 今、聞き取れなかった……)






「それ、絶対使うべきよ! 早く準備して!」






(また……だ。使う? これだけは使いたくない)






その時イブサンは知るよしも無かった――。その“何か”がイブサンの人生の歯車を狂わせていく事を――。

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