エピローグ
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「全て上手くいった、と言ってもいいだろうか」
会議を終え部屋に戻ったアーノルドは、深い息を吐いてそう呟いた。
アーノルドの活躍とヘレスの存在により、コンサーヴィア王国は『黄金の国エルドランド』と『珠玉の国アージェント』という二大国家との国交を結ぶことができた。
その影響は大きく、砂漠を囲む周辺の国の多くとも貿易を行う約束をし、そのまま販路を整備するための出資すら実現してみせたのだ。
今までのコンサーヴィア王国からは考えられないほどの出世である。
「いや本当……大迷宮産の魔鉱のお陰ですね」
魔鉱とは『魔力を含む鉱石』の総称で、様々な魔道具を作る際や魔法を使用する際の触媒としてなど、世界中で広く使われている。
つまり、『魔法』という技術があるかぎり需要が発生するのだ。
『エルドランド』が産出する金や『アージェント』のミスリルなども、魔鉱を使った道具で加工する必要があり、ヘレスが大迷宮を支配している以上、事実上二つの国はコンサーヴィア王国の国交を結ぶ他に道はなかったのである。
もちろん魔鉱自体も大迷宮以外の場所でも採掘は可能である。
が、ヘレスをはじめとする常軌を逸した強さの魔物達の魔力を受け続けた大迷宮の魔鉱は特に質がよく、さらに安定して手に入るというのなら、わざわざ他を選ぶ理由など無いのだ。
二つの大国と販路を築くことができたコンサーヴィア王国は、少なくとも数百年は安泰だろう。
もう誰も『何もない国』とは言えない。
砂漠を越える技術があるのだから、交易の中心となるのも時間の問題だ。
そして、ヘレスの存在が各国に認知され、暫定的に『旧メートリス王国』の領土が、魔物の国となることとなった。
まぁこれについては、他の国もあまり関わりたくないというか……国として認められたわけではなくて、『害を及ぼさないのなら好きにしてくれ』と、匙を投げられているだけだけどね。
変に否定したりして、私を敵に回すのが怖いんでしょう、きっと。
「懸念があるとすれば……エクレシアス聖国だな」
「エクレシアス聖国?」
「えぇ、コンサーヴィア王国とは接していないので直接的な関わりは少ないですが、あそこは創世の神を信仰する唯一神教の国ですから……」
「コンサーヴィアと相性が悪い?」
「はい。『信仰が違うから戦争だ』とはなりませんが、我が国の『魔物信仰』に彼らはいい顔はしませんね。そして、『神を名乗る魔物が現れた』となると……」
「なるほどね……」
『エクレシアス聖国』の人々にとって、創世の神こそが唯一の神であり、『神を名乗る魔物』……つまり私が現れて国を作り、しかも周辺の国がそれを見て見ぬふりをしているというのであれば……気に入らないと感じるのも頷ける。
「ですが今回のように戦争にはなりませんよ。唯一神教にとって、狩猟などと違って命の繋がりがない争い……つまり戦争は最も忌むべきものですから。たとえ相手が魔物であっても」
この世界を唯一の神が作ったのだから、そこに生きる生命は全て『神に生きることを許されたもの』である。
命を繋ぐために他の命を頂くことはあれど、ただ消費するだけの戦争は神に対する冒涜である……というものだ。
だから基本的に戦争は起こらないが……アーノルドの懸念は『エクレシアス聖国がかなりの大国である』ことと、『エルドリスのようなバカはどこにでもいる』ということである。
「つまり、神獣様の存在を許容できなくて突っかかってくる奴が湧いてくるかも知れないってことね」
「端的に言えばそうなります。ヘレス様の力を知っていればそうはならないはずですが、何しろ遠く離れた国ですからねぇ……」
なんて、アーノルドと話していたのが昼過ぎ。
フラグを立てすぎたと気付いたのは日没後、エルティから来客の知らせを受けてからであった。
いきなり現れたにもかかわらず国王であるアーノルドとの対面を実現させ、今現在ソファに座ってアーノルドを見つめる人物こそ、『エクレシアス聖国』において重要な立場にいる、『ハイリエル枢機卿』であった。
「突然の来訪にも丁寧に対応してくださり、感謝します」
「お気になさらず……と言いたいところですけど、あなた程の立場の方が事前の知らせも無しに現れると、さすがに私も慌てますよ……」
「改めて謝罪します」
少し刺のあるアーノルドの物言いに、『怒って当然だろう』とハイリエル枢機卿は頭を下げる。
そう、顔合わせの際、アーノルドは距離を理由にエクレシアス聖国に招待を出しておらず、戴冠は文書で知らせるつもりだったのだ。
つまり、今日の枢機卿の来訪は完全に予想外のことで、しかも地位が地位であるため大慌てで体裁を整えたのだった。
「それにしても、タイミングを考えると随分早いご到着ですね」
「早い、ですか? 今回は私の個人的な用事ですので、何日もかけて移動しましたが?」
「はて、手紙を見てのご来訪ではなかったのですか?」
「手紙? いえ、私は手紙など……」
話が噛み合わない。
詳しく聞いてみると、枢機卿は戴冠に関する手紙を出すよりも前から『神獣の噂』を聞いて出立したようで、アーノルドの戴冠とは全く無関係の用事だったようだ。
手紙はハイリエル枢機卿と入れ違いだったのだろう。
「……つまり、先王はすでに……」
「はい……申し訳ありませんが、詳しい事情は控えさせてください」
『悪魔に洗脳された第一王子マルクスの手によって殺された』など、言えるわけがないだろう。
「えぇ、深くは聞きません。が……街の様子を見れば、ただならぬ出来事があったことは分かります」
「そうしていただけると助かります」
「それに、彼女達……この部屋にいる使用人の全員が人間ではありませんね?」
「っ!?」
ハイリエル枢機卿の言葉に、アーノルドは椅子を蹴りながら立ち上がる。
まさか正体がバレるとは思わなかったのだ。
枢機卿の言葉に反応を見せたのはアーノルドだけで、ヘレスをはじめとするメイド蜂6人は、気にしていない様子で給仕を続けていた。
「ご心配なく、取って食おうなど思ってもいませんよ。私の『心眼』は、相手の心を見るのです。アーノルド陛下が彼女らを、そして彼女らもアーノルド陛下を信用していることは分かっています」
少しの間だけ無言でハイリエル枢機卿を見つめたアーノルドは、枢機卿がおそらく本心から言っていること、そしてヘレスが落ち着いているのを見て冷静さを取り戻し、ゆっくりと座り直す。
そんな様子のアーノルドと魔蜂を見て、ハイリエル枢機卿は笑みを深めた。
「改めて、本題に入ってもよろしいでしょうか? 」
「……枢機卿ほどの人物からの話とは、聞くのが怖いですね……」
「アーノルド陛下には申し訳ありませんが、私の話がある相手は他でもない『神獣』様に、です」
「私?」
おっと、指名が入ったぞ?
名前を呼ばれて思わずハイリエル枢機卿を見た後、アーノルドに目配せする。
すると、アーノルドが小さく頷いた。
残念ながら、誤魔化すことはできなさそうだ。
メイド服を脱いで『人化』の魔法を解除。
魔物とも人間とも言えない姿となった私は、ハイリエル枢機卿の前に座り、真っすぐに彼を見つめる。
「なるほど、これが噂に聞く『神獣』様ですか……」
「それで、私に用って、何?」
「……そうですね」
歯切れが悪いハイリエル枢機卿を見つめる私は、きっと眉をひそめているのだろう。
少しだけ上を見上げ、深く、ゆっくりと息を吐いたハイリエル枢機卿は……徐に首に下げたロザリオを外し、それをポケットにしまい込んだ。
「ハイリエル枢機卿、それはっ……!」
「アーノルド陛下、これが私の覚悟です。どうか世迷言と思わず……そして真剣に捉えていただきたい」
聖職者にとって、ロザリオは神の化身。
認知できない『神』を、自身が信じる形にした物なのだ。
それを隠す行為———それはつまり、『神に隠し事をする』ということ。
それも、神に決して知られてはいけないような、道を外れた内容を———
「神獣……いやヘレス様。エクレシアス聖国において、唯一神教の『現つ神』となりませんか?」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
第2章を、ここで締めようかと思います。
私が思っていたより多くの方が読んでくださり、とても嬉しいです(_ _)
今のところ、まだ続きのビジョンは全くありませんので、続きがありそうな感じで締めておいて、更新するかは微妙なところです、すみません……
それでは、ありがとうございました!




