なんだか騙してるっぽくて悪い気がするけど、勢いは大事
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「次はあなた達の番ね?」
少し手加減しつつ、『魔王覇気』を解放。
凄まじいばかりの覇気で民衆を黙らせ、襲い掛かる威圧に平伏する民衆を睥睨し、地面に聖剣を突き立てる。
ほんの数秒前までの勝戦ムードは何処へやら。
突如として神獣に牙を向けられ、その覇気に気圧された民衆はただただ膝をついて震えるのみである。
「この内戦によって、あなた達人間もかなり被害を受けたでしょう。それは、私達魔物も同じ」
静まり返るこの場に、私の声だけが響く。
「私は人間と共存を望んでいた。冒険者の命を助け、怪我や病気を治し、作物を蘇らせて村を助けてきたのは、あなた達も知っているでしょう?…………その仕打ちがこれかしら」
私の下に戻ってきたカローネ達を制止しつつ、私は淡々と民衆へと声を投げかける。
民衆も薄々気づいてきたのだろう。
『神獣のため』として起こした行動が、知らずのうちに神獣の逆鱗に触れていたことに。
「この中には、『悪魔の仕業だから』だとか、『王子の補佐官が勝手にやったことだ』とか思っているのでしょう。そんなもの、私達魔物からすれば全て同じなのよ。“私が歩み寄ろうとし相手の人間は裏切り、私の同胞の多くを殺めた”……それが事実よ」
平民だろうと王族だろうと、それは人間側が勝手に決めたこと。
魔物である私には何も関係がないのだから。
「……命の贖罪は、同量の命をもって償うべきだと思わないかしら?」
この場にいる民衆らが、息を飲むのが分かった。
しかし、誰も反論できない。
私が言っていることが正しいから。
そして、神獣が納得できる賠償を出せる者が、誰一人として存在しないからだ。
相手が人間であったなら、賠償金だとか土地を渡すだとかで何とかなる。
しかし、相手は魔物。
そして、求めているものは金でも土地でもなく、『共存』なのだから。
「神獣様、いや、ヘレス様。どうか思い留まっていただきたい!」
この場にいる民衆の全員が死を覚悟したその時、声を上げた人物が一人。
私の覇気に屈することなく、跪く民衆の間を抜け私の前に立ったのは、コンサーヴィア王国第1王女ミネルヴァだ。
……当然打ち合わせの上でのパフォーマンスであるが、事情を知らない民衆からすれば、神獣に異議を申し立てる命知らずにでも見えるだろう。
「確かに我々人間の振る舞いは、貴女にとって満足に足るものではなかったことは分かります。ですが、『だから命を奪う』とは、早計と言わざるを得ません」
直後、フューラが放った極大の雷がミネルヴァのすぐ横を掠め、地面を穿つ。
一瞬だけ凄まじい閃光が一帯を包み、轟音と共に地面にクレーターを残した雷は、しかしミネルヴァへダメージを与えないように完璧にコントロールされた魔法であった。
「今、あなたの口から出る言葉に、国民全ての命がかかっていると知りなさい。発言を許す、続けろ」
即死級の魔法が身体を掠めても、ミネルヴァは顔色一つ変えることはない。
これこそが王族だと言わんばかりに、その眼には強い意志が宿っていた。
「我々人間は、ヘレス様に何かをしてもらおうとは考えていません。ただ、見ていてほしいのです」
ヘレスからの返事はない。
続きを言えという、無言の圧力を感じ取ったミネルヴァは、ヘレスを見つめてはっきりと言葉を紡ぐ。
「今この場にいるのは、魔物を信仰する者ばかりです。魔物を排斥し、武力によって繁栄を目指す愚かな者たちは、他でもない貴女の手によって消え去りました。ならば、今一度国が変わるチャンスをいただきたいのです」
『見ていてほしい』とは、魔物を排斥するものが居なくなり、『共存派』ばかりとなったコンサーヴィア王国がどのように変化するのか、魔物の目線から見ていろということなのだろう。
「貴女を恐れ、貴女に対し不安を抱く者もいる。しかし、貴女に勇気を貰い悪魔に立ち向かった者達でもある。そんな彼らがこれからどんな国を作り上げるのか……貴女に見ていてほしいのです。しかしそれだけでは貴女の気は収まらないでしょう。だから……貴女に捧げる命は、私一人の命でご容赦願いたい」
跪いて成り行きを見守っていた民衆が、ハッとした様子でミネルヴァへと目を向ける。
彼女の言葉は、『自分の命と引き換えに、国民には挽回のチャンスを与えてほしい』という意味に他ならない。
ミネルヴァ様は王女という立場でありながら、自分の命を投げ捨ててでも国民を守ろうというのだ!
「……その提案を、私が飲むと?」
「はい。なぜなら……もし貴女が今の私の立場なら、同じことをしたでしょうから」
「…………分かったわ。この場ではあなたの命を預かり、代わりに国民へは手は出さないでおいてあげる。けど、これで国が変わらなかったら……私が無駄だったと判断したら、即座にこの国を滅ぼす。それでいいわね?」
「寛大な心に感謝します……。しかし、次なる王は必要。戦争の引き金を引いたマルクスは論外、私はヘレス様に命を握られている故……第2王子アーノルドを王に据えるのは如何かと」
「……信頼できるの?」
「彼は以前より国を追放されていた故、悪魔の息がかかっていないことは確実。そして魔物を想う心を持っているからこそ、変わり行くこの国を上手く導けると信じています」
「そう……それならアーノルド」
「はっ」
薄幸王子ことアーノルドが、私の前に出て跪く。
「あなた達が崇める神獣として命令する。この国の王となり、我ら魔物と共存する国を作り上げてみよ」
「神命、承りました!」
私の宣告を受けたアーノルドは、芝居がかった所作で立ち上がると、民衆を振り返って声を張り上げる。
「たった今、神獣様の命によりコンサーヴィア王国の国王となったアーノルド・コンサーヴィアである! この場にいる全員が聞いたであろう。もう二度と、神獣様を裏切ることは許されない。しかし、魔物の大切さを知る我々なら……この国を生まれ変わらせ、かつてのコンサーヴィア王国のように魔物の共存する地を作ることができる! 私についてこい!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
民衆にとっては、自分達の目の前で、しかも神獣様に直々に任命されての、国王の誕生である。
まさに神話の一節そのものであり、間違いなくコンサーヴィアの伝説に刻まれるであろうその瞬間に、反対の声など上がるはずもない。
自らが新生コンサーヴィア王国の建国者なのだと、民衆は神獣様に認められる国を作ることを、固く心に誓ったのだった。
何しろ失敗すれば、もう二度目は無いのだから。
♢♢♢♢
「あそこまでやれば、もう誰も文句言えないだろうね」
パラクレート大迷宮内にある、私の住処の一部屋で、ミネルヴァは寛いだ様子でそう言い放った。
「まぁ、誰も最初からあなたと私が繋がっていたなんて、思いもしないでしょうし」
「私は神獣様の生け贄ってことになってるから、面倒な王家のしきたりやなんかから逃げてスローライフを謳歌することができる。アーノルドは見事国王になることができた。ヘレスも、自分の息がかかった人物を王に据えたことで、人間との共存に大きく近づいた。ハッピーエンドとはこの事だな」
表向きは、ミネルヴァは自らの命と引き換えに国民を守った英雄。しかし実際は、前世からの知り合いであるヘレスの下で悠々自適に暮らす一人の少女だ。
体よく隠居生活を手にした形になる。
そんな中、一人浮かない顔をしている王子が一人。
「……とにかく行政部の回復を、いや住民の治療と遺族への賠償が先決か? 一度各国の王とも顔を合わせないと……兄上とエルドリスの所業は誤魔化せないな。国民への説明も……お二人はいいですよね、楽そうで……」
「死んだことになってるから手を出せないしな」
「私も見守ることになってるから」
「最初から私に全て押し付けて、自分は隠居するつもりでしたね?」
「何を言うか。愚弟が王座につくという夢を叶えてやったのだ」
「というか姉上、なんだか随分性格が砕けていませんか? それが素ですか?」
「馬鹿を言うな、愚弟。王族たるもの、いくつもの顔を使い分けて然るべきであろう」
「私としては何か悍ましいものを見た気分なのですが」
「なんでもいいけど。薄幸……じゃなくてアーノルド、王様として上手くいきそうかしら? 必要であれば、あのメイド達5人を貸すけど」
「メイド達って……彼女達も魔蜂でしょう……」
「ううん、今は女王魔蜂だけど」
「はっ……!? 女王魔蜂? 5人全員が?」
「見ても分からないものかしら。……メイド服を着た5人の女王蜂に囲まれるなんて、夢のような光景ね?」
「……余計なことは考えないようにしよう。とにかく巨大な戦力があることだけ分かっていれば……」
「女王魔蜂の変異体が5人だもの。コンサーヴィア王国以外の全ての国を相手にしても勝てるわよ」
「ハハハ……では近々5人とも、そしてヘレス様も手伝ってもらって良いですか?」
「いいけど、そんなに戦力を集めて何を企んでるのかしら?」
「これからコンサーヴィア王国を発展させるための第一歩です。……『黄金の国エルドランド』と『珠玉の国アージェント』、この二つの国と国交を結びます」
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