まさか、悪魔を倒して全て終わりだなんて思ってないわよね?
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すみません、ストックが無くてなかなか更新できない現状です……
私が自分の手元に召喚したのは、『聖剣』であった。
聖なる剣を魔物が手に取るという矛盾……しかし聖剣は眩い輝きを放ち、彼女こそが持ち主だと認めているようであった。
「コンサーヴィアの民よ、聞け!」
聖剣を掲げ、声を張り上げる。
風魔法の応用で、かなり遠くまで私の声は届いているだろう。
「王国は今、悪魔の脅威に晒されている。原因は他でもない、第一王子派の奴らだ」
不思議なほどに喧騒が静まっていき、誰もが私の言葉に耳を傾ける。
「このまま、奴らに国を渡していいのか? 悪魔と手を組み、民を犠牲にして自分達の地位を得ようとした奴らに!」
民衆の目に、炎が宿る。
それは今まさに自分達を脅かしている存在への怒り、そして逃げ惑うことしかできない自らへの怒りだ。
「否、それは決して許されることではない。他人を蹴落としてまで地位を得ることは、初代コンサーヴィア国王への冒涜ではないのか?」
その通りだ。
魔蜂との共存の下に発展したコンサーヴィア王国、この国を作り上げた最初の王は、富を分け合い、苦を共にする意志の持ち主だ。
こいつらのしたことは、あまりにも道を逸れている。
「立ち上がれ! 剣を掲げよ! これ以上、この国に奴らの好きにさせてはならない!」
目に、脚に、武器を握る手に力が戻る。
先程までの恐怖が嘘のように消え、代わりに心に渦巻くのは、立ち向かう勇気だ。
「戦え! 自らの手で、この国を守るのだ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
逃げることしかできなかった民衆が一変、武器を手に、動く屍と化した衛兵へと立ち向かう。
彼らは全員、何かの加護を得たかのように淡い光を纏い、普通では考えられないほどの強い力を発揮していた。
勇者とは、チート能力を得て『俺TUEEEEE!』する者ではない。
何があっても、立ち向かう勇気を持つ者。
そして、守るべきもののために立ち上がる者に、勇気と力を与える者だ。
聖剣の加護を受けた民衆が勢いを取り戻し、操り人形と化した衛兵とぶつかり合う。
悪魔の力を得たとはいえ、すでに絶命している衛兵が、生前のように動けるわけもない。
聖剣の加護を受けた者と戦えば……その結果は明らかだ。
衛兵は次々と討ち取られ、聖なる力によって浄化されて二度と動くことはなかった。
「さて、あとはあなただけね?」
「くそっ、貴様とその聖剣さえなければっ……!」
「なら、次はどうするのかしら」
「ならば貴様を殺して奴らを再び支配するのみ! 駒はいくらでもいるのだからなぁぁぁっ!!」
操り人形となっていた衛兵達が突如として崩れ落ち、その身体が黒い煙となって消えていく。そしてその煙が悪魔アガレスへと流れ込み、アガレスの姿も変化していく。
身体は一回りも二回りも大きくなり、筋肉は肥大化し、見る者に恐怖を与えるまさに『悪魔』そのものの姿だ。
「我は人間を喰らうほどに強くなる! 数百という人間を喰らった我は———」
「そういうのいいから」
一閃。
目にも留まらぬ速さで振り下ろされた聖剣が、悪魔の腕に食い込み、抵抗など無いかのように斬り裂いた。
ズンッ———と音を立てて腕が地面に落ち、切断面からは赤黒い煙のようなものが溢れ出て空気に消えていく。
悪魔アガレスは痛がるでもなく、信じられないものを見るかのように目を見開いていた。
「なっ———」
「数百人食べたぐらいで強がってるなんて……無知って悲しいわね」
「貴様……どうやってそこまでの力を……」
「最近、人間の国が一つ滅んだのを……悪魔なら知らなくても仕方がないのかしら」
「それは正体不明の……いや、まさか———」
「知ってるのなら話が早いわね。そうよ……あの国にいた数百万人は、私のお腹の中……」
「っ!!」
私はちょっと鬱になってたから、実際にはあそこの人間を食べたのは私ではなくて配下の魔物達だけど。とはいえ、『強欲』で力を奪ったのは事実。
まさか、悪魔に怖がられる日が来るなんてね。
一方、悪魔アガレスの心中はそれどころではない。
まさかこれ程だったとは……。
決して手を出していい相手ではなかったのだ!
このままでは手も足も出ずに間違いなく殺される!
逃走を選んだ悪魔アガレスの判断は、間違いではなかった。
が、そもそも敵対した時点で、悪魔アガレスの運命は決まっていたのだ。
「っ!?」
今まさに飛び立たんと広げた翼が、切り落とされて地面に落下する。
そして、地面に落ちた身体を貫く鋭い痛み。
聖剣が自身の心臓を貫いたと理解したときには、すでに身体が動かなくなっていた。
「ま、待てっ、取引をしよう! 貴様は……いや、貴女の力は凄まじい。もし我と契約して力を得たら、この世界を支配できる程———」
「却下で」
「ガッ———」
白銀の剣閃が宙を裂き、ゴロン——とアガレスの首が転がる。
本来であれば、たとえ首を落とされても回復できるのだが、聖なる剣の力がそれを許さない。
持ち主であるヘレスの力が規格外ゆえ、数百、若しくは千人以上の人間を食らった悪魔の力さえ一瞬で無効化され、アガレスは二度と起き上がることはなかった。
アガレスが死んだことによって残りの衛兵もその場に崩れ落ち、こちらも二度と動くことはない。
「「「う……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」
民衆の誰かが声を上げ、それをきっかけにこの場に歓声が響き渡る。
国を脅かす悪魔を倒したのだと、自身の手で国を守ったのだと。
勇猛なコンサーヴィアの民は、各々に武器や拳を振り上げ、感情のままに叫んでいた。
……でも残念ながら、まだ終わりではない。
少し手加減しつつ、『魔王覇気』を解放。
凄まじいばかりの覇気で民衆を黙らせ、襲い掛かる威圧に平伏する民衆を睥睨し、地面に聖剣を突き立てる。
「次はあなた達の番ね?」
ここからは、盛大なマッチポンプの始まり始まり……
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