女王蜂 フューラ(別視点回)
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なんかフューラちゃんが可愛い……可愛くない……?
「ふーん……結構やるじゃん」
悪魔の衛兵を相手に、凄まじいばかりの高威力の魔法で殲滅しているノインとエルティを上空から眺め、フューラはそう呟いた。
フューラは以前から、ノインやエルティ……他の働き蜂と比べて劣等感を持っていた。
生まれた時期はほとんど同じであるのに、彼女達と比べて一回りも二回りも小さい体躯。
特に何かに秀でた訳でもない、少ない魔力。
見た目も幼いと見られるからか、ヘレス様にもそう見られていることがある。
魔蜂は同族意識が強く、フューラが劣っているからと追放されたりはしない。
けど逆に言えば、それは劣等感を持つ対象と常に一緒に生活するということだ。
フューラにとってそれは、辛い日々だった。
プライドは一人前にあるフューラは、弱く見られたくないからと口調が強くなってしまうのはいつものことであった。
だからこそ、せめてできることはと、繊細な魔法の扱いを磨いてきた。
寝る間も惜しんで訓練してきたその力は、ヘレス様のコロニーの中では誰にも負けないという自負がある。
…………前言撤回。
ボクなんかよりずっと長い時間をヘレス様と過ごしてきたラクネア様は別格だ。
ラクネア様の戦いを見たことがあるけど……山頂が雲に隠れた山を見上げているような気分だった。
でもまぁ、あれは文字通り格が違うからと、割り切ることはできる。
はぁ……ラクネア様……。
あっ、そんなことを考えてる場合じゃなかった。
ヘレス様からは、『国民を逃がすこと』と『衛兵を殲滅すること』を命令されている。
衛兵の相手をできる者が少ないからと、ボクはこの辺りを一人で対応しないといけないのだ。
いつまでも手をこまねいているわけにもいかない。
それに……
「今はボクが一番だもんね」
♢♢♢♢
砂漠特有の強い日差しの下でもはっきりと分かるほどの閃光が、戦場を包み込む。
直後に鳴り響く炸裂音。
晴天にもかかわらず発生した雷は直撃した衛兵を跡形もなく消し飛ばし、地面にクレーターを作り出した。
そこに降り立つ人物……いや、魔物が1体。
子供のように幼い見た目だが、その優雅な振る舞いや覇者のオーラが、明らかに上位の存在だ。
それもそのはず。
この場に居るのは、女王魔蜂のフューラなのだから。
「ねぇお兄さんたち、ボクの遊び相手になってくれる?」
「グッ……き、貴様……」
「あれ? お兄さんは喋れるんだ」
ノインやエルティのところを見てたけど、相手はみんな正気を失ってたんだけどなぁ。
もしかしたら、精神力が影響しているのかも。
これはヘレス様にも伝えてあげなきゃ。
「グッ……アァァァァッ!」
「おっとっと」
斬りかかってきた衛兵の剣を、ひらりと避ける。
いくら喋ることができると言っても、やっぱりまともではないらしい。
正気だったら、明らかに格上の女王蜂になんて戦いを挑むわけないもんね。
「言葉が分かるなら、ちょっとお話ししようよ。……本当はね、ボクは怖かったんだよ? 剣も魔法も痛いし、すごい殺気とか向けてくるし」
乱雑に振り回される衛兵の剣を躱し続けながら、フューラは声をかけ続ける。
「でもね、おかげで『これが戦いなんだ』って分かったんだ」
この衛兵の速さも凄まじいもので、一撃でも受けたら絶命すると思わせるには、十分なほどの威力が感じられる。が、それでも……掠りもしない。
「ここに来るときにも、皆すごく心配してきてさ。テレータなんか、『一緒に行く』って言い出しそうだったんだから。そんな心配いらないのにね? だってボク……」
その言葉を最後に、フューラの姿が消えた。
何の前触れもなく、まさに『消滅した』と表現するしかない光景だ。
いかにしてそれを実現したかはフューラの口から語られたが、すでに絶命した衛兵はそんなことなど知る由もない。
「……一番速いんだもん。って、聞こえてないか」
フューラの声は衛兵の背後……10mほど離れた場所から。
『瞬間移動』と紛うほどの速度で移動したフューラは、つまらなさそうに左手に掴んでいた衛兵の頭部を投げ捨てる。
直後、フューラの手から落下した衛兵の頭部は、どこからともなく発生した雷に打たれ灰となって消滅した。
彼女の後方では、首のない衛兵の身体がようやく絶命したことを理解したかのように、鮮血を撒き散らしながら崩れ落ちた。
フューラが女王蜂に進化した際に手に入れた魔法は、『霹靂の女王』。
自然そのものを味方につけた、破滅的な魔法である。
魔力を解放するだけで、辺り一帯に無数の雷を降らすことができるほどのその魔法は、フューラの繊細なコントロールによってさらに進化していた。
すなわち、『電気によって肉体をコントロールする』という方法だ。
魔力を含む電気で内側から活性化したフューラの肉体は、音速を軽々と超えていく。
元々持っていた繊細な魔力コントロールと、女王になったことで進化した魔法、そして肉体と精神が追いついたことによって誕生した、最速の女王蜂であった。
しかし、彼女の魔法は、これだけに収まらない。
「ボクが一番たくさん狩って、皆に自慢してあげるんだから」
パリッ……と小さな音を立ててフューラの指先から放たれたのは、完全に制御された小さな小さな一筋の雷。それは、吸い込まれるように頭を失って倒れている衛兵に降り注ぎ———
一度ビクンッと跳ねた衛兵の身体は、まるで天から糸で釣り上げられているかのようにぎこちない動きで立ち上がり、まだ生きている別の衛兵へと襲い掛かり始めた。
「ん……ちょっと難しいな……こうかな?」
フューラがその細い指をタクトのように振るう度に、操られているかのように……いや、実際に操られている衛兵の身体は、不自然に動いて剣を振るい続ける。
フューラは決して、『電気とは何なのか』を理解しているわけではない。
ただ、『どこにどう電気を流せば、身体がどう動くのか』を経験的に知っているだけである。
フューラが操る衛兵にほんのわずかでも手間取れば、次の瞬間にはフューラの手によって殺されていた。そして殺された衛兵はフューラに操られ……
2人、4人と増えていくフューラの操り人形は、頭がないゆえに自分の意思で動くことはない。
すでに人間どころか生物ですらなくなった彼らはただ、女王に従って歩を進めるだけであった。
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