なんなのよもう、次から次へと……!
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「カローネ!」
私は転移してすぐ、最愛の我が子の名前を叫ぶ。
ほんの一部とはいえ、私のステータスの一端を貰って強化された魔蜂を討伐できるほどの敵だ。
もしカローネにも何かあったら私は……
「お帰りなさい、姉上」
なんて思っていたら、まるでなんでもないようにカローネが出迎えてくれた。怪我も何もない、無事な様子のカローネに、思わず私は彼を胸に抱き寄せた。
「んむっ、ちょっ、姉上っ……」
「良かった、無事で……」
ぎゅぅぅぅぅっ。
「んんぅっ!」
私の胸の中からカローネの可愛い声が聞こえる。
正直このままカローネを可愛がりたいところだけど、そうも言ってられない。
私に念話を送ったノインをはじめ、配下の魔蜂の救助が優先だ。
「カローネ、人間は?」
「姉上のご命令通り、私が殲滅しました」
「良かった……じゃあ、カローネは人間どもを集めておいて。私は配下の魔蜂を回復させるわ」
「畏まりました」
私の命令に従い早速動き始めるカローネを見送り、私は倒れたままの魔蜂の下に向かう。
「ヘレ……ス様……私……」
「喋らないで、今治すから」
《魔法を極めし者》の称号と溢れんばかりのMPがあれば、お腹を貫かれたぐらいの怪我ならなんとかなる。
私は魔法陣でノイン、シフル、エルティ、テレータ、フューラの5人を包み込むと、魔力を流し込んで怪我を治療していく。
この時に使った欠損部位の再生が、人間の神官が複数集まって発動する儀式魔法レベルのものだというのは、後に知ったことである。
削られたHPは【ヒール】で、MPは【女王の下賜】によって分けてやり、乱れた服と髪を直してやれば……これでようやく完全復活。
何かを思い詰めた表情の5人を尻目に、次は働き蜂のところへ……と行きたかったが、私は思わず脚を止めてしまった。
真っ二つに千切られた胴体。
散乱する身体の一部。
原型が分からないほどグチャグチャにされた―――
―――あの時の、ドラゴンに襲われ生き残った時の光景がフラッシュバックし、眩暈を起こした私は、気がつけばカローネに支えられていた。
「姉上、大丈夫ですか?」
「っ……」
「……大丈夫ではなさそうですね」
声が出ない。
これが現実だと思えない。
いや、思いたくない。
今回は、ドラゴンのような事故ではないのだ。私が戦えと命令した、その結果だ。
つまり、私が殺したのと同じ……
いやだ。
失いたくない。
何者にも脅かされない、強大な国を作ると誓ったはずなのに。
我が子達に、こんな思いはさせたくないのに。
どうすればいい?
私は《魔導を極めし者》だ。
私の命を削ればあるいは……
「それはいけませんよ、姉上」
不意に耳に届いたカローネの声に、ハッと顔を上げる。
「どうして……」
「姉上の考えくらい分かります。どうせ、自分の命を削って蘇生をしようとでも考えたのでしょう」
「っ……」
「図星ですね……ダメです。私達にとって、姉上こそが最も尊い存在。もし姉上が自身の命を削ろうものなら、貴女の配下全てが悲しむでしょう」
「なら……どうすれば……」
「勇敢に戦った彼らを弔いましょう。そして、生き残った彼女らを迎えてあげてください」
「そう……ね」
未だにふらつく脚に力を入れ直し、悲痛な表情で俯く5人を順に抱き締める。
「んっ……」
「ヘレス様……?」
「私のせいで、ごめんなさい……よく生きていてくれたわ……」
「そんなっ、ヘレス様っ……!」
「ち、違いますっ! 私達は無能で……ヘレス様に任されたにもかかわらず家族を死なせてっ……」
「ヘレス様の気が収まらなければ、私達の首を差し出します。それで、どうか……」
「ダメに決まってるでしょ。怒ってない……怒ってないから……これ以上私の側から居なくならないで……」
「「っ……ヘレス様っ……」」
♢♢♢♢
「さて、姉上」
「……何?」
戦死した働き蜂のために墓を作り祈りを捧げた後、いつもと変わらない様子のカローネが声をかけてきた。
「話はいくつかありますが、まず一つ。……今回の一件で、私達の弱点が明らかになりましたね」
「弱点……と言えば確かにそうね……」
カローネが言いたいのは、集団ではどうにもならない、強力な個の出現だ。
魔蜂の生態上、基本は群で行動し、獲物を狩り、敵と戦う。今まではそれでなんとかなっていたし、多少強い相手でも群で対応できた。
しかし今回現れた人間は、『悪魔』と呼ばれていた正体不明の何かの力を使い、数の有利が全く働かない相手であった。
すると、途端に太刀打ちできなくなってしまうのだ。カローネが言わんとすることは、それに対応できるのはたった4人……私とカローネ、バエウス、ラクネアだけの状態を危惧しているということだ。
「そこで、我々に次ぐ実力者を育てる……例えば、彼女達を強化するなど。もしくは、なんらかの方法で新しい戦力の獲得を目指しては?」
「……戦力の強化はどれだけしてもいいものね。両方やりましょう」
「ぇっ……私達を強化……ですか?」
ずっと顔を伏せていた彼女達が、カローネの言葉の反応して顔を上げた。
「それが妥当でしょう? 貴女達も私と同じ魔蜂なのだし、強くなれる素質はあるわよ」
まぁ、私の場合はチートスキルがあったわけだけど。
「でも……私達は……」
「えぇそうです……今回の責任を取って……」
「首を差し出しますって? バカ言わないで。今回人間に負けたのであれば、次は勝てるように強くなればいいじゃない。何より、貴女達を失う方が私にとっては損失が大きいわ。……あなた達を強化する方法があるとしたら……受け入れてくれるわよね?」
「……まさか姉上にここまで言わせて、どうすればいいのか分からないわけではありませんね?」
自身の直属の上司と、神様のように崇拝する相手にそう言われたら、もはや従うしかない。5人は、淀みない所作で片膝を突き、忠誠を示した。
「「「「「かしこまりました。仰せのままに!」」」」」
「お願いね」
彼女達の頭を軽く撫でてやる。
この子達の他にも魔蜂は大勢居るし、メガロヘラクレスとナイトメア・クロウラーと……あとインスタ番長と斬り結んだ剣聖ゴブリンも居る。鍛えればめちゃくちゃ強くなる素質を持つ仲間はたくさんいそうだ。
「姉上、2つ目ですが……」
「えぇ」
カローネの懸念は、『悪魔の力』とやらを持っている人間の兵士があとどれぐらい存在するのか、ということだ。
働き蜂だったとはいえ、私やカローネが目をかけていた彼女達を追い詰めるほどの強さだった。
私だったら、そんな力を与えられるのなら配下全員に与えるだろう。
実際にそうしてるしね。
つまり、相手の兵士が全て『悪魔の力』を持っていてもおかしくはない……。
あれ?
今戦ってる冒険者や一般市民って、ピンチじゃない?
『ヘレス! すぐに戻ってきてくれ! クソッ、やられた!』
不意にミネルヴァからの念話が届く。
こちらも非常に焦った様子だ。
もうっ!
こっちは色々あって傷心中だってのに次から次へとなんなの!?
『緊急事態だ! 国王が殺された!』
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