悪魔の力(別視点回)
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不定期ですみません。
戦火の広がりは思ったより早い。
王宮内でも対応に追われ、薄幸王子も慌ただしく動き回っている。
そんな中、私とミネルヴァは比較的落ち着いたようで会議を進めていた。
女王蜂を生み出すほどのエネルギーの塊であるローヤルゼリーは私の手の中にあるし、現国王は『共存派』なのだ。
確かに私も魔物だけど、信仰対象になる女王魔蜂だ。
自分を助けてくれた神を邪険に扱うこともないだろう。
共存派の国民は、神獣である私の言葉を聞くだろう。
戦っている兵士は、回復した国王の言葉には逆らえまい。
そうして内戦が収まれば、あとは国王と私の間で同盟を結ぶだけだ。
作戦決行のため、いざ国王のところへ……
『ヘレス様っ!』
と思ったら、魔蜂部隊のリーダーの一匹から念話が届いた。
それも、何やらただならぬ雰囲気だ。
第一カローネを通さずに私に直接念話を送ってくるということは、即時に私の判断が必要なほどの異常事態が起こったに違いない。
なんとも言えない不安を抱え、私は先を促す。
「どうしたのかしら?」
『はい、先ほど侵入してきた人間どもに第一階層突破されました!』
……はっ?
待って、どういうこと?
魔蜂の部隊が突破された?
『人間の力じゃありません! もっと別の……悪魔のようなっ! 私の部隊は壊滅、今は他の部隊が応戦しております! このままでは——ブツンッ!——
「っ!」
念話が切れた。まさか、やられた?
相手は人間のはず、悪魔のような力?
どうやって……。
いやそれより、壊滅?
それって、死んだってこと?魔蜂が?
私の、家族が?
また、あの時のようにっ!
「カローネ! 侵入者を捕捉してる!?」
『姉上。はい、もちろんです』
「今すぐその場に向かえ!」
人が変わったかのような私の鬼気迫る雰囲気に、念話の相手であるカローネは息を飲んだ。
私の脳裏に浮かぶのは、あの時の……この世界に転生してすぐ、ドラゴンによって殺される魔蜂達の姿。
その相手は滅ぼしたとはいえ、その光景は私のトラウマとして焼き付いている。
二度と、あんな目には遭いたくない。
私の家族を、あんな目に遭わせたくない。その一心だった私は、迷わず引き金を引いてしまった。
「奴らを……侵入者を、殺せっ!」
♢♢♢♢
「おい、人間。ここがどこなのか分かっているのか?」
私は黒い鎧を身に纏った10人の人間の前に立ちはだかる。こいつらは敬愛するヘレス様の住処を脅かすだけでなく、そのヘレス様が害そうと言うのだ。
その事実だけで、こいつらの死刑は決まったようなものだ。とはいえへレス様は無駄な殺生を是としない意向だ。
だからこそ、最初で最後の警告を発する。
「お優しいヘレス様は、お前らのような悪人にも慈悲を与えてくださるようだ。今すぐここから立ち去れ。でなければ、死よりも辛い苦しみを味わうことになる」
私が片手を上げると、私の周囲に無数の魔蜂が群れを作る。ヘレス様が与えてくださった力によりその全てが変異体であり、一体一体が並の冒険者など歯牙にもかけない強さである。
そんな魔蜂の、数百にも上る群れだ。普通に考えれば勝てる道理など無い。
――にもかかわらず、なぜこいつらは動揺すらしないのだ……?
しばらく顔を付き合わせて何か話をしていた男の一人が、ようやく口を開いた。
「お前が『ヘレス』とやらか?」
「っ! 私などを偉大なヘレス様と間違えるなど……! 私はヘレス様から頂いたノインという名がある」
「間違えてなどいない、確認しただけだ。……目的の魔物にしては弱いと思ったのだ」
「もういい。苦しみながら死ね」
私が手を振り下ろすと、待ってましたとばかりに魔蜂の群れは男達に殺到し、その姿はあっという間に蜂球に包まれ――
どす黒い魔力が内側から弾け、魔蜂を貫き……異形に変異した男達の姿が現れた。
ある者は右腕が黒く変色し、魔蜂のような歪な突起を備えた形に。
ある者は両足が変異し、蹄を備えた獣のような形に。
ある者は上半身全てが。ある者は全身が……。
いずれも元々の人間の姿とはかけ離れたアンバランスさであり、彼らが放つ威圧感は、まるで自身が畏怖するカローネ様やバエウス様を彷彿とさせる――
「こいつはさっさと排除して先に進むぞ」
人間のリーダーらしき人物がそう指示すると同時に戦闘が始まるが、もはやそれは戦いと呼べるものではなかった。
♢♢♢♢
「グッ……なんなのだこいつらはっ!」
「なんでっ、人間なんてざこなんじゃないのっ……!?」
「フューラちゃん危ないっ!」
「ノイン! 今のうちにへレス様に連絡をっ!」
数百にも上る働き蜂が撃墜され、既に私の部隊は壊滅だ。
私の友でもあるシフル、エルティ、テレータ、フューラが駆け付け人間どもを抑えてくれているが、彼女の配下も次々とやられている状態だ。
「ヘレス様っ!」
『どうしたのかしら?』
「はい、先ほど侵入してきた人間どもに第一階層突破されました!」
へレス様に悪い知らせをするのは、私の無能さを晒すようなものだ。いや、実際にヘレス様から賜った配下を死なせているのだから、私は無能で間違いがないだろう。
しかし、このままではヘレス様にまで危険が及ぶかもしれないのだ。
たとえ私の命に代えてでも、こいつらはここで止めなければならない。だが――
「人間の力じゃありません! もっと別の……悪魔のようなっ! 私の部隊は壊滅、今は他の部隊が応戦しております! このままではっ、グゥッ!」
目の前で彼女たちを吹き飛ばした人間どもの黒い魔力撃は、それでも尚勢いを衰えさせず私の腹部を貫いた。生まれて初めて感じる、焼けるような痛みに思考が纏まらず体の自由も利かない。
「魔物が、無駄な抵抗をしやがって」
「くっ……」
「これだけ追いつめられても反抗的なその目……意外と悪くねぇな」
「正気か? 相手は魔物だぞ?」
「でもよ、他の魔物よりは人間に近いし、顔と身体はなかなかいいだろ?」
「……ふん、勝手にしろ」
「そういうわけだ。俺のペットになるのなら生かしておいてやるよ」
「誰が貴様なんかにっ……!」
「俺はな、お前らみたいな反抗的なやつを調教するのが好きなんだよ。奴隷の首輪を嵌めてやれば攻撃もできなくなるしな」
「っ……クソ共が……!」
人間の一人が、強力な魔力が込められた錆付いた首輪のような物を持って私とティオに近寄ってくる。抵抗したいが既にMPは底を尽き、怪我のせいで身体がいうことを聞かない。
へレス様を裏切り、人間に下るなど……命を差し出しても許されざる大罪。
そうなるぐらいなら、この命など自ら――
「っ!? 全員下がれっ!」
人間どもの一人が突然叫び、直後、私の目の前に複雑な魔法陣が現れる。
まず感じたのは、尋常ではないプレッシャー。まるで、心臓を握りしめられているかのような凄まじいものだ。
「何を遊んでいるのかと思えば……人間相手に情けないですね?」
魔法陣から現れたその者は、私が神の如く崇拝するヘレス様のご兄弟———カローネ様であった。
最近『アネックス・ファンタジア』ばかり書いていて……ちゃんとこっちも書きますよ?
たぶん……




