どうも私のあだ名がさらに増えたらしい
評価・ブックマークありがとうございます!
投稿が遅れましてすみません。
日が傾き始めた夕刻、もう何十分も、パラクレート大迷宮の入り口に向かって祈りを捧げる人達が居る。
王都よりかなり離れた砂漠のど真ん中のこの集落は、コンサーヴィア王国の中でも特に貧困が激しい場所らしい。
それに加え、ここ最近続いた干ばつの影響も相まって作物はほぼ全滅。
老いも若きも全員が痩せ細り、皮と骨しかないような状態で、もはや神に祈るしかないほどに追い詰められた者たちだ。
……これ、私に何とかしろって?
「ん、きっとそう」
「ラクネア、人の心を読まないで」
「ごめん。でも、口に出てた」
あら、そうだった?
「でもそれをやっちゃったらさ、ただの魔物では居られなくなるわよね?」
「いいんじゃない? 母さんはもうただの魔物じゃない」
確かにそうかも。
ならダメでもともと、やりたいようにやっちゃおうかな。
『空間転移』を使い村人たちの前に姿を現すと、一拍おいてざわめきが広がった。
今は人化なんて使ってないから、ヒトとも魔物とも似つかない私の姿は、村人たちにとって異形に見えたことだろう。
そんな私を、神ととらえるか悪魔ととらえるかは彼ら次第だ。
でもせいぜい、神に見えるように振舞ってあげようかな。
♢♢♢♢
この集落はもう、限界だ。
今までにないほどに続いた日照りによる干ばつで、作物はほとんど全滅。
そのうえ軍事拡張だかなんだか知らないが、食料の徴発によってただでさえなけなしの食料すら持っていかれる始末。
すでに体力のない子供たちからは何人も餓死者が出ているほどだ。
この国は、なんの得もないこんな村など、どうなってもいいのだろう。
ただ、生きたい。
でもそれは、奇跡でも起きない限りは叶えられないだろう。
縋るものは、もはや神しかいないのだから。
そんなとき、それは現れた。
人とも、魔物とも似つかない、歪な姿。
しかし、それはあまりにも神々しく———
それからは、夢のような光景であった。
女神の6本の腕が、まるで絵を描くように宙をなぞると、溢れんばかりの黄金の輝きが、村全体へと広がっていく。
するとどうだ。
もはや枯草と化していた作物が息を吹き返し、青々と葉を広げ始めたのだ。
深く、強く根を広げ、まさに『生き返った』という表現がぴったりだ。
彼女が空に視線を向ければ、瞬く間に雲が太陽を遮り、なんとぽつぽつと雨が降り始めたのだ。その瞬間、集まっていた村人たちは歓喜の声を上げたものだ。
雨が降った時間は、さして長くもない。
しかし、この村全体を濡らすには十分すぎるものであった。
雨が上がったころ、女神はすでに姿を消していた。
いつの間に作ったのだろうか。女神が去った後にはいくつもの井戸ができており、底には綺麗な水がなみなみと溜まっているのが見える。
そしてその側には、栄養価の高い魔蜂の蜜が大量に……。
これで、私たちは生きていける。
作物を生き返らせ、雨を降らせ、井戸まで作り出したその現象を『神の奇跡』だと言わずなんというのだろうか。
それから、私たちは女神のために祭壇を作り、祈りを捧げた。
私たちの『生きる権利』を与えてくださった女神に、最大限の感謝を———
♢♢♢♢
ふぅ、なんとか上手くいったみたいで良かった。
作物はほとんど枯れてたみたいなものだったんだけど、まだ生きてはいたから潤沢な私の魔力で無理やり復活させたよ。
でも復活させただけじゃすぐに枯れるだろうし、とりあえず雨でも降らせられないかなって、頑張ってみた。
水魔法で湿気を増やして空間魔法の応用で気圧を下げたりして……前世の知識を使って色々とやってみたら、上手くいったわけだ。
あとはこれから先のことなんだけど……何回も私が来るわけにもいかないし、どうしたものか……。あ、井戸でも作ればいいじゃん。
ってことで、穴を掘ることにした。
こんな砂漠のど真ん中で井戸なんて作れるのかってところなんだけど、この辺り一帯の地下には『パラクレート大迷宮』が広がっている。
当然、水源も。
そこで私は、魔法で大迷宮まで地面をぶち抜き、壁を魔法で固めて井戸を作った。
ポンプはないから、とりあえず滑車とロープがあれば水を汲み上げることができるでしょ。
まぁ一度手を出しちゃったし、これからも完全に放置するつもりはないよ。
『我々は女神に選ばれた!』なんて調子に乗らない程度に手を貸してあげるつもり。
あ、それと栄養失調だった子供達には、私が直接魔法で回復させてあげたよ。
さすがに飢えで苦しんでる子供の姿なんて、さすがに見ていられなかったから……。
いつの時代も、子は宝だからね!
いい子に育ってくれるといいなぁ。
誤字報告等もありがとうございます!




