その後日談(別視点回)
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更新が不安定ですみません……
「ライアンさんにレンカさん、お帰りなさい!って、ボロボロじゃないですか! 大丈夫ですか!?」
「いや、怪我は大丈夫だ……一応」
「そ、そうですか……? さすがはベテランの冒険者ですね」
「それがそうでもないんだ……とりあえず、これを見てくれ」
ライアンが背負っていた荷物を降ろし、被せてあった布を取り去る。その下から現れたのは、巨大なヴェノム・バジリスクの頭部であった。
Sランクにも上る魔物が素材として持ち込まれたことで、冒険者ギルド内にざわめきが広がる。
「おいおいおい!」
「とんでもねぇもんを持ってきたな!?」
「これはヴェノム・バジリスクですか!? そんな相手を討伐してしまうなんて……」
「あんたら勘違いするなよ? あたしらで倒したわけじゃないんだ」
騒ぎを聞きつけ、なんだなんだと集まった冒険者達に、レンカは苦笑いしながら口を開く。
「仕方ないね。気を失ってたから途中までしか分からないけど、何があったか語ってやろうじゃないか」
♢♢♢♢
「つまり、その、正体不明の魔物に助けられたと?」
「あぁ、そうだ。その魔物にどんな考えがあったのかは知らないがな」
「しかし、それはあまりにも突飛過ぎるのでは……?」
「まぁ信じられないのも無理はない。が、実際にヴェノム・バジリスクの死体があるんだぞ? それに見てみろ、ここ。ヴェノム・バジリスクの眉間に一撃だ。誰かこんな風に一撃でヴェノム・バジリスクを仕留められる奴は居るか?」
「「「…………」」」
もちろん、誰も答えられない。
そもそも、ヴェノム・バジリスクを倒せる人間など存在しないのだから。
しかし否定しようにも、実物が目の前にあるのだからそれもできない。防御力に優れたミスリル製の防具が大破していること、そしてそれほどの戦闘をしていたはずなのに掠り傷ひとつ無いライアンとレンカの姿が信憑性を増している。
「まぁあたしにとっては、その魔物が味方でも敵でもどちらでもいいのさ」
呆れたように手を広げ、首を横に振るレンカに、周囲の目が集まる。
「あたしらはその魔物に命を救われた。その事実だけで十分なのさ。コンサーヴィア伝説を信仰してるわけじゃないけどさ、つい思い出しちまったよな」
「……あの、それを言うなら私も……」
集まった冒険者達の中、おずおずと手を挙げた少女に注目が集まる。
「少し前のことでしたが、私のチームもレッドグリズリーに襲われたことがありまして……そのときに魔蜂に助けられたことがありました。でも、その、証拠とかもないので黙っていましたが……」
夢だったのかも……と言う少女の小声は、冒険者達のざわめきに消えていった。
「それなら俺も! 恥ずかしい話、大迷宮内で魔物から逃げて迷ったことがあってな、食糧どころか水もなく死にかけたところを魔蜂に捕まって……あぁ、これで死ぬんだなって思ったさ。けど気がついたら砂漠のオアシスに居てな。いやぁ、あれはコンサーヴィア伝説を思い出して身震いしたものさ」
「なんだ、あんたらもそういう経験あるんじゃないか」
この日の出来事をきっかけに、冒険者達の間で『人を助ける魔物』の存在の噂が爆発的に広がることとなった。
もちろん誇張や信憑性に欠けるものも多くあったが、もともとコンサーヴィア王国に根付く『人魔共存』の精神が拍車をかけ、その広がりは留まることを知らないほどであった。
そんな出来事があってから数日。
『人間を助ける魔物』の存在は多少の尾ひれが付きながらも、あっという間に広がっていった。もちろん冒険者達の間だけで収まるわけもなく、次第に一般市民へと広がり、ついには貴族、そして王族へと届いた。
そんなある日、いつに無い活気を見せる冒険者ギルドに、とある一団が押し入ってきた。
扉を乱暴に開け入ってきた彼らは一様の鎧と、剣や槍を装備し、胸には王家の紋章……彼らはつまり、第一王子派の騎士団であった。
「貴様らの魔物信仰、大変目に余るとマルクス王子が仰せだ。すぐに木像を撤去し、信仰を止めろ」
「……何を言ってるんだ?」
「分からなかったのか? 魔物の信仰を止めろと言っているんだ。貴様らのそれはマルクス様の意思に背く行為、反逆罪で捕らえるぞ?」
「……はっ、何を言い出すかと思えば」
「何……?」
「じゃああんたらは魔物に殺されかけたあたしらを助けてくれるのか? 病気で死にかけた子供を治してくれるのか? 安全な場所で威張り散らしてるだけのあんたらに何ができるって言うんだい」
「貴様、本当に王子の意思に背く気か?」
「こっちはね、その日の暮らしも命懸けなんだよ! 民のためとか言いながら騎士団ばっか強化して、あたしらの暮らしはちっとも良くならないんだから、あんたらと違って直接的に助けてくれるその魔物を信じるのは当たり前じゃないか!」
「貴様……」
「なんだい? ここであたしを斬り捨てようってのかい? やってみなよ。その瞬間からあんたらは冒険者全員を敵に回すことになるよ」
「っ……」
「分かったらさっさと帰りな。あんたらと違ってあたしらは忙しいんでね」
「……後悔するなよ?」
そうとだけ言い残し騎士団は去っていく。
「プッ……ハハハッ! 見たかい? あいつらの顔! 思い通りにならなくて苦虫を噛み潰したような表情は傑作だったね!」
「違ぇねぇ! 良く言ったぜレンカよぉっ!」
「だろ? あいつらのやり方にはずっとムカついてたんだ」
騎士団が去った後の冒険者ギルドには、いつにない明るい笑い声が響いた。
冒険者や一般市民の間に広がる『魔物の信仰』は留まることを知らない。
そしてある時、そんな熱心な信者を増やす、決定的な出来事が起こる。
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