伝説の再来(一部別視点回)
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最近更新が不安定ですみません。
「くっ……そ、レンカ、お前だけでも逃げろっ……!」
「何言ってんだい! 二人で切り抜けるよっ!」
倒れ込むライアンを介抱しつつ、鼓舞するように声をかける。とは言え、状況が絶望的であることは、あたしも彼も分かっていた。
あたしらだって、冒険者としては初心者ではない。今までに何度も死線を潜り抜け、二人ともレベルは20にも届くベテランの冒険者なんだ。
格上の相手とだって何度も戦ってる。
しかし今回ばかりは相手が悪すぎた。
人間を一飲みにできそうなほど巨大な鎌首をもたげ、赤く輝く眼とナイフかと思えるほどに鋭い牙がこちらを覗いている。
Sランクオーバー、『ヴェノム・バジリスク』。
『ポイズン・サーペント』の最終進化形である。この個体はまだ小さい方であるが、それでも体長は20mにもおよび、その毒はどんな猛獣でも1時間もせぬうちに殺すと言う。
もちろん、レベルもステータスも、人間では決して到達できない程に高い。そんな相手に、勝てるわけが無かった。
なんでこんな浅い階層にそんな化け物が……なんて愚痴は、生きて帰ってからで十分。
今はこの場を切り抜ける……!
「っ!」
まるでハンマーを振り下ろすかのような勢いで繰り出した噛み付きを、ライアンを咄嗟に引き摺ってなんとか避ける。そのあまりの威力に、ヴェノム・バジリスクの鼻先が地面を砕き、岩の破片が飛び散る。
「ぅっ!」
「レンカ……っ、無理はするなっ……!」
「無理してんのはあんたでしょっ!」
毒を受けて身体が麻痺し、まともに動けないくせに私を守ろうとするライアンから盾を奪う。そして、その盾で2度目の噛み付きを受けた。
「くぅっ……!」
あまりの威力に、あたしは数秒も堪えられずに吹き飛ばされる。
ただの体当たりでこれだ。こんなの……
「ぐあっ!」
「レンカ……!」
突如として身体を襲った、全身がバラバラになりそうなほどの衝撃。ヴェノム・バジリスクの尻尾があたしの身体を捉えたのだ。
身体が軋む。骨が砕ける音がする。
なんだかやけにスローモーションになり、ぼんやりと薄れ行く視界には、ライアンの苦しそうな表情。
そして……
あれは、何……?
吹き飛ばされたあたしに身体を引き摺って近寄るライアンと、彼の背中を狙うヴェノム・バジリスクとの間。
突如として姿を現したそれは……漆黒に身を包み、6本の腕、4枚の羽、天使とも悪魔とも見えるその風貌は、あまりにも美しい……
あたしの記憶はそこで途切れた。
♢♢♢♢
とりあえず危なそうな冒険者の二人組が居たから来てみたけど、ここせいぜい2層目よ? なんでヘビが居るわけ?
まぁなんとなく予想は付くけど……。
突然現れた強力な魔物に追いやられて、下層から逃げてきたんでしょ。
つまり、その、なんだ。
私のせいですか。そうですか。
本当だったら、ヘビが浅い階層に現れようが、人間が死にかけようが私には関係ないんだけど、こうして助けに来たのは黒崎……じゃなくてミネルヴァの提案に乗ったからだ。
曰く、『ヘレス達のような魔物の存在を認識させるなら、冒険者が狙い目だ』とのこと。できる範囲で冒険者を助けてやり、認知させてやろうという作戦である。
『国をぶっ壊す』ための第一歩として、私に課された仕事である。
うーん、あれだけの人を殺しておいて今さら感はあるけど……。
まぁいいや、とりあえず今はヘビをなんとかしよう。配下の魔物もかなり増えてるし、エサが足りてないんだよね。
ヘビって、意外と美味しいんだよ?
『水魔法』+『急所撃ち』+『禁忌の憤怒』のコンボを発動。相手のVITを無視した水の弾丸が音もなくヘビの眉間を撃ち抜き、一瞬でその命を奪う。
じゃ、あとは『収納』にしまっておいて……いや、頭だけは残しとこうかな。この二人に持って帰ってもらって、話を広めてもらおう。
おっと、肝心の冒険者二人組を忘れるところだった。女の方は……かろうじて息はある。けど、瀕死の状態で、夥しい出血と変な方向に曲がった手足……内臓もヤバいかな。
じゃ、ちょっと強めに『ヒールオール』!
白く輝く複雑な魔法陣が女を囲み、その怪我を癒していく。まるで時間が巻き戻るかのように折れ曲がった手足は元の形に戻り、肌の傷も消え去り、死相が浮かんでいた表情が穏やかなものに変わっていった。
とりあえず女の方はこれでオッケーでしょ。
鑑定で見ても、状態は普通に戻っている。
んで、男の方は……こっちは毒なのね。『クリア』!
先程と同じく白い魔法陣が男を囲み、淡い光がその身体を包み込む、次第に黒い靄のようなものが男の身体から抜けていき、抜けていくにつれて男の血色も良くなるのが見て取れた。
『クリア』は状態異常を治す魔法だ。目立つ怪我は無さそうだし、『ヒールオール』使ってもあんまり効果無いんだよね。
減ったHPは『リジェネ』で回復してやれば……これで元通り!
「んっ……くっ……いったい何が……」
おっと、女の方も目を覚ましたかな?
理解できないといった表情で私を眺めていた男の方も、声をあげた女に視線を向けて、私から視線を外している。
ちょうどいい。じや、私はこれで!
『空間転移』!
「まさか、死んだと思っていたレンカが目を覚ますなんて、あんたはいったい……あれ?」
男が再び顔を上げた頃には、すでに私の姿はない。
あるのは、切り落とされたヴェノム・バジリスクの頭部だけであった。
誤字報告等もありがとうございます!




