増殖するメイド達
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少し間が空いてしまい申し訳ありません。ちょっと諸事情がありました。
「おはようヘレス……じゃなくてヘレナ」
「……まだ私の名前を呼ぶのに慣れませんか?」
「仕方ないだろう。魔蜂の女王を名前で呼ぶこと自体が畏れ多いと言うのに」
「単に女性に慣れていないだけでしょう」
「しっ、失礼だな!」
「そうそう、その調子です」
いやー、こんな風にからかうと予想通りの反応をしてくれるから面白い。薄幸王子も声を荒らげながら、満更でもなさそうに口元を弛めて……なんかさ、気になる男性をからかう女子みたいな構図になってない?
そんな気は無いからね?
「はぁ、とりあえず、紅茶を一杯……と行きたいところだけど、まず聞いてもいいか?」
「なんでしょう?」
「……なんだか増えてないか?」
薄幸王子が部屋の中を見渡すのに合わせ、私も周囲に目を向ける。
そこには、私と同じようにメイド服に身を包んだ4人の少女が懸命に働いていた。
「彼女たちは……?」
「私の子たちの中で、見た目も実力もよさそうな働き蜂を連れてきました。あなたの護衛兼お世話係のために」
魔法で人間に見えるだけで、全員私が育てた魔蜂の変異体だ。
実力が特に高くプライドも高めの『シフル』。
ふわふわお姉さんっぽくも芯の強さがある『エルティ』。
無口&無表情の『テレータ』。
そしてメスガキ……じゃなくてちょっと上から目線だけどロリっ子可愛い『フューラ』。
本当ならみんな『人間なんて下等生物』と考えてるけど、この場には私が居ることと、薄幸王子が私の夢の実現のカギを握っていることで、結構前向きに仕事に励んでくれているみたいだ。
そんな風に紹介していると、テレータが紅茶を入れてきてくれた。
「あ、ありがとう……」
お礼を受けたテレータは無言で一礼すると、そそくさと仕事へと戻っていく。
「彼女も魔蜂なんだよな?」
「えぇ、もちろんです」
「なんというか、信じられない光景だな……」
「別に私たちから進んで仕えようってわけじゃないんだから、勘違いされても困るんですけどぉ?」
「フューラ?」
「ヘレス様の命令だし、おじさんが自分で自分の身も守れないざ・こ・お・じ・さ・ん♡だから私たちが世話してあげるって言ってるのよ? 感謝しなさい、ざこおじさん?♡」
「そんなこと言ったらダメよぉ、フューラちゃん?」
「だって事実じゃない」
「だがフューラの言うことにも一理ある。もしへレス様を裏切ることがあれば……分かるな?」
「ふ~……」
あ、すごい。
雑魚雑魚言われて、何も言い返さず我慢した。
それか、魔蜂からしたら人間なんて雑魚に違いないから言い返せなかったのかな?
「ところで、自分の身も守れないと言っていたが……どういうことだ?」
「あぁ、それは……昨夜暗殺者が侵入したのです」
「ブフッ!?」
ちょっ、汚いなぁもう……。
「なぜそれを先に言わないっ!?」
「大した相手ではありませんでしたから」
「そういう問題ではない! 一体どこの差し金だ? その暗殺者はどうした!?」
「……聞きたいですか?」
「っ! ……いや、止めておく……」
「心配しなくても、殺してはいませんよ。今頃、主の下で泣いています」
♢♢♢♢
「きゃあぁぁぁっ!」
「っ!?」
朝、窓から差し込む光に微睡みから浮上しかけていた第一王子マルクスの意識は、彼を起こしに来たチェインバーメイドの悲鳴によって完全に覚醒した。
一体何が……と声をかける間もなく、ベッドの上で身体を起こしたマルクスは、メイドが悲鳴を上げる原因となったそれを目の当たりにすることとなる。
「っ……」
その物体は、昨夜第2王子アーノルドへと差し向けた暗殺者であった。
ただし、その姿は見るのも憚られるほど凄惨なものである。
まず、四肢は全て根元から斬り落とされている。
非常に鋭利な何かで斬られたのか断面は綺麗で、回復魔法によって最低限の止血がされていた。
次に、両目と舌が失われている。こちらも、非常に鋭利な何かで斬られたのだろう。顎の骨や頭蓋骨すら切れ込みが入っていそうなほど深い裂傷である。
そして最後に……『お前を見ているぞ』———
———そう一言だけ、変わり果てた姿の暗殺者の腹部に文字が刻まれていた。王族である以前に、勇猛なコンサーヴィアの戦士だ。人の死などもはや見慣れたものであったのだが……これはあまりにも……。
少しして、悲鳴を聞きつけた他のメイドをはじめ、状況が状況だけに宰相や補佐官のエルドリスまでもが部屋に駆けつけ、その物体を見て絶句した。
「マルクス様、これはいったい……影は優秀な者の集まりです。それをここまで……どれほどの者だというのですか……」
「…………」
「マルクス様。アーノルド側についている正体不明の人物……それはパラクレート大迷宮に潜む魔物だという噂があります。そして現に、この者に残された魔力の残滓は、滅んだメートリス王国に残されたものと同じ。すぐにでもアーノルドを捕らえ、洗いざらい吐かせるべきです!」
「あぁ、そうだな」
「これまで力を入れてきた軍事力拡張も、ここで使わなければいつ使いましょう! あの力があれば、魔物の群れなど物の数ではありません! 私にお任せください、必ずや件の魔物の首を取ってきましょう」
指揮権を手にしたエルドリスの指示により、コンサーヴィア王国は一層軍事力に注力することとなった。
たった一匹の魔物を廻り、コンサーヴィア王国は大きな分岐点を迎える。
下の方にタブがあります私の別の作品、
『アネックス・ファンタジア ~V配信者による、神ゲー攻略配信日記』
もぜひご覧ください!




