王女としてそれは問題発言でしょ
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「お帰り、へレス。上手く行ったか?」
私が宝物庫から戻ってくると、王女モードのミネルヴァが迎えてくれた。まぁ隣に薄幸王子もいるから仕方ないか。
「えぇ、結界も元通りにしておいたから、バレるまではしばらくかかるんじゃなかしら?」
「……あれでも私が持てる全力の結界なのだが……」
そうだったのね。
爪でサクッと斬っちゃったとか、言わない方がいいかな。
ちなみに、聖剣を持っていく代わりに、本物そっくりに作ったレプリカを置いてきた。
ミネルヴァ……もとい黒崎の協力の下作ったから、見た目だけは本物さながらの逸品である。
何か男の子ってさ、武器とかそういうの好きすぎるよね……。私が提案しておいて、黒崎の熱意に圧倒されてたもん。
「……まぁいい。とりあえず第一王子派が切り札の一つを失ったことには変わりない。今日はいい気分で寝ることができそうだな」
「次の手もまた考えておかないとね?」
「それも必要だが、あまり根を詰めすぎても良くない。へレスの気持ちも分かるが焦る必要は無いぞ」
「……こんな優しい姉上は姉上じゃない……」
「何か言ったか? 愚弟」
「いえ、なんでもありません……」
「まぁいい……ところでヘレナ、そなたも王族の侍女に就く者。主が愚弟のアーノルドだとは言え、この国の現状を知っておくことは重要なはずだ」
「姉上、愚弟愚弟とうるさいですよ」
「確かに、一理あるわね」
「そこでだ。一度市井へ視察に行ってみるのはどうだ? 私も同伴すれば、第一王子派の連中も黙っていよう」
『本音は?』
『公務とかサボって一緒にショッピングに行こうぜぇ?』
『そんなことだろうと思ったわ。というかショッピング? あんた頭の中まで女の子になってきてない?』
『仕方ねぇだろ! そういう生き方しかしてないんだから!』
『……なんかごめん。思ったより深い言葉が返ってきて困惑してるわ』
『それに、蜂須賀さんもいろんな服とか欲しいだろ?』
『それは確かに』
『決まりだな! 綺麗になった蜂須賀さんを見て戸惑うアーノルドの姿が目に浮かぶ……』
「それじゃ行きましょう?」
「うむ、準備をするから少し待て」
「はい……本当、二人だけが分かる言葉で勝手に話を纏めないでくれますかねぇヘレス様?」
仕方ないよねぇ?
だって、今のところ地球人はふたりだけなんだもの。積もる話もそりゃありますよ。
え、どこの言葉かって? 言っても分からないでしょ、きっと。それより、私は人間の街は初めてで意外とテンション上がってるんだから……早く行こ?
♢♢♢♢
時刻は昼時、コンサーヴィア王国は砂漠気候のため、じりじりと照り付ける太陽が結構厳しい。まぁ私は幾つかの補助魔法を常時展開しているから、よっぽどのことが無い限り大丈夫だけどね。
ミネルヴァとアーノルドは、流石王族と言うべきか、街民と比べても随分と質のいい着物だ。そして、それを身に付けている本人たちも堂々としたものだ。
アーノルドのことを薄幸王子なんて呼んでいたけど、こう見ると王族と言われても違和感がない。私はいつものメイド服だから、王族二人の従者のように見えていることだろう。
そんなこんなでショッピングを開始。
目的は私の服だったから、日本にいた時のように時間をかけてゆっくり選ぶことができた。
しかしまぁ、あの黒崎がファッションについてあれほど関心があるなんて……日本じゃ考えられなかったわ。
対して、あまり興味がなさそうなアーノルドは時間が経つほどに辟易とした表情になっていく。女子の買い物が長いというのは、どこの世界も同じなようだ。
流石は王都というべきか、砂漠にあるような国でも多くの人々で賑わっている。食べ物が物足りないというのはあったが、装飾品に関しては充実しているようであった。
薄幸王子あんた、一生懸命にネックレスを見てるけど贈る人いるの?
私はいらないわよ?
しかしこっちの世界では人間の街を見るのは初めてで、観光……じゃなくて視察を行うこと数時間。日が傾き始めた頃に私達はようやく城に帰ってきた。
「いい街じゃない。とても」
「この街だけじゃない。この国全体がいい国だと私は思っているよ。しかし……兄上の言うとおり、先がないのも事実。ヘレスも分かるだろう?」
「えぇ」
一番の問題は、やはり食糧問題だ。気温が高くて乾燥しており、降水量もかなり低いという気候上、安定した作物の生産ができていないようだった。
見て回ったのが王都であることを考えると、量も質も低いように感じる。
国外から輸入できればいいが、代わりに出すものが無いのが現状だ。だからこそ、肥沃な土地を手に入れようと動く、第一王子の気持ちも分かる。
『正直な話、俺はどっちでも良かったんだ』
『と言うと?』
『魔物と共存を目指そうと、戦争で領土を広げようと、俺のスローライフには影響がないからな』
『ぶれないわねホント……』
『けど、蜂須賀さんにあって確信した。魔物と手を組むべきだってね』
『……それは、黒崎としての判断?』
『両方。俺としては、元クラスメイトの蜂須賀さんとは仲良くしておきたいしね。ミネルヴァとしては…………ヘレス率いる魔物達の協力があれば、この国の食糧問題も解決できそうだと思う」
「そうかしら?」
「パラクレート大迷宮は大量の魔物が跋扈するダンジョンだ。逆に言うのなら、それだけの魔物を抱えられるほど肥沃な土地だ。そこを押さえているのであれば、多くの作物を得られるだろう?」
「確かにね……ゴブリン達も農業を覚えてきてるし」
「そして私が最も期待しているのは……魔蜂の蜜だ。ヘレスも作れるのだろう?」
「えぇ。私のハチミツってそんなにいいのかしら」
「魔蜂の蜜を手に入れるには同じ重さの金が必要だと言えばその価値は分かるか?」
「……マジで?」
「魔蜂の蜜が生産されるのは、魔蜂のコロニーが数千から一万匹に達してからだ。ただでさえ魔蜂は一匹でも討伐に苦労するのに、一万の群れに誰が挑もうと思う? 誰が蜜を持って帰ってこられる? それを考えれば、金と交換でも納得がいくだろう。そこまでして世界中の王族が求めているのだからな」
「そこまでなのね……おやつ感覚で毎日食べてたわ」
「それはズルくね? ゴホンッ、じゃなくて……この国がもしヘレスと友好を結ぶことができたら、魔蜂の蜜を安定して得られるだろう? それだけで、多くの国との関係も優位に進められそうだからな」
まさか、ハチミツがそこまで価値があるものだとは思わなかった。
でも、これで私が安心して暮らせる国を作る入り口が見えたわけだ。ミネルヴァかアーノルドをコンサーヴィア王国の国王として立て、私の国と交易を結べば……
『というわけで、この国をぶっ壊そうと思う』
……は?
誤字報告等もありがとうございます(_ _)
私の別の作品
『アネックス・ファンタジア ~V配信者による、神ゲー攻略配信日記~』
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