同級生と悪だくみしてるみたいで楽しいかも?
評価・ブックマークありがとうございます!
『……いきなり襲いかかったりしないでね?』
そう一言断って……人化の魔法を解除。
パキパキと音を立て、隠していた四本の腕が再構築されていく。続いて翅、牙、触角、そして昆虫の腹……およそ人間とは程遠い、しかし他の魔物とも懸け離れた姿に言葉を失うミネルヴァの姿が、私の八つの目にはっきりと映っている。
『私は人間じゃなくて、魔物としてこの世界に生まれたの』
絶句するミネルヴァにそう前置きをし、私が魔物の国を作ろうと思った経緯を語った。
♢♢♢♢
『なんつー波乱万丈な人生だよ……』
『だから苦労したんだって』
『というか、魔物に転生もあり得るのかよ! そりゃ、それっぽい人間をいくら探しても、クラスメイトは見つからないわけだ』
『それもそうね……でも、私の姿を見てもあなたが敵にならなくて良かったわ』
『それはまぁ……なんつーか実感が湧かないのもあるけど、ほら、蜂須賀さんって裏で八尺様って呼ばれてたし、違和感ないかなって』
『誰が現代妖怪だこら、喧嘩売ってんのか』
威力をかなり絞って『魔王覇気』を発動。
とりあえず私の方が圧倒的に強いことを見せつける。
おおう……このステータス差だと、軽くやっても身動きすらできなくなるのね。
なんかごめん、調子に乗った。『魔王覇気』解除。
「姉上っ! 今の魔力反応はっ!」
私の『魔王覇気』が外に漏れたのか、薄幸王子が慌てた表情で部屋に飛び込んできた。のだが……
「ちょっ、へレス様! 元の姿に戻ってます!」
「良いところに来た! 助けろアーノルド!」
「無理ですって! 軍を動かしても勝てない!」
「ふふ、安心して? 悪いようにはしないから……」
「へレス様! なんとか気を収めてください! 姉上に代わって謝りますから!」
うーん、カオス。
ごめんね? 私も悪ふざけしすぎた。
とりあえず薄幸王子も『魔王覇気』で黙らせて……(嘘)
30分後。
「さて、一度状況を整理しよう」
席について、ソフィちゃんが淹れてくれたお茶を飲んでようやく落ち着きとカリスマ性を取り戻したモンキーことミネルヴァがそう話を切り出した。
テーブルを囲むのは、魔法で人間の姿になった私と薄幸王子を含めた三人だけだ。ミネルヴァ側の参謀もいるけど、内容的に聞かせられないだろうなぁ。
「まず、ヘレスは魔蜂の女王であって、人間との共存を目指している」
「えぇ」
「パラクレート大迷宮の大部分を手中に収めており、メートリス王国を滅ぼすほどに強いと……」
「えぇ、そうね」
「しかし、今は愚弟……アーノルドに協力しており、アーノルドを王に立てつつ自身の安住の地を作る布石を打つ、と……」
「えぇ……少なくとも、彼が私を裏切らない限りは味方だと思ってくれていいわ」
「わ、私がへレス殿を裏切るなんてありえないですから!」
「頼むぞ、本当に」
「お任せください」
「さて、改めて信頼を確認できたところで……共有しておきたい重要事項がある」
ピリッ———っと空気が張り詰めるのが分かる。
ミネルヴァの雰囲気が、語気が、視線が、それほどの内容であることを物語っているのだ。
私はともかく、薄幸王子は固唾をのんで次の言葉を待っている。
「いいか? 落ち着いて聞くが良い……今、第1王子マルクスは、何者かによって洗脳されている」
「なっ!?」
「へぇ?」
洗脳?
どういうこと?
「バレないように慎重にやっているつもりだか知らないが、《魔導王》たる私の目はごまかせない。ステータスにしっかりと『洗脳状態』と書いてあった」
「い、いったいいつから……」
「それは分からない……が、洗脳されていたと考えると、国政の無理な方針転換も納得がいく」
「つまり、聖剣が見つかった 頃から……」
「あなたが魔導王なら、洗脳を解けたりしないの?」
「最初はそう思っていた。しかし、驚くべきことに私の魔法が弾かれたのだ。つまり、《魔導王》以上の称号持ち、若しくはへレスのような格が違うなんらかの存在が背後にいるということだ」
なるほど、ミネルヴァがここまで『信頼』を気にしている理由が分かった。
自分がその事実を知っていることを悟られれば、自分も標的にされる可能性があるから。
何しろ相手は、第一王子に洗脳をかけられるほど、すぐ近くに居るのだから。
「私は洗脳されないように無害を装いつつ、隙を見せないように行動してきた。隙だらけの愚弟は危険だったから国政から遠ざけたはずだったのだが、まさか追放までさせるとは……よく無事に戻ったな」
「姉上、それは……」
「ツンデレ?」
「誰がツンデレだ!」
「なんだかんだ言って弟に優しいじゃない」
「……ふん」
「それで、こうして弟さんも帰ってきたわけだし、私たちはどう動くつもりかしら?」
「そうだな……ありがたいことに、こうしてへレスを連れてきてくれた。正体不明の相手がどれほどのものかは分からないが……いろいろと動きやすくなる」
まぁ確かに、ミネルヴァ以上の実力者なんて、この世界にどれだけいるのか。
しかも信頼に足る、第1王子の息がかかっていない者など、本来だったらどこを探しても見つからないだろう。
ミネルヴァと薄幸王子は王宮内から、私はその外から。
住み分けして解決を目指すということだ。
「へレス、色々と確認しておきたい。へレス自身が強いのは分かっているが、部下も居るのだろう? どれほどの戦力を持っている?」
「そうねぇ」
とりあえず説明を。
女王蜂の私を頂点に、すぐ下に自慢の息子が3体。
メガロ・ヘラクレスの進化形態『ジャガーノート・ヘラクレス』のバエウス、ナイトメア・クロウラーの進化形態『ウル・ジェイド』のラクネア、そして唯一私と同じ血が流れる『魔蜂』のカローネ。全員変異体だよ。
で、メートリス王国国土防衛戦力として、バエウスとその部下、メガロ・ヘラクレスが約100匹。プラス軍団蟻が数万匹。
こっちに連れてきてるのはラクネアとその部下のナイトメア・クロウラーが数匹。
でも、ナイトメア・クロウラーも全部で100匹ぐらいいるよ。
アラネイド種だと、ポイズン、グレーター、アークも合わせて数万かな。
カローネは魔蜂を率いて村の復興を頑張ってくれてる。魔蜂はそれ自体がもう最終進化みたいなものだから、私みたいにチート持ちでなければ進化しないけど、私と直接的な繋がりがあるから戦闘力だけで言えば自陣内で最強だ。
「大体こんな感じだけど」
「「 」」
「あら? どうしたのかしら?」
仮にも王子様と王女様ともあろう者が、はしたなくポカンと口を開けて呆けて……。
いや、まぁ、原因は私なんだけどね。
『蜂須賀さんさぁ……世界征服でもするつもり?』
『流石にそんなことはしないわよ……多分』
『笑えねぇ……』
「ぇっ、へレス様それ何語ですか!? しかも姉上まで……」
「王族たる者、数ヵ国語を使えて然るべきだぞ?」
「それに、秘匿性も高いしね。私と黒さ……ミネルヴァだけの時はこの言葉で話しましょうか」
「それも良いな。盗聴を気にすることもないし、へレスの気も紛れよう」
「いつの間にかお互いに呼び捨てになってるし……いつそんなに仲良くなったのですか……」
だって久々に日本語を聞いたしねぇ。
そりゃテンションも上がるってもんだ。
「そうだ、仲良しついでにミネルヴァに一つ提案」
「なんだ?」
「あなたの言っていた聖剣とやら、私達側で確保できないかしら」
誤字報告等も、いつも助かっています(_ _)




