メイド服って女の子ならだれでも憧れるよね!
昨日は投稿できなくてすみません。
評価・ブックマークありがとうございます!
「っ、はぁ~~~~……本当、あの空気は嫌いだな」
「お疲れ様です、ご主人様」
会議室を出て自室に戻ったアーノルドを迎えたのは、メイド服に身を包んだヘレスであった。魔法により人間の姿に化けているからか、人外じみた美しさ以外はどこからどう見てもただの人間である。
アーノルドの台頭に手を打つしかない兄達は、彼から仄めかされた協力者の捜索のため、滅亡したメートリス王国へと足を延ばすだろう。
そこはすでに地獄の様相を呈していることも、切り札たる『ヘレス』がすでに国内に潜んでいることも、彼らは知らない。
「っ……ヘレス様にそんな口調で話されると、えも言われぬ恐怖が背筋を走るな……」
「喧嘩売ってるのかしら?」
「いやいやっ、滅相もない! この国では魔蜂の女王は信仰の対象、ただただ、恐れ多いだけです」
「まぁいいけど……態度や口調で、私の存在が疑われないように気を付けてください。そして、今の私のことはヘレナとお呼びくださるよう……」
「う、うむ……ではヘレナ、茶を淹れてくれ。少し休憩したい」
「かしこまりました」
やー、なんかこれはこれで楽しいかも。
一度やってみたかったんだよね、メイド喫茶のバイト。
今はバイトじゃなくて本物(に扮しているん)だけどね。
しかも仕える相手は本物の王族だし、こんなマンガみたいな状況が実現するとは。
しかもなんか……自分の一挙手一投足で異性をドギマギさせるのがなんかこう……うふふ。
しばらくは王宮暮らしになるだろうし、今の生活を楽しもう!
「ご主人様、会議はどうでしたか?」
やけに姿勢のいい薄幸王子に紅茶を出しながら、そう問いかけてみる。
「あぁ……やはり、ローヤルゼリーの衝撃はかなりのものだったらしい。あの顔はしばらく忘れられなさそうだ」
「それはそれは……」
「協力者という単語をどう捉えたかは知らないが……魔蜂の住処からローヤルゼリーを採ってこれるだけの実力者と捉えているのなら、自陣に引き込もうと元メートリス王国へと向かうだろう。む……この紅茶は美味いな」
「魔蜂の蜜を入れました」
「それは美味いわけだ……この一杯にいったいどれほどの価値があるのか……」
「それは置いておいて……戦闘になると思いますか?」
「魔蜂の蜜の価値をもっと知った方がいいで……いいぞ。そうだな、彼らは歩み寄る心を持ち合わせていないからな。それが悪手とも知らずに……。しかし、あの土地は周辺の国が何処も狙っている土地。防衛は大丈夫なのか?」
「バエウスがいるから問題ないかと」
「バエウス……あぁ、メガロ・ヘラクレスの」
「いえ、ジャガーノート・ヘラクレスです」
「S+ランクのメガロ・ヘラクレスの進化形態か……寒気がするな」
「ご主人が私の味方でいる限りは3人とも味方なのでご心配なく」
私の可愛い子供達3人も私が進化すると同時に進化をしたようで、あのドラゴンと戦っても勝てるほどの強さを手に入れたようだ。
さすがにもう1人でも問題ない強さだろうし、それぞれ役割を与えている。
バエウスは、私が滅ぼした国の土地を人間に渡さないために、その防衛を。
カローネは魔蜂を率いてパラクレート大迷宮を治めている。
そして、ラクネアは、私と一緒にこの国に。
現状、誰にも知られずに王座を競う相手の喉元にラクネアの爪があてがわれている状態だ。
くふふ、やろうと思えばこの国もすぐに滅ぼせそうだ。
「心底味方で良かったと思うよ……」
「私の自慢の息子達ですので……あら?」
私の探索魔法が、部屋に近付く何者かの存在を捉えた。大して強くはなさそうだから、薄幸王子に用事でもあるのだろう。
数回のノックの後、私が扉を開けると、メイド服に身を包んだ可愛い少女が立っていた。
あっ、可愛い。
十代前半かな、幼さが残るけど、女性らしい優美さも兼ね備えてる。
ここが前世の世界なら、大人気アイドル間違いなしだ。
端から見ると、私もこんな感じなのかな。どうしたのかしら、そんなハッとした顔をして。私に見惚れちゃった?
うふふ……女の子を相手にするのもいいなぁ。
「し、失礼します。アーノルド様に、ミネルヴァ様からの伝言をお伝えしていただきたいのですが……」
「えぇ、なんでしょう?」
「『話がしたい。今すぐに来てくれ。』だそうです」
「……伝えて参ります」
この反応の早さ……ミネルヴァ? だっけ? 薄幸王子の姉に当たる人物だ。薄幸王子曰く、どちらの派閥でもないというが果たして……。
王宮の中を歩くこと数分、飾り気はないが大きな扉の前に私と薄幸王子は案内された。
というか遠いわっ!
同じ建物内なのに数分間歩かないと目的地に辿り着かないってなんなのマジで。これだから金持ちは……。
「ミネルヴァ様、アーノルド様が到着なさいました」
「入れ」
「失礼します」
メイドについて中に入ると、書斎机に積み上げられた書類と向き合う、緋色の髪の美女がこちらに目を向けた。切れ長の鋭い目と意志の強そうな瞳、そして彼女の纏う覇気が、なるほど、これが王族かと納得してしまいそうだ。
そんな彼女は、メイド少女を見て僅かに目元を綻ばせ、次にアーノルドを見て眉にシワを寄せ、私を見て驚いたように目を見開いた。
私、何かした?
「ソフィ、下がれ」
「はい、失礼します」
ソフィと呼ばれたメイド少女を下がらせ、ミネルヴァは元々鋭い目をさらに細める。その視線の先は、私だ。
「アーノルド、よく帰ってきただとか、何があっただとかを聞くべきだとは私も思うが……あえて後回しだ。この女、何者だ?」
あれ? まさか、本気で私のことを疑ってる?
どうして? ボロも何も、会ってからまだ一分も経ってないのに。
「……なぜそんなことを?」
「当然気になるだろう? まさか、身元も不明な人物をお前の我が儘で王宮に招き入れたわけではあるまいな?」
「まさか。私がここへ帰る途中、怪我をして近くの村で療養中に献身してくれたのが彼女です。私の側付きに召し抱えたのは、その礼をしたまでですよ」
「納得のいく言い訳ではあるが……。女、名前は? どこから来た?」
「ヘレナと申します。【ウェルグルの村】で貧しい暮らしをしていましたが、運良くアーノルド様に拾っていただきました。この身尽きるまで、アーノルド様に奉仕いたしましょう」
「ふむ……なるほどな」
「姉上、先ほどからどうしたのです? なぜ公用語ではなく……」
ん? 公用語ではなく……?
「アーノルド、少し黙れ。いや、いきなりで悪いが席を外してくれ」
「はい?」
やっとの思いで帰ってきた弟に、労いの言葉もなく顔を合わせて一分で席を外せと言う。
何を言い出すんだこの王女様は。
「酷いですね、もっと労ってくれても……」
「…………」
「あー、もう、分かりましたよ。ヘレナ、行こう」
「いや、女は残れ。私は彼女と話をしたい」
んんっ!? 私ですかぃ?
別に、私の方が強いから取って食われることはないけど……決定権は薄幸王子にあるわけで。
とりあえず目配せを……。
(何やら疑われていますよ。ここは一度引いた方が……)ウィンクパチッ
(え、王女様の腹を探れって? 了解)ウィンクパチッパチッ
ふふふ、私達ぐらいになると視線だけでコミュニケーションが取れちゃうもんね。
「かしこまりました、ミネルヴァ様」
「 」
あら、なんで薄幸王子は頭を抱えてるのかしら?
ヘレス様も人化していますので、嫌だった方はすみません(_ _)




