舌戦の場に落とす爆弾(別視点回)
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それから一週間ほど経ったある日。
ここは代々、王家の血筋しか座ることが許されない円卓の間。その席に現れたのは、他でもないコンサーヴィア王国第2王子、アーノルド・コンサーヴィア本人であった。
「あ、貴方様は……!」
「……」
突然の帰還に、第1王子マルクスの側に控えていた補佐官エルドリスは驚きの声を上げるが、慌てて口を噤んだ。
第1王子マルクスは、血のつながった自身の弟が帰ってきたというのに、興味がなさそうな視線を向けるだけである。
そして……最初からエルドリスが何かしたと知っていた第1王女ミネルヴァの目が細められる。
「お、お帰りなさいませ、アーノルド様。随分長い旅でしたね」
「ご心配お掛けして申し訳ありません。ですが、ご覧の通り私は無事ですよ」
さも平然と笑顔を見せるアーノルドに、エルドリスは思わず奥歯を鳴らした。アーノルドを消すために『モンスターテイマー』を使ってまでサンドワームをけしかけたというのに、当の本人は無傷で帰還してしまった。
そして、そのサンドワームが、我々の中の誰かが使役するものだと、アーノルドが気づいていない訳がない。
でありながら、さも何事もなかったかのように振る舞うアーノルドに、エルドリスは自分の立場が悪くなるのを感じた。
「しかし、あの地は魔物の数がとても多いはずです。よくぞご無事で……」
「えぇ、まぁ。実際悪魔に襲われましたが、とある者に助けてもらいまして」
アーノルドの言葉に、静観していたミネルヴァもピクリと眉を吊り上げる。アーノルドの言う悪魔とは、確実に『サンドワーム』の事であろう。
とある者に助けてもらった———それはつまり、『サンドワーム』をものともしない実力を持つ人物が、アーノルド側についているということに他ならない。
「そうであったか。ならば、この国を代表して礼をせねばならんな?」
「いえ、姉上。そのお気持ちだけで十分です。後日、改めて私からお礼をしておきます」
アーノルドの返答に、ミネルヴァはふむ、と顎に手を当てた。
お前達には情報を渡さないと、そういうことなのだろう。
「それではアーノルド様。砂漠の移動、それも魔物から逃げながらとなると随分お疲れのことでしょう。今日のところはお休みいただき……」
「そうはいきません。兄上方に、お伝えしなければならない事がございますので」
「ほう?」
ミネルヴァが半信半疑な様子を隠しもせずに先を促すと、ニヤリと口角を上げたアーノルドは懐からビンを一つ取り出し、机の上に置いた。
手のひらサイズのさほど大きくないビンの中は、なんらかの白い液体で満たされている。
「先ほども言いましたが、私を助けてくださった御仁には少々伝手がありましたようで。私もそれにあやかり、協力者を得られましたので」
協力者———その言葉の意味が正しく分からない者は、今この場にいない。
「……ほう。で、その協力者とやらは? そして、その小瓶はなんだ?」
「これだけ聞けば、察しの良い兄上達は分かってくれるでしょう。……これはその者から頂いた、魔蜂のローヤルゼリーです」
アーノルドのその一言で、部屋の空気が凍り付いた。
魔蜂のローヤルゼリー。
それは、『エリクサー』と同一視までされる伝説の秘薬である。
そもそも魔蜂の女王しかその秘薬を作ることはできず、しかもコロニーが繁栄し、次の世代の女王蜂を産み出す段階でしか作ることはない。
つまりローヤルゼリーを手に入れるには、数万、数十万に上る魔蜂の群れを退け、その中から女王蜂を探しだして捕らえなければならない。
はっきり言って、不可能に近い。
しかし、後に数万もの魔蜂を産み出すだけのエネルギーを補うローヤルゼリーには、嘘か真か様々な効果があると期待されている。
———曰く、一口飲めばどんな怪我や病気もたちまち治り、二口飲めば100日間不眠不休で動くことができ、三口飲めば不老不死になる———
そんな秘薬が、目の前に。
「……本物か?」
「えぇ、間違いなく。試していないので効果のほどは知りませんが……父上の病気を治す一石になると思います」
「っ……」
「ふむ、それは良い」
まずい。
病床に伏した国王に代わり政権を握って以来、魔物排斥の方針を推し進め、次期国王の席を盤石のものとしてきた。わざわざ危険を冒して共存派である、第2王子アーノルドを消したと思ったのに、まさか伝説の秘薬を持って帰ってくるとは。
もしローヤルゼリーが本物で、国王の病気を治す効果を持っているのであれば、それを用意したアーノルドへの心証は良くなり、アーノルドが次期国王となる可能性も上がることとなる。それは到底許容できるものではない。
「では、伝えるべきことは伝えましたので。私はこれで失礼します」
ローヤルゼリーという劇薬を持つアーノルドをどうすべきか。その事ばかりで頭がいっぱいの兄達は、アーノルドを引き留めることもなくその背を見送った。
その夜、第1王子マルクスの執務室に焦った様子の男の声が響いた。
「マルクス様! これはゆゆしき事態ですよ! まさかあの異端者が無傷で帰ってくるとは……そのためにモンスターテイマーを従えたというのに……」
「あぁ、そうだな」
「そして何より、あの秘薬……あれをなんとかしなければ国王様が回復し、これまでに回した根が全て無駄になってしまう……!」
「あぁ、そうだな」
「マルクス様、早速『影』を動かしましょう。まずは異端者の言っていた協力者とやらが何者なのかを探るのです。そして、あわよくば彼を……」
「あぁ、そうだな」
「いえ、その協力者をこちら側に引き込むのも良いですね。その協力者とやらがどれほどのものかは知りませんが、こちら側に従えればマスクス様の地位は盤石なものになるかと」
「あぁ、そうだな」
「マルクス様、『影』の指揮権を私に。きっと望む結果を収めてごらんに入れましょう。何、心配はいりません。こちらには悪魔の力が付いているのですから……」
「あぁ、そうだな」
おや? マルクスの様子が……
話は変わりますが、『第○王子』とかって王子と王女を分けてカウントするんですかね?
それとも区別せずに通しで数字つけるんですかね。
どなたか教えていただけると助かります。




