死の間際にて、英雄を見た(別視点回)
二か月経ったのか……。
もし、もしもだよ?
一度完結したやつの続きを書いたとしたら、読んでくれますか?
「はっ! はっ!」
強い日差しが降り注ぐ砂漠の真ん中を、一心不乱に走る青年が一人。
水が足りず、喉が張り付く。
呼吸すらままならない。
細かな砂が厚く積み重なった砂漠の上は、走りにくいことこの上ない。
それでも足を止めないのは、すぐ後ろに『死』が迫っているから。
ドウッ!
背後で鈍い音を立てて、何かが地面から飛び出るのを感じた。振り返って確かめる暇など無い。というより、振り返らずとも、自分を覆う巨大な影を見ればその正体は一目瞭然だ。
砂漠の悪魔『サンドワーム』。
数十mはくだらない巨体と人間すら一飲みにできる口を持つ、大型の魔物である。
見た目は巨大なミミズなのだが、ポッカリと開いた口にびっしりと並ぶ牙と、その貪欲さから、砂漠付近に住む人々から『悪魔』と恐れられる魔物である。
「っ!!」
足が縺れたのか、青年が砂を巻き上げながら倒れ込む。
日差しが強烈な砂漠では、熱くとも直射日光を防ぐことのできるよう、頭から手首、足首までをすっぽりと覆うことのできる衣装を着るのが一般的だ。
青年のような、身分が高い者ならばなおさら。
しかし、それが今の切迫した状況では邪魔でしかない。
「くそっ、くそがっ!」
ついその口から漏れた悪態は、ここで命尽きることへの悔いか。
それとも、この『悪魔』をけしかけた人物への恨みか。
どちらにせよ、万事休す。
襲いかかるサンドワームを前に、青年は思わず目を固く閉ざした———
「デリガード!」
「おうっ!」
バゴンッ!!
「―――――――――!」
突如として聴こえた、二人の男女の声。
その直後、何かが爆発するような轟音とともに、サンドワームの巨体が揺らいだ。
視界に映ったのは体格の良い男と、彼が持つ大盾。
男が盾によってサンドワームを弾き返したのだと察したのだが———
いや、それは不可能だろう。
サンドワームの重量に人間が耐えられる訳がない。重さだけを見てもそれなのだ。
足元が不安定な砂の上で、超重量のサンドワームの突進を弾き返すなど、人間離れしすぎている。
青年の脳内がそんな思考に覆われる中、剣の切っ先のように鋭い声が耳に届いた。
「付加術・ウィンド!」
声と同時に、音もなく振り抜かれた剣。
その剣には、風の付加魔法が荒ぶるように巻き付いており、緑色の淡い光を発している。
お手本のような、綺麗で丁寧な付加術。
あまりに鋭く、真っ直ぐで、迷いの無い剣筋。
何事も、ある境目を越えると『美しさ』を纏うものだ。
彼女の剣に感じたのは、まさしくそれ。
その身が置かれた状況も忘れて見惚れていた青年は、身体の中半から両断されたサンドワームが地面に落ちる音で意識を現実へと引き戻した。
「まだだっ! サンドワームは一匹だけじゃない!」
「なるほど……ならば!」
大盾の男が地面を踏み鳴らし、何らかのスキルを発動する。
恐らくは、『激震』。
周囲に衝撃波を与える普遍的なスキルだ。
普遍的なスキル、のはずだが……なんだこの規模は。
パッと見100mは離れている砂上からも砂が吹き上がるのを見ると、彼を中心に100m以上の距離にまで届いているのだろう。
水や固い地面の上ならともかく、砂の上でこの攻撃範囲はあり得ない!
先程のサンドワームを弾き返したパワーも含めて、本当に人間か!?
しかしこれだけの威力の『激震』……砂の上にいる私はともかく、全身に直接浴びたサンドワームは堪らないだろうな。
「「ッ――――――!」」
案の定、悲鳴のような声にならない声とともに2体のサンドワームが地面から姿を現した。合計3体のサンドワームがいたようだ。
「流石はデリガード。後は私に任せておいてくれ。……ちょうど試し撃ちがしたかったところだ」
そう言いながら手を上に掲げる女性の手のひらに、複雑な魔法陣が描かれていく。それは———
「まさか、雷轟魔法!?」
———それは、雷系魔法の最上位に位置する魔法であった。
魔力によって発生させた雷で攻撃するような、下位の雷系魔法とは訳が違う。
天候を操り本物の雷を降らせる、まさに神の如き御業。
晴天の空に突如として発生した暗雲から、二条の雷が降り注ぐ。
空が哭く。
空気が震える。
世界を白に染め上げる。
そう表現すべき雷轟は、巨大なサンドワームを容易く飲み込み、塵すら残さずに消滅させた。
後に残っているのは、クレーターのように抉れた地面と、砂が解けてできたガラス状の物質だけであった。
雷轟魔法が収まった後、パキンッと何かが割れるような音とともに、目の前で光の破片が消えていった。どうやら、いつの間にか魔法壁のようなものが張ってあったらしい。
「エリザ、流石に威力が高すぎる。俺が守らなければこの方にも被害が出ていたぞ」
「む……そうだな。これは申し訳ないことをした」
「い、いやいやいやっ! 助けていただいたことに感謝こそすれ、責めようなどという気はっ……!」
剣を納め、律儀に頭を下げてくる女性に向け、ブンブンと頭を横に振る。
しかし、今がチャンス。
この好機を逃してなるものかと、ここぞとばかりに畳み掛ける。
「お二方は名のある冒険者だとお見受けする。どうか、暫しの間私にご助力願えないだろうか!」
♢♢♢♢
流石にこのままではまともに話し合いなどできないからと、デリガードが『収納』の中に用意していたテントを張り、その中で日差しと砂を凌ぐこととした。
たいして大きいテントではないが、詰めれば何とか……といった具合である。
脱水症状も出始めていた青年に水を飲ませ、ようやくまともに話ができる状態となったのであった。
「水まで頂いて、重ね重ねかたじけない!」
「それぐらい、当たり前です。改めまして、私はエリザ、こちらはデリガードと言います」
「すまない、名乗り遅れたな。私は———」
「コンサーヴィア王国第2王子、アーノルド・コンサーヴィア殿下では?」
「むっ……バレていたか」
「はい。以前、魔物の大発生の際、印象に残る演説をされていましたでしょう」
「スタンピードの時と言えば、貴殿はメートリス王国の出身で? それはまた難儀な……」
アーノルドの言葉にどこか引っ掛かるエリザであったが、今は気にしている場合ではない。王家の者が砂漠の真ん中で死にかけている方が一大事だ。
「しかし、アーノルド殿下は何故こんなところへ? 護衛の者などは……」
「護衛は皆死んだよ」
アーノルドの口から漏れた言葉に、エリザは返す言葉を失う。
「貴殿も見ただろう、あのサンドワームを。元々が少ない人数ではあったが、私を逃がすために全員が犠牲になった。そして、私もやつの餌になるところだった」
「なるほど……犠牲になった者は残念です」
「それで、理由だったな……簡単にいうと、継承権争いだな」
エリザ、デリガードの予想通り、玉座を争う者同士の競り合いなのだとか。
「くそっ、このままではコンサーヴィア王国が滅亡する! だというのに、兄上は私の言葉に耳を貸そうとすらしない! その上サンドワームまで……」
「まさか……先程のサンドワームは殿下の御兄弟が……」
「っ……あぁ。向こうには魔物を操る『モンスターテイマー』なる人物がいるらしくてな。いや、大方脅迫して従わせているのだと思うが……。魔物との共存を謳う私がどうしても邪魔らしい」
『魔物との共存』。
その言葉に、エリザとデリガードは大きく反応した。安寧の地を探しているかの化け物を知っているから。
「アーノルド殿下、詳しく話していただけないだろうか」
書いたといっても最後までできていないので、第1章ほどの高頻度で投稿はできません。
それでも良ければよろしくお願いします。
蛇足と感じる人にはごめんなさい。




