エピローグ
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『沈黙の日』
後にそう呼ばれる、歴史上最悪の魔物による襲撃事件。
詳しい真相は不明。何しろ、生き残りは一人も居ないのだから。分かっていることは、それが魔物によってもたらされたということ。
そして、大国の一つであるメートリス王国が、一夜にして滅んだということ。
♢♢♢♢
ある日、いつものようにメートリス王国の関所で開門を待っていたとある商人は違和感を覚えた。普段なら居るはずの憲兵が、今日に限って姿が見えないのだ。検問を疎かにするなど、あり得ない。
なんとなく、胸騒ぎがする。
外見は普段となんら変わらない。
だが商人として長らく生きてきた中で培った、危険察知とも言うべき第六感。
それが今、警告を発しているのだ。
いつもなら検問が始まる時間となっても、関所からは誰も出てこない。
何時まで経っても静かなままだ。
痺れを切らした先頭の者が関所の門を強引に引くと、なんと門は開いてしまった!
門に閂をかけぬまま、しかも憲兵が一人も居ない状態で放置など、王国に侵入してくださいと言っているようなものだ。
こうなれば流石に、この場に居るほとんどの者が何かおかしいことに気が付く。それを知ろうと門を潜ると……そこには地獄があった。
眼前に広がる、血の海。
破壊され尽くした家屋。
なんの変哲もない外壁に対し、外壁の内側にはおびただしい数の血塗れの手形がこびりついていた。
よく見ると、手形の大きさはバラバラで、女子供もそこに居たことが分かる。
木でできた門を激しく引っ掻いてできた傷跡を見ると、彼らは襲い来る何かから懸命に逃げようとしたのだろう。
だが……この静寂から察するに、そういうことなのだろう。
あまりに異様な光景に、腰を抜かす者、悲鳴を上げる者、逃げ出す者……恐怖に支配されない者など、一人もいなかった。
そんな中、度胸のある商人や豪傑な冒険者達が名乗りを上げ、調査を開始した。
一日がかりで調査した結果、破壊された西門と、多くの魔虫の死骸を発見。
何らかの原因によって西門が破壊され、そこから魔物が大量に侵入。それによって国民が蹂躙された……と考えていいだろう。
魔虫の死骸があったことからメートリス王国の冒険者達や騎士団が奮闘したのだろうが、それでも対処しきれない数であったに違いない。
驚くべきはその速さである。
魔物が侵入したという報せが届けば、最も離れた東門を開けて住民を逃がすことも出来る。
だが、破壊された西門以外は開いていないことを見るに、それすら許さない速さで侵攻したということ。
そして最も謎なのは、メートリス王国に住んでいたはずの数百万人の住民の死体が、どこにも見当たらないこと。この凄惨な光景を見れば生存は絶望的であることが分かるが、ただ一人の遺体すらも残されていなかった。
謎が謎を呼ぶカオスな状況に、さらに驚くべき情報が飛び込んできた。
王都を調査していた者から、生存者を発見、保護したと知らせが届いたのだ。
しかも、その人物はメートリス王国の国王だと言うではないか!
しかし、メートリス王は正気を失っておられるのか、うわ言のようにブツブツと何かを呟くだけだ。
メートリス王をなんとか安全な場所へとお連れした。
休ませて回復を図り、同時に事情聴取を行う。が、碌に話すことができないメートリス王からは、『どこで間違えた』、『へレスに触れてはならぬ』という呟き以外、何の情報も得られなかった。
そして、保護されて数日後、メートリス王は多くの謎を残したまま自ら命を絶った———
♢♢♢♢
あ~……なんか鬱だ。
あの時はもう、王様を私と同じ目に遭わせることで頭いっぱいだったけど、あとで冷静になると皆殺しはやり過ぎたかも。
なんだか、魔蜂を襲ったドラゴンと同じになってしまった気がする。
そう考えると、気分が落ち込む。
ステータスは見ていない。
ステータスを見ると、彼らを虐殺したのを思い出してしまうから。
あの国の住民は数万じゃすまない数が居たはずだ。彼らの叫び声が聞こえてきそうで……だからと言って忘れることも出来ないんだけどさぁ。
……気分が回復するまではしばらく引きこもっていよう。
何もしない訳じゃないけどね。
私の進化はすぐに終わったけど、子供達の進化は結構時間がかかっているようだ。
『女王の下賜』によって一気に大量のエネルギーが流れ込んだからだと思うけど……。
流石に心配だから側を離れたくない。
ついでに『禁忌の色欲』を使って、新しい配下を作ってみようかな。
あとは……新たに取得した魔法の確認も。
やることは色々あるけど、人間との関係もあるし外には出ない方が良いでしょ。
……それにしても、何か忘れてる気がする……。
♢♢♢♢
パラクレート大迷宮から遥か北。
天を覆うかのような高い山々が連なる山岳地を、その人物は別の二人の人物を抱えて歩いていた。
「なんなのじゃ、あの魔物は……」
そう、彼———ダグリスは生きていたのだ。
しかも、ラインハルトとサリエリの二人を担いで。
自分より強い魔物と対峙した程度で、世界最高峰の魔法使いは発狂などしない。その程度の精神力で魔法使いは務まらないから。
しかし、気が触れたフリをしてへレスと呼ばれる魔物の親玉に近づいたは良いものの、あまりの格の違いに一矢報いるチャンスは皆無であった。
結局、ドラゴンとへレスの戦闘のどさくさに紛れて『空間転移』によってまんまと逃げおおせたダグリスであったが、あまりにも大きすぎるへレスとの差に、その心は蝕まれていた。
「ふぅ……『身体強化』があるとはいえ、人間二人を担いで山登りは堪えるわい。この程度の『身体強化』など、あの魔物は軽々使えるのだろうが」
なにかにつけて、例の魔物———へレスの姿が脳裏によぎる。
「ナイトメア・クロウラーにさえ儂の魔法は歯が立たんかったというのに、あの化け物はそれより上だと言うのか……どうやってじゃ? どうやってそこまでの強さを手に入れた?」
ブツブツと呟きながら、絶壁の山肌を進んでいく。
途中、襲い来る巨大な鳥の魔物を軽々と撃ち落としながらも、その魔法と、ドラゴンを打ち破ったへレスの魔法を比べ、ギリッと歯を鳴らす。
「魔法の頂は儂のものじゃったはず。それが今や……あぁ、羨ましい、妬ましい……」
————スキル『嫉妬の種』を獲得しました————
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。明らかに続きがある流れですが、一旦ここで終わらせようかと思います。
『いやこんな中途半端なところで終わらせるなよ』と言いたい方もいらっしゃると思いますが、なんとなく切りがよさそうなので……(続きができていないというのもありますが。)
またそのうち、続きを書いて投稿するかと思いますので、その時はよろしくお願いします!
それでは、ありがとうございました!




