終焉、あるいは新たな復讐の始まり
評価・ブックマークありがとうございます!
昨日は投稿できなくてすみません。
今日はこの後ももう一話投稿する予定ですので、ちょっと早めに更新です。
「ごちそうさま。さて……」
「ひいぃっ!」
私が王様に目を向けると、恐怖に顔を歪ませた王様がお尻を引きずりながら後ずさりした。
いいね、その表情。
復讐はこうじゃないと。
自信満々に召喚したドラゴンが返り討ちにされた気分はどうかな?
ドラゴンを殺せるほどの魔物と敵対している気分は?
「なんなのじゃお前は! いったい何者なのじゃ!」
「知らないとは言わせないわよ。私はあなたに滅ぼされた魔蜂の生き残り」
「嘘を申すな! 生き残りがいる訳が無かろう! 大体、お前のどこが魔蜂なのじゃ! そんな姿の魔物など聞いたことも無い!」
「私は覚えているわよ? ドラゴンの瞳に睨まれる恐怖も、ブレスの熱も、目の前で私の家族が殺される光景も……片時も忘れたことが無い!」
私の口から出た悲痛な叫びに、王様も息を飲んだ。
「あなたに分かる? 目の前で家族が惨殺されていく恐怖が。幼体のまま、突然独り取り残される虚無感が。戦闘力も何もないまま魔物が跋扈する洞窟の中に放り出される絶望が」
自分でも驚くぐらい、すらすらと言葉が出てくる。
前世でもこんなに喋ることなんて無かったのに。
自分の声ではない程に低い声に、王様は冷や汗を流し、ただただ小さくなっている。
「私の人生は、その時からずっと復讐の人生……それがようやく果たせそうね」
「ひっ! ま、待って下され! そんなつもりは無かったのじゃ!」
「さっきドラゴンの腕試しって言ってたじゃない。目障りだったのでしょう」
「っ! な、ならこうしよう! 我がメートリス王国と貴殿の間で、友好を結ぼうではないか! 我がメートリス王国は大国! 資源でもなんでも、貴殿の望むものを与えようではないか!」
「悪いけど、もう私の心は決まっているわ」
「ひっ……命だけは……」
「でも、その前に質問。正直に答えなさい」
「は、はっ……!」
「このドラゴン、借り受けたものと言っていたわね? そこのところ、詳しく教えて。変に誤魔化したら……分かるわね?」
「ひぃっ! そ、其方の巣を襲う少し前のことじゃ! 【ドランシア】から来たという男が儂にドラゴンの召喚石を売りに来たのじゃ! 男の素性は知らぬ、儂も怪しい者として最初はつまみ出そうと思うたが、目の前でドラゴンを呼び出されては信じるしかなかろう!」
「【ドランシア】とは? それはどこにあるのかしら?」
「その男は『ドラゴンが住まう国』と言っておった! 同盟国とは言うたが、互いに相応の物を贈り合って友好を示したに過ぎん。儂は場所も何も知らぬ、誓って本当じゃ!」
「あぁ———」
最悪だ。
私が憎むドラゴンが、複数存在することが確定してしまった。
それも、国を名乗る単位で。
確かに、私の巣を襲ったドラゴンへの復讐は終わった。
けど、この心に燻っている憎悪の炎は、留まることを知らない。
この炎はどうやったら消える?
遊び半分で私の家族を皆殺しにした、この王を殺せば収まるのか?
それとも、その【ドランシア】とやらを滅ぼせば?
分からない。
一つ言えるのは、私の復讐はまだ終わらないということだ。
「わ、儂は正直に話したのじゃ……どうか命だけは……」
「……安心して、あなたは殺さない」
「おぉ、なんと慈悲深い……」
勘違いしてもらっては困る。
その代わりに、私と同じ絶望を受けてもらうから。
潤沢な魔力を惜しげもなく注ぎ込み、巨大な召喚魔法陣を王宮の上空に展開する。
私の鋭敏な感覚は、召喚陣を見てざわざわと騒ぎ出す住民の声を捉えている。
これは召喚陣なのだ。
召喚するのは、私の自慢の配下たち。アラネイド、魔蜂の働きバチ、軍団蟻などなど。その数、一万強。
しかも、一体一体が『女王の下賜』によって2000は下らないステータスを誇る。
すでに私の手によって主要な騎士団員が全滅した今、住民を守るものは誰もいない。
つまりどうなるか。
———皆殺しだ。
「ま、魔物だ! あの魔法陣から大量に!」
「逃げろ!」
「ひっ、うわぁぁぁぁぁぁっ!」
私の配下達が攻撃を開始した。
逃げ惑う住民にアラネイドや魔蜂が軽々と追いつき、一撃でその命を奪い取る。
少しでも逃げ遅れれば、軍団蟻によって惨殺されていく。
軍団蟻のSTRの前では、鎧や盾など無意味だ。
「なんじゃっ、何が起こっておる!」
王宮の外から聞こえてくる悲鳴にようやく気付いたのか、王様が崩れた壁へと駆け寄って外に目をやる。
———そこには、地獄絵図が広がっていた。
召喚してたった数分だというのに、眼下の街には既に血の海が広がっている。
逃げ惑う住民を容赦なく襲い、殺し、住処へと運ぶ魔虫の軍団。
王宮を中心に溢れるように召喚された魔虫たちは、私の命令に従いこの国に住む者全てに死を与えるべく侵攻を開始した。
黒い絨毯のように広がっていく魔虫の軍団が通った後には、何も残っていない。
女性も男性も老いも若きも関係なく、何もかも。
「なっ、なんだこれはぁぁぁぁっ!!」
目の前の光景が信じられず、頭を抱えて叫び声を上げ、膝から崩れ落ちた。
「安心して。襲うのはこの国だけにしておいてあげるから」
「そんなっ……命は奪わないのではなかったのか!」
「あなたの命だけはね。強大な魔物に襲われて自分だけが生き残る……私の気持ち、分かってもらえるかしら」
「騎士団はっ、冒険者たちはっ、魔物をなんとかするのが仕事だろう!」
騎士団はもう私のお腹の中。
普通の冒険者だって勝てないよ。
この魔虫たちは、みんな騎士団並のステータスだから。
「誰か……誰か助けてくれ……」
「それじゃ、お別れね。もう二度と出会うことは無いと思うけど、ご機嫌よう」
徐々に静かになっていく王都と、狂ったようにブツブツと声を漏らす王様を無視し、私はその場を後にする。
————その日、メートリス王国は滅亡した————
誤字報告等もありがとうございます!
しばらくしたら、もう一話投稿する予定ですので、良ければ読んでください。
 




