飛べるようになってからが一人前
評価・ブックマークをしてくださった方々、ありがとうございます!
以下、続きをば。
んはっ!起きた!
あぁ、良かった。無事目が覚めたようだ。
真っ暗で何も見えないけどね。
分かってるよ?何かに包まれてるってことは。
という訳で、脱出!
バリバリバリッ!
紙が裂けるような音とともに、視界が光に包まれる。
おぉ……おおっ!
見違えるように世界が広い。
複眼ってすごいのね。ほぼ360°全てが視認できる。
脚の先には二本の鋭い爪。
身体は黄色と黒かな。洞窟の中では目立ってしまう警戒色だ。
視界の端に映ってるのは翅かな?茶色で向こう側が透けてる。
どうやら成体になったようだ。
翅ってことは……飛べるってこと!?
小さいころの夢だったんだよね、空を飛ぶの。幼稚園ぐらいの時の。
翅の動かし方は……何となく分かる。
意識しなくても、飛ぼうと思ったら勝手に翅が動く感じだ。
では……いざテイクオフ!
ブッ……ブブブブブブッ
おぉっ!浮いた浮いた!
あぁ、なんか感動する。ついさっきまで身動きすら難しいぐらいの芋虫だったのに、今となっては空を飛べるようになったのだ。
練習もかねてこの辺りを飛び回ってみる。
発進、加速、停止……簡単簡単。これぐらいは思い通りだ。
続いて急発進、急停止、ホバリング、旋回、宙返り、バレルロール……
すげぇ。昆虫すげぇ。
戦闘機とかヘリコプターで再現不可能って言われてる飛行方法が何でもできるじゃん。
バイオミメティクスって言うんだっけ。
昆虫とか植物とかから発想を得て技術を開発するやつ。
ある意味人間のお手本になってるもんね。昆虫も捨てたもんじゃない。
結構スピードを出して飛んでるのに、壁や突き出た岩にぶつかることは無い。
もちろん複眼でしっかり見えているのもあるけど、多分頭から生えてる触角の機能だ。
ほんの僅かな空気の流れをキャッチして、周囲の様子を把握できる。暗闇でも楽に飛べそうだ。
荒んでた心が少しだけ穏やかになった気がする。
巣の中でニート生活も良かったんだけど、ほとんど動かずに過ごしていたことには多少ストレス溜まってたのかな?
解放された……というのも変かもしれないけど、もう少しこの感動に浸っていたい。
しばらく飛んでいると、自分が破った蛹の殻の傍に、光を反射する何か目に映った。
ん?あれは……あぁ!
生まれ変わった感動に忘れてた!
自分の命と同じぐらいに大切な私の卵!
ブンッ!
風を切る音とともに一瞬で卵の下へ移動し、三つの卵を拾い上げる。
……うん、大丈夫だ。傷一つなく鏡のように艶やか。
はぁ、良かった。
成体になるまでどれぐらい時間がかかったのか分からないけど、襲われることは無かったようだ。
私にとって、この卵はある意味最後の希望。
この卵が殺されることがあったら、私はおそらく死を選ぶだろう。
それほどに、私の中にはこれしかない。
しかし、蛹になっていた私もそうだけど、隙だらけで都合の良いエサだ。
そんな状態でも襲われなかったということは、この辺りには魔物がいない?
まぁ、あんなクソ強ドラゴンが居るならみんな逃げるか。
じゃあなんでこのハチの巣を狙った?
あれほど強ければエサに困らないだろうし、毒のあるハチをわざわざ食べる必要はない。
何より、女王バチは見るも無残に殺されていた。
殺すために殺したようにしか見えない。
ハァ、嫌なことを思いだしたな。
あのドラゴンを思い出すほどに怒りが溜まる。
もちろん心は変わっていない。
『国』を復活させて、あのドラゴンに復讐する。
圧倒的な強さを以って世界に君臨する。私の人生はそれだけだ。
……とりあえずやることを纏めておかないと。
復讐に身を窶すのもいいけど、先走っては取り返しのつかないことになる。
計画的に実行できるのは元人間の私の特権かな。
人間の頭脳と魔物のフィジカル。これを活用しない手は無い。
目先の目標は、ひとまず住処の確保かな。
卵を守るのが私しかいないから、私が寝ている間は卵が無防備になってしまう。
見つかりにくい巣をつくるか、突破されないような強固な巣をつくるか。
うーん、見つかりにくいのをつくるのが現実的かな。
なんて色々と計画していたのだが、自分に巣を作れるような能力があるかと心配になってきた。
でもそんなのやってみないと……って、『ステータス』あったじゃん!
一回見てから0ばっかりで悲しくなって、ずっと確認してなかったんだよね。
だってステータスをチェックする習慣なんてないし。
チェックするようにしておかないとね。
という訳で『ステータス』!
名前:無し
種族:女王魔蜂
Lv:1
状態:普通
HP:2540/2540
MP:580/580
STR:840
VIT:250
AGI:770
DEX:380
RES:500
スキル:『禁忌の暴食Lv――』、『禁忌の強欲Lv――』、『女王の支配Lv1』、『魅了Lv1』、『過食Lv1』、『猛毒生成Lv1』、『熱感知Lv1』、『飛翔Lv1』、『超音波Lv1』、『鑑定Lv1』
称号:《禁忌を犯せし者》、《魔蜂の女王》
ファッ!?
滅茶苦茶強くなっとるやんけ!
えぇ、成体になっただけでこんなに強くなる?
働きバチ強い説は間違ってなかったみたい。
幼体の時はほぼ0だったのにこの上がり幅よ……。
素直にありがたい。このステータスが高いかどうかは知らないけど、パッと見期待は持てる。
あとこのスキルの量!
『食いしん坊』しかなかった私が見違えるような進歩である。
……いくつか物騒なスキルが混ざってるけど……。
『禁忌の暴食』と『禁忌の強欲』!お前らのことだ!
禁忌って言ってるもん、絶対ダメなやつだよこれ……。
ところでどんな効果がある?(興味津々)
だって仕方ないじゃない。
禁忌の~とか、うきうきするに決まってる。
こう、スキルの欄に意識を集中させて……お、詳細見れるぞ。
『禁忌の暴食』
称号:《禁忌を犯せし者》を持つ者に与えられる、大罪を司るスキル。
捕食した相手のステータスと身体的能力を得る。
おぉ、期待通りの強スキル。
食べた相手のステータスを得るってことは、たくさん食べればそれだけ強くなるということだ。
あ、もしかして私のステータスの上がり方も、このスキルがあったから?
ごめんね、みんな。
みんなの力を借りて、私がなんとかするから。
……ところで、身体的能力を得るってなんだろ。
あれかな?例えば魚を食べたらエラ呼吸ができるとか。
おぉ、それなんてファンタジー……。
とりあえず、このスキルは超有用。
これをなんとか活用して、もういない仲間に恥じない人生を送りたい。
さて、シリアスはここまでにして、もう一つのスキルも見てみよう!
『禁忌の強欲』
称号:《禁忌を犯せし者》を持つ者に与えられる、強欲を司るスキル。
自分または配下が殺した相手のステータスとスキルを得る。
おぉ、これも間違いなく強スキル。
と言うか、《暴食》と《強欲》でステータス奪うの、被ってない?バランス大丈夫?
《暴食》でステータスと身体的能力を奪取。
《強欲》でステータスとスキルを奪取。
くふふ、復讐に希望が見えてきた。
この洞窟の魔物を食い尽くして、強くなって、あのドラゴンをぶち殺す。
じゃ、まずは食料確保かな。