もう少し、もう少しで———
評価・ブックマークありがとうございます!
今日は用事がありまして、ちょっと早めに投稿です。
意外とあっさりいきますよ。
「くはははっ! これこそ我が同盟国ドランシアの王より賜った秘密兵器、黒竜ブリガンド! 貴様など塵に変えてくれよう!」
鎧と表現すべき重厚な鱗に全身を覆われた姿、縦に割れた金の瞳から感じられる威圧感、紛れもない、あの時のドラゴンだ。
ずっと待っていた。
この時を。
あの時の怒りを、悲しみを、虚無感を、絶望を、ほんの一時たりとも忘れたことはない。
あぁ、殺したい。
否、確実に殺す。
……でもその前に、一つ確かめなければ。
「やれっ、ブリガンド! 敵は目の前n――」
ズドンッ!!
私の拳がドラゴンの横っ面に突き刺さり、爆発もかくやというほどの炸裂音とともにその巨体を吹き飛ばした。
その勢いは衰えず、ドラゴンはそのまま壁に激突、壁を崩壊させながら王宮の外へと弾き出された。
「なっ……んぐっ!」
驚きの声をあげかける王様の胸倉を掴んで黙らせ、そのまま持ち上げる。
STRの値が異常だからか、羽根のように軽い。
「私の問いに正直に答えて。……少し前、魔蜂の巣を崩壊させたのは、あのドラゴンで間違いはないかしら?」
「くくく……ふははははっ!!」
「正直に答えて」
「もう勝ったつもりか? 貴様の攻撃など、我がブリガンドには毛ほども効いておらんわ!」
王様の声に呼応するかように、城の壁が崩壊すると同時に鞭のようにしなる漆黒の尻尾が飛び込んできた。
複眼があってAGIも馬鹿みたいに高い私に当たる訳もないが、王様に当たっても困る。
王様を投げ捨てて避けると、黒い尻尾は周囲の大臣達数人を引き裂いていった。
ガラガラと瓦礫となった城が崩れていき、立ち上る砂煙の向こうにドラゴンのシルエットが浮かび上がる。
……人が死ぬのはどうでもいいんだけど、まさか私の攻撃を耐えるどころか、ほとんど効いていないとは。
ただステータスが高いだけじゃないようね……鑑定。
名前:ブリガンド
種族:竜種
Lv:103
状態:普通
HP:1216500/1216500
MP:387624/387624
STR:608795
VIT:523380
AGI:556132
DEX:487084
RES:562829
スキル:『ドラゴンメイルLv――』、『熱感知Lv8』、『立体機動Lv5』、『超音波Lv10』、『身体強化Lv10』、『毒耐性Lv7』、『空間把握Lv8』、『威圧Lv10』、『遠見Lv10』、『思考加速Lv8』、『土魔法Lv10』、『火魔法Lv10』、『闇魔法Lv8』、『風魔法Lv10』
称号:《暴君》、《竜王の僕》、《恐怖の権化》
『ドラゴンメイルLv――』
《竜種》以外から受ける物理的ダメージを0にする。
は?
『ドラゴンメイル』チートすぎるでしょ。
実質同じドラゴンじゃなきゃ倒せないじゃん。
なるほど……魔蜂を全滅させた時も、『アナフィラキシーショック』を持ってる数万匹の魔蜂に囲まれて無事でいられるはずがないと不思議に思ってたけど、そもそも効いてなかったのか。
実際、私が本気で殴っても全くHP減ってないし。
「ふはははっ! 貴様の質問に答えてやろう。貴様の思う通り、ブリガンドにあの魔蜂の巣を襲わせたのは我だ。ブリガンドの力試しにはちょうど良いだろう?」
力試し?
「ついでに邪魔な虫けら共を消すことができて一石二鳥!」
虫けら共?
「くくく……ブレスによって消し炭になっていく魔蜂……傑作であったな! 蔓延る虫けら共を駆除するのは気分が良い! 貴様もあの虫けら共と同じようn「黙れ」っ――――!!」
大瀑布のような殺気を浴びせ、王様を黙らせる。
『憤怒』も併用しているからか、息もし辛いほどのプレッシャーの中でもがいているようだ。
王様のクソみたいな台詞を聞いて決心した。
こいつは殺してやらない。
私と同じ目に遭わせて、絶望に叩き込んでやる。
「お前のっ、番は最後……それまで、黙って、見ていろ」
怒りでどうにかなりそうな感情を抑えつけ、辛うじて言葉を紡ぐ。
物理ダメージ無効なら、魔法は効くのだろう?
「ギュオォォォォォォォォォォォッ!!」
空気を震わせるような咆哮と共に煌々と燃え盛るブレスがドラゴンから放たれる。
そんなバレバレな攻撃、当たるかよ。
放つ瞬間にはドラゴンの頭上に移動しており、ブレスは全く無関係の方向に飛んでいく。
レーザーのようなブレスの威力を物語るかのように、ブレスが通った道は融解し、城の壁も崩壊させ、直線上には何も残っていない。
一応ドラゴンは王様を主人として認識しているのか、王様には影響が出ないようにしているようだが、取り巻きの大臣達は影も形も無い。
私にとってはどうでもいいが。
『引斥の呪眼』に『禁忌の憤怒』を併用して、放つ。
重力操作が可能な『引斥の呪眼』の超重力によってドラゴンは地面に叩きつけられ、身動きができずに唸り声を上げている。
『禁忌の憤怒』相手のRESを0とみなして攻撃を与えられるため、どんなにもがいても抜け出すことはできない。
「何をしているブリガンド! そんな奴早く……ひぃっ!」
身動きができなくなったドラゴンへ、『火炎魔法』、『瀑流魔法』、『疾風魔法』、『地裂魔法』、『閃光魔法』、『暗黒魔法』……ありったけの魔法を叩き込みまくる。
「くふっ……ふふふふ……」
魔蜂を全滅させたあのドラゴンが、今や私の手のひらの上。
恐怖の象徴だった金の双眸は徐々に光を失い、次第に恐怖に沈んだ色に染まっていく。
その事実に、ついつい笑いが込み上げてきた。
すぐに死んだらつまらないから魔法には『憤怒』を乗せてはいないが、それが結果的にドラゴンを苦しめているようだ。
私にとっては都合がいい。
「ウゥゥ……」
助けを求めるかのような瞳を向けるドラゴン。
まだ耐える? ならもっと試しちゃおう。
『雷電魔法』、『炎獄魔法』、『空間魔法』……
「グオォォォォッ!」
「ひぃっ!」
あ、『空間魔法』使ったところでドラゴンの腕が千切れた。
物凄い断末魔の悲鳴を上げるドラゴンだが、『引斥の呪眼』によって身動きが取れていない。
血を噴き出しながら苦しそうにもがくドラゴンを見て、はたと気付く。
鱗が無ければ『ドラゴンメイル』も効果がないんじゃね?
……試す価値あり。
身動きが取れないドラゴンに近寄り、腕の断面を確認し……そこを齧り取る。
「ッ! オォォォッ!!」
うるさっ……
まぁ仕方ないか。生きたまま喰われる痛みは想像を絶する。
しかし、思った通り鱗がない場所は『ドラゴンメイル』の効果も無いようだ。
これはいい。苦しみながら死んでくれそうだ。
ブシュッ! ミチミチッ、ブチッ!
「ギュァァァッ!」
肉を齧る。
血が噴き出し、ドラゴンが悲鳴を上げる。
ん~、美味しくはない。
というか、怒りのせいで味が分からない。
……簡単に死んでは困るから、『治癒魔法』によって出血を止め、もう一口。
チラッと王様に目を向けると、切り札であるドラゴンが生きながら喰われていく光景に、現実を受け止められず呆然としているようだ。
もう少し、もう少しで……死んだ私の家族の仇がとれる。
そしてその元凶を、絶望の淵に追いやれる。
どんな顔で泣きわめくか楽しみだ。
誤字報告等もありがとうございます!
ステータスを一部修正しましたので、ご確認ください。
追記 もしかしたら、明日は投稿できないかも。いい感じのところなので、楽しみにしてくださっている方はごめんなさい。可能だったら投稿します!




