私はずっと、あなたのことを想っていたわよ……殺したいぐらいにね?
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「いったい何がどうなっておるっ!」
王宮の会議室に怒号が響く。
声の主はメートリス王国国王、ナルフェン・メートリスの声であった。
周囲には各部門の大臣達が慌ただしく動くが、ナルフェンの問いに答えられた者は居ない。
混乱の原因は、数日前の強力な魔物の王宮襲撃事件である。
何の前触れも無く現れたその魔物は、メートリス王国の関所と王都を囲む門を軽々突破して十秒とかからず王宮へ到達、破壊活動を繰り返してその場を去ったという。
活動時間は1分も無いが、衛兵を中心に数十人の死者を出し、王宮自体も半壊するという甚大な被害を出したのだ。
何より、その魔物を目撃した者は一人残らず殺され、観測員が記録したはずの『記録石』もご丁寧に破壊されており、数日経過した今でも魔物の正体が分かっていないのだ。
魔物の正体も不明。
襲撃に至った経緯も不明。
背後関係も、何もかもが不明。
分かっているのは、人ではなく魔物の仕業であることと、1分とかからず衛兵の死体の山を築けるほどの化け物じみた強さがあるということだけであった。
「お、王よ……今はとにかく、ご自身の身を按じては……。またいつ件の魔物が現れるとも知れません。まずは御身を安全な場所に……」
「おぉ……そうじゃな。隣国にも協力を仰いで……」
「あら、せっかく私が来たのにつれないわね」
「「「!?」」」
その声は、王宮を包む喧騒の中でもなぜかはっきりと耳に届いた。
鈴の鳴るような透き通る声に目を向けると、そこには……何かがいた。
何かと表現する以外に無いのだ。
一見すると、非常に容姿の整った絶世の美女。
しかし、六本の腕、背中の翼、何より臀部にある昆虫の腹。
人間ではない。
しかし、ただの魔物でもない。
目の前にして尚正体不明のそれは、不満そうな表情とともに口を開く。
「まさかとは思うけど、そっちから宣戦布告してきて自分だけ逃げるつもり?」
「し、侵入者だっ!」
「いったいどこからだ!?」
「衛兵を呼べ! こいつをなんとかしろ!」
「囲め! なんとしても王をお守りするのだ!」
私の問いかけに対して、返答はない。
それどころか、重そうな鎧に身を包んだ騎士達がドカドカと部屋に雪崩れ込み、私を取り囲んで切っ先を向ける。
「……あなたが王様? 私は話をしに来たの」
さすがに、偉そうなおっさん達やゴツい騎士達が誰を庇おうとしているのかぐらい、見れば分かる。一人だけやたら豪華な服着てるしね。
十中八九、こいつが王様。
なのだけど……
「こいつが噂の人語を話す魔物か!」
「ひっ! え、衛兵よっ、早くなんとかしろ!」
「もしや、王宮襲撃もこいつが……」
……誰も話を聞かない。
そんな気はしてたけどね。ラクネアが派手にやったみたいだし、てんやわんやで真面目な話をする余裕は無いでしょ。
うーん、いい加減うるさいなぁ……。
「魔法の準備をしろ! 土魔法でやつを捕らえて、火魔法で焼き尽くすのだ!」
「重複魔法陣を展開しろ! 火力でやつをこr「黙りなさい」」
『蜘蛛糸生成』で作り出した糸に『空間魔法』を乗せて一閃。
高レベルの『空間魔法』スキルを乗せることで、触れた部分の空間をずらすことで事実上あらゆるものを切断可能にした攻撃用の糸。
視認すらできないスピードで振り抜かれたその糸は、何の抵抗もなく私を取り囲んでいた衛兵達の首を通り抜けた。
「なんだっ、何をしている!? 早くあいつを殺せ!」
衛兵達の背後、腰が抜けた様子の国王がギャーギャーと喚く。
どうやら糸による攻撃に気付いてすらいないようだ。
仕方ないなぁ。
『風魔法』を、MP消費を最低レベルにまで落として発動。
私を中心にそよ風を吹かせると、ようやく衛兵達の身体が崩れ落ち、大量の血とともに切り離された頭部が床に散乱した。
「ひっ、ひぃぃぃっ!」
そこでようやく衛兵が殺されたと分かったらしい国王は、服が汚れるのもお構いなしに腰を引きずって後退り。
周りの大臣達も、身を伏せてガタガタと震えるばかりである。
……ま、人間はこんなものだ。
「なっ、なんなのだお前はっ!」
「何って……私がヘレスよ。あなたが騎士団を差し向けて私を殺そうとしたのでしょう?」
「なっ……き、貴様が例の魔物だとでも言うのかっ!」
「さっきからそう言ってるでしょう」
「あり得ない! 討伐には第一から第三までの騎士団を集結し、何より最強のラインハルトも向かわせたはず……」
「あぁ、これのこと?」
王様の言葉を遮って瞬時に『空間魔法』の魔法陣を構築する。『転移魔法』の応用で、自身ではなく他者を呼び寄せる魔法である。
私が呼び寄せるのはもちろんあの三人。
数回の忠告を無視して無謀にも私の配下へと挑み、敗北して心を折られ、『称号』も尊厳も、何もかもを奪われボロ雑巾のような姿で横たわる、ラインハルト、サリエリ、ダグリスの三人であった。
私が三人の騎士団団長を呼び寄せると、凄惨な光景に王様や大臣達が小さく悲鳴を漏らした。
「まさか……ラインハルト殿……?」
「なっ、そんなバカなっ!?」
「最強たる勇者が殺されたとでも言うのかっ!」
「生きてはいるわよ、ほら」
数秒経ってようやく、これが騎士団長達だと理解したらしい大臣達が騒ぎ出すので、三人を軽く蹴って寄越した。
本当に軽~~~~くなのだが、STRの値がぶっ飛んだ数値なので、三人はなかなかの勢いで宙を舞う。そのまま三人の身体は数人の大臣や王様にぶつかり、彼らを巻き込んで仰向けに薙ぎ倒した。
「うぐっ!」
「くっ……とにかく彼らの治療を行うのだ!」
「絶対に死なせてはならんっ!」
「あなた達の頼みの綱の『勇者』とやらも、私には全く歯が立たなかった。そんな私を、あなた達は敵に回したの。どうなるかぐらい、分かるでしょう?」
少し多めにMPを消費し、容赦の無い『威圧』!
「「「ッ――――!!」」」
『威圧』はあくまで威嚇であり、相手の行動を制限するものではない。
にもかかわらず、物理的圧力すら感じるほどのプレッシャーにより、王様や大臣達は身動き一つできないでいた。
「くっ……何が目的なのだ……? 我らを殺す気か?」
暴風のような威圧が吹き荒れる中、王様は歯を食い縛り、凄まじい胆力で私を睨み付ける。
「場合によってはそうね。……私と私の子、そしてその配下に対する攻撃行為を一切やめてほしい。そうすれば、その騎士団長達も生きて返すわ」
「これほどの脅威が間近に存在すると知って、それを黙認しろと? ふざけたことを申すなっ!」
「…………」
「我は魔物が嫌いじゃ。魔物に毎年何人の人々が殺されているのか知っておるか? 幼少の頃より共に勉学に励んだ学友が何人死んだか知っておるか? 魔物は害悪! 共存の道などあり得ん!」
王様の心からの叫びに、周りの大臣達は少しだけ驚いた表情を見せた後、徐々に瞳に力が戻っていく。
王様としてのプライドかな……
まさか私の『威圧』を受けてなお敵対の意思があるとは。
しかも王様が息を吹き返してきたからか、大臣達の眼にも力が戻ってきている。
敵ながら天晴れというやつだ。
でも、それとこれとは別。
私とて、私の暮らしを脅かす相手を排除しなければならないのだから。
六本の手のひらにそれぞれ魔法陣を描く私を前に、王様は不敵な笑みを浮かべる。
「貴様はここで滅ぼす! たとえ我が死んでも、勇者が、騎士団が、この国の最後の一人がいなくなるまで抗って見せようぞ!」
「っ!」
王様が徐に取り出した手のひらサイズの結晶から滲み出る気配に、私は思わず身体を強ばらせる。
強さがどうこうという問題ではない。
本能からくる、恐怖のようなもの。
蜘蛛やトンボと戦ったときとは根本的に違うそれを感じたのは、今まででたった一回のみ———
「我がメートリス王国の守護神よ、目の前の悪を滅せよ!」
床に叩きつけられ、砕けた結晶から真っ黒な霧のようなものが溢れ出る。
その霧は部屋に充満し、徐々に一か所に集まりとある生物の形に変わっていった。
呼吸が乱れる。
視野が狭まる。
心が、何か黒いものに染まっていく。
「ギュォォォォォォッ!!」
私の恐怖の象徴だった、黒い鱗と破滅の閃光。
私の生きる原動力になっていた、怒りの対象。
————忘れもしない。
あの時のドラゴンが、私の目の前に現れた。
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