地獄の入り口3(別視点回)
評価・ブックマークありがとうございます!
気づけばなんと、総PVが10万を超えておりました!まさか私の拙作がこれほど多くの人々に読まれるとは……なんだか感慨深いものがあります。
いつも応援ありがとうございます!
あっ、今回も別視点回となっていますよ。
「ふむ、相も変わらずまたゴブリンか……まぁ、ただのゴブリンではなくゴブリンメイジであるところは評価するかのぅ」
各隊でそれぞれの道へ分かれた先、少し開けた場所で現れたゴブリンに対し、第三騎士団団長ダグリスはブツブツと独り言を溢した。
ゴブリンメイジとは、ゴブリン種の中でもMPが高く、いくつかの魔法スキルも持った魔物である。
魔法を扱う魔物自体がさほど多くなく、広大なパラクレート大迷宮でも発見されているものは十種にも満たない。
その中でも、ゴブリンメイジは通常のゴブリン以上に高い知能を有した魔物であるため、一定以上実力のある冒険者でなければ危険とされている魔物だ。
しかし、今この場に訪れたのは魔物の討伐を主とする第三騎士団である。ゴブリンよりもさらに強いオークやオーガとの戦闘も幾度となくこなし、その全てで勝利を収めてきた実績がある。
何より―――
「この儂に、よもや魔法で挑むつもりではあるまいな?」
何を隠そう、第三騎士団団長であるダグリスこそ、『賢者』の異名を持ち魔法において右に出る者無しと評される最強の魔法使いであるのだ。
その異名は国王から直々に賜ったものであり、その実力を疑う者はいない。
ラインハルトの剣を弾いたゴブリンの強さに及び腰だった他の団員も、相手がゴブリンメイジだと知って安心したぐらいなのだ。
負ける道理などない。
「この儂に魔法で挑む自信のほど、見せてもらおうかの」
―――スキル『風魔法』、『火魔法』、『二重詠唱』―――
ダグリスの左右に二種類の魔法陣が瞬時に描かれ、風と火の相乗により火災旋風が発生する。かつてエリザの分隊の隊員が二人がかりで行なった魔法を単独で発動してみせたのだ。
ただし、威力もスピードも、全くの別物。
あの時の魔法とは比べ物にならない高威力の魔法がゴブリンメイジを襲った。
しかし、このゴブリン達もただ者ではない。ヘレスの『女王の下賜』によってステータスとスキルを与えられているのだ。
三匹いるゴブリンメイジの内、二匹がそれぞれ『水魔法』と『土魔法』を発動し、残りの一匹が『火魔法』のチャージを開始する。
互いにぶつかり合う魔法。
通常、魔法の威力は消費MP量とスキルレベルの高さで決まる。
スキルレベルが高いダグリスの魔法を、ゴブリンメイジ達は潤沢なMPによって無理やり相殺してしまった。
「ほう、これぐらいは掻き消すか。なかなかやりおる」
長期戦を見越してMPを絞ったとはいえ、魔法威力増大の装備品、『叡智の指輪』を装備して放ったスキルレベル最大の魔法を相殺するとは、ゴブリンにしては偉業だろう。
褒め称えたい気分になるダグリス。
元来、ダグリスは正義感で騎士団を率いているわけではない。
魔法を極められればそれでよかったのだ。
流石に人間を相手に魔法の試し打ちをするわけにはいかないため、魔物を相手に研鑽を積んでいたある日、国王の要請で騎士団に入ることとなった、という経緯をもつ。
今回の討伐作戦に参加したのも、別の目的があったからだ。
エリザの報告によると、『へレス』と呼ばれた魔物は、短期間に急成長したらしい。
それを鵜呑みにするわけではないが、そんなことを言い出したきっかけが何かあるはず。
そして今、自身と互角に魔法を撃ち合ったゴブリンを見て、成長を促す、もしくはステータスを上げる何らかのスキルがあると確信した。
欲しい。
まだ見ぬスキルが。
圧倒的なステータスが。
この世界の叡智が。
「気が変わった。お主らの秘密、全て見せてもらおうぞ」
♢♢♢♢
『ダグリス、聞こえるか?』
戦闘中、突如聞こえたのは第一騎士団長ラインハルトからの通信魔法による声であった。
ゴブリンメイジとの戦闘の最中に水を差され、顔を顰めるダグリスであったが、ラインハルトがわざわざ通信を寄越すなど、よほどのことがあったのだろう。
それが分かっているダグリスは、皮肉は言えど本当に気分を害しているわけでは無い。
「なんじゃ、楽しんでおるのに」
『サリエリからの伝言だ。向こうで件の魔物を発見したらしい。そっちを片付けたら向かってほしい』
「ほう、もう見つかったか」
分隊とはいえ、十人以上の王国騎士団を死に追いやった例の魔物が現れたというのに、ダグリスの声はどこか愉悦が滲んでいた。他人の心配より自分の興味を優先する傲慢さこそ、ダグリスの本質だ。
用件だけを聞いてさっさと通信を切ったダグリスは、眼前のゴブリンメイジへと視線を向け、新たに魔法陣を構築し始める。大量のMPを消費した『火魔法』の上位派生スキル、『火炎魔法』だ。
スキルレベルは5程度であるが、上位派生スキルだけあって『火魔法LV10』を遥かに超える威力がある。いくらゴブリンメイジのMPが多くあろうと、これを凌ぐのは至難。
「では、終いじゃ」
ギャアギャアと騒ぐゴブリンメイジに向けて、火炎魔法を放つ。
世界最高峰の賢者が放つ、世界最高の魔法である。
ゴブリンメイジなどに、防ぐ方法はない。
魔法陣から放たれた魔法は竜のようにうねり、ゴブリンメイジを飲み込む―――
―――はずであった。
「っ!?」
強い魔力を感じダグリスがその場を離れた瞬間、正体不明の攻撃によって火炎魔法が吹き飛び、地面が大きく抉られた。
それも、ただ地面に穴が空いた訳ではない。
何者かが放った攻撃が当たった地面は、まるで切り取られたかのようにごっそりと抜け落ち、地獄へと続くかのような深い闇を覗かせている。
その光景を目の当たりにして、ダグリスの抱く感情は、恐怖ではなく興味であった。
『賢者』と名高い自分でさえ、見たことの無い魔法。
自分の本気の魔法でさえ掻き消す、強力な魔物。
戦慄とも興奮とも取れる体の震えを抑えつつ、『鑑定』を発動して魔法の発生源である上へと視線を向ける。
影より尚暗い闇がぬるりと滲み出て、魔物の形を象っていくように見えた。
『鑑定』が結果を表示するのと、姿を見て理解したのはほぼ同時。
現れたのは、紛れもない化け物であった。
名前:ラクネア
種族:ナイトメア・クロウラー (成体・変異体)
Lv:33
状態:普通
HP:37522/37522
MP:27680/35890
STR:34489
VIT:24357
AGI:33845
DEX:30458
RES:32512
スキル:『飽食Lv5』、『致死毒生成Lv8』、『熱感知Lv10』、『魔力感知Lv10』、『高速再生Lv4』、『身体強化Lv10』、『毒無効Lv5』、『空間把握Lv10』、『蜘蛛糸生成Lv10』、『操糸Lv10』、『隠密Lv10』、『危険察知Lv10』、『斬撃波』、『急所撃ちLv10』、『思考加速Lv5』、『韋駄天Lvーー』、『火炎魔法Lv10』、『瀑流魔法Lv10』、『疾風魔法Lv10』、『地裂魔法Lv10』、『閃光魔法Lv10』、『暗黒魔法Lv10』、『炎獄魔法Lv――』、『空間魔法Lv4』、『衰弱の呪眼Lv――』、『引斥の呪眼Lv――』、『戦慄の呪眼Lv――』
称号:《女王の配下》、《覇王種》
ゾクリと背筋に冷たいものが走る。
ほとんどのステータスが3万超え。
VITが他と比べて低いものの、2万を超えている。
「サリエリのやつめ、誤報ではないか」
出遭ってしまったものは仕方ない。
S+ランクを超えるナイトメア・クロウラーとは言え、やるしかないのだ。
覚悟を決めるダグリスであったが、そんな覚悟をあざ笑うかのように理不尽が襲い掛かる。
突如、言葉では言い表せない恐怖に身体が硬直すると同時に、抗いがたい凄まじい圧力によって地面へと縛り付けられる。そのうえ、みるみるHPが減っていくのを感じる。
攻撃の正体は明白。
ナイトメア・クロウラー―――ラクネアが八つの目によって『衰弱の呪眼』、『引斥の呪眼』、『戦慄の呪眼』を発動しているのだ。MPに差がありすぎて、抵抗どころではない。身動きも出来ぬまま、じわじわと殺されるだけだ。
ダグリスは瞬時に理解した。
あぁ、これはダメだ。
手を出してはいけなかった。
奴……エリザの忠告は本気だったのだ。
直前までの自信も興味も消えている。
人生で初めての無力感、後悔、そして圧倒的な恐怖のみ。
世界最高峰の『賢者』が恐怖に沈むのは、もう間もなく―――
誤字報告等もありがとうございます!




