とりあえずで王城を破壊する悪夢の権化(一部別視点)
評価・ブックマークありがとうございます!
先に謝っておきますが、書きたい内容を詰め込んだ結果、ころころと視点が変わってしまいました。
分かりにくかったらごめんなさい。
へレスに命令を受けたラクネアは、洞窟内を疾走しながらいろいろな考えを巡らせる。
母さん―――ヘレス様は無茶振りがすぎる……。
何で僕がわざわざ人間を助けに行かなきゃダメなのかな。
しかも、生まれたばかりの僕らを殺そうとしたやつらでしょ?
ハァ……。
まぁ、僕にとってヘレス様の命令は絶対だから、言われたからには完遂するけど。
きっと、カローネとバエウスも同じことを言うと思う。
……ヘレス様のスキルのせいか、ヘレス様の考えや意志が僕たちにも伝わっている。
たぶん、これがへレス様が持ってる《女王の支配》の効果なんだと思う。
思考や感情すら支配する異常なスキルだ。
僕たちに伝わっているのは、ヘレス様のドラゴンに対する憎しみや、僕への愛も全て。
言葉は要らない。
種族が違っても、魂で繋がった家族。
これほどまでに僕らのことを想ってくれているんだ。
応えるしか無いだろう。
数分して見えてきたのは、巨大な扉。この迷宮の管理をする人間が備え付けたものらしい。その側には、門番らしき人間が二人。
だから何だという話だ。
《隠密》によって気配を消し、《韋駄天》と《急所撃ち》によって即殺。
二人の人間は、苦しむどころか死んだことに気づかないまま処理された。
そのまま《斬撃波》によって扉の一部を切り裂くと、淡い光に包み込まれた。
『月』というらしいのだが、僕は初めて見た。
『夜』という時間帯の暗さと月明かりの心地よさに、初めて見る僕も好きになれそうだ。
でも、『昼』という時間帯になると、『太陽』が出てきてものすごく眩しいらしい。
そうなる前に、さっさとデリガードとかいう男を連れて帰ろう。
凄まじいスピードで大地を疾走し始めるラクネア。
決して敵対してはならない厄災が、地上へと放たれた。
♢♢♢♢
「凄まじい魔力反応が一体! 真っ直ぐ王都へ向かって……いえ、西門突破されました!」
「なんだと!? 門番は何をしているっ!」
「分かりません! ですが、王都の警備を軽々突破するほどの魔物です!」
「クソッ! 緊急出動! 迎撃にあたれっ!!」
王宮の一室、警備兵の待機室に怒号が飛ぶ。
「西門、応答せよ! どうした! 何が来ているっ!」
『分かりません! 敵がっ、見えない! 姿が見えないのに仲間が次々と……ぐぁっ!』
「どうした!おいっ、応えろ!」
「魔力解析結果出ます! これは……ひぃっ!」
「なんだ! 早くしろ!」
「え、S+ランクオーバー! ナイトメア・クr」
その名が伝えられる前に、観測員の首が飛ぶ。物理的に、鮮血を撒き散らしながら。
それは、ついさっき王都の西門を突破した魔物が、ほんの数秒で王宮へ到達したことを示している。
今、目の前で仲間が殺されたというのに、敵の姿は未確認。
桁外れに高いAGIと高レベルの隠密スキルによって引き起こされた悪夢だ。
『ナイトメア・クロウラー』―――長い歴史の中に極稀に出現し、その度に壊滅的な被害を刻んできた、まさしく悪夢の権化。
そんな化け物がなぜここに……と考える暇さえなく、衛兵団長の男は意識を永遠の闇の中に落とした。
直後、王宮全体を揺さぶるような衝撃と轟音が駆け抜ける。侵入した魔物が、王宮の一部を破壊した音だ。
もちろん、その音や衝撃は地下牢に幽閉されているデリガードにも届いている。
と言うより、破壊されたのは王宮の床、地下牢の天井部分であり、しかも狙ったかのようにデリガードのすぐ近くだ。
「っ……」
両手足を縛られたまま、飛び散る瓦礫をやり過ごしたデリガードは、直後に感じた肌が泡立つほどの恐怖に身をすくませた。姿を見るまでもない。この気配は、『ヘレス』と名乗った魔物と同類、もしくはその系譜のものである。
明確な死の接近に絶望するデリガードの目の前に、現れた魔物。
姿形は変われど、纏う雰囲気は忘れもしない。
あの時の蜘蛛がゆっくりとその姿を見せた。
そうそう、この人だこの人。
産まれて間もない僕らを殺そうとした人間の一人。
……ふーっ……落ち着け。
ヘレス様のご命令だから……ちゃんと連れて帰ったら、きっと褒めてくれるから。
「俺を殺しに来たのか……?」
違う。本心は殺したいけどね。
「お前の怒りもよく分かる。俺は逃げも隠れもしないから、一思いにやるがいい」
違うって。こういう、人間の変に拘りが強い所とか嫌いだ。
男を拘束している枷を軽々と破壊し、暴れられても困るから糸でぐるぐる巻きにして抱え上げる。
男がなぜかおとなしいのが救いだ。
ん、そろそろ周りが騒がしくなってきたから逃げよう。
……せっかくだから途中でおやつも拾っていっていいよね?
♢♢♢♢
あ、おかえり、ラクネア、
ちゃんとナイスガイを連れてきてくれたようね。ありがとう。
褒めて褒めてとすり寄ってくるラクネアを撫でてやると、嬉しそうに耳のような突起をピコピコと動かしてる。
うーん、可愛い……。
で、なんかナイスガイは気絶してるんだけど……『水魔法』、えいっ!
ナイスガイの頭からバシャッと水をかけてやると、ようやく目を覚ましたようだ。酷く咳き込んでるけど、まぁ仕方ないよね。
「ゴホッ……隊長!」
ナイスガイはくっころさんを見て喜色を浮かべたかと思ったら、直後に私やラクネアを見て恐怖に顔を歪めた。
人間は私達と違って表情が変わって面白い。
「そう警戒するな、デリガード。私やお前を救ったのは他でもないヘレス殿なのだぞ?」
くっころさんはそう前置きし、今に至った経緯を説明する。
「なんと……」
くっころさんの説明を聞いたナイスガイさんはそう一言呟くと、眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。どうするべきか、思考を重ねているのだろう。
たっぷり一分ほど経過した後、ようやくナイスガイさんは口を開いた。
「ならば、今ヘレス殿は我々の味方だと考えてもいいのか?」
「私を裏切らない限りは」
くっころさんとも約束はしたからね。利用価値がある限りは、味方だと明言しておいていいだろう。
「ならば私も覚悟を決めなければならないな……私、デリガードもヘレス殿の配下となることを誓おう」
「どうも」
《女王の下賜》が発動し、私のステータスの約一割がナイスガイに加算された。
ナイスガイは予想外のステータス変化に驚いた様子で、自分の身体を確かめている。まぁ、そんな反応になるよねぇ。
ステータスの確認もそこそこに、ナイスガイさんは私の方へ視線を向けて話し始めた。
「そういえばヘレス殿、エリザから聞いてはいると思うが、王国騎士団の件……」
「うん?」
「私がラクネア殿に救い出された時には、すでに王都を発っていた。三日もする頃にはここに到着するだろうな。しかも、第一から第三までの騎士団、合わせて数百人の規模でここを攻めるつもりだ」
数秒の沈黙の後、大きなため息と共にくっころさんが天を仰いだ。
「愚かな……あれほど忠告したというのに……。私の思いが届かず、ただただ歯痒いばかりだ」
「しかしながら相手は数が多い。囲まれればあるいは……」
「無理だろうな。それでどうにかなるステータス差ではない」
「二人は、その騎士団とやらに死んでほしくないのかしら?」
二人の視線が私に集中する。
「……いや、魔物との戦闘で命を落とすことは珍しくないし、覚悟の上だ。仕方のないことだろう。だが、避けられたはずだと考えるとな……」
ナイスガイが首肯でくっころさんに同意する。
うーん、確かにそうかも。私にとってはエサが増えるからいいけど、くっころさんとナイスガイにとっては同僚だもんね。
「じゃあ、これはどうかしら。貴方達は戦いたくないだろうし、もし戦いになったら、こっちで全部やるわ。その前に、貴方達にはその騎士団に最終警告をして欲しい」
「最終警告?」
「ええ、『今すぐ引き返せば命は助ける。けど、戦うのなら容赦はしない』、と」
「ふむ……せめてそれぐらいはやってやれるか。分かった、へレス殿の言う通り警告だけはしよう」
「じゃあお願い。……それと、どうせ戦いになるから、準備は手伝ってくれないかしら?」
「準備? 構わないが、何をすれば?」
「魔物をできるだけたくさん狩ってきてちょうだい」
私がやろうとしてるのは、戦力の増強。そのために、『召喚魔法』を使ってみようと思うのだ。
召喚魔法は、鍛えれば強力なものとなるが、即戦力になるものではない。
しかし、私には《女王の下賜》があり、獲物を狩って食べるほど、配下も強くなる。
私が食べれば食べるほど生みだした配下が強化され、配下はより強い獲物を狩れるようになる。すると、私の強化がさらに加速して、回復したMPでさらに配下を生み出す。そしてさらに大量の魔物を……とループできる。
三日もあれば十分よ。
チート持ちの私が鍛える軍隊相手に、人間の誇る騎士団はどこまで戦えるかな?
誤字報告やコメントもありがとうございます!




