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転生したらまさかの蜂の魔物って、噓でしょ……?  作者: 風遊ひばり
天災の誕生
27/74

決別(別視点回)

評価・ブックマークありがとうございます!

今回は別視点回となっています。

次は2000ポイント目指して頑張りますよ~。

メートリス王国第三騎士団分隊長エリザは、憔悴しきっていた。


無機質な岩壁に囲まれた洞窟を歩く私とデリガードには、往路の時のような勇猛さは欠片も残っていない。それどころか、仲間を失った悲しみや怒りすらも湧かない。


私達を支配しているのは、生かされた(・・・・・)というほんの少しの安堵と、心が押し潰されそうなほどの恐怖のみ。



薄暗い洞窟を抜けて爽やかな緑に包まれた瞬間に、ようやく生き残ったという実感が湧いた程度である。


私達にできることは、『ヘレス』と名乗る魔物の恐怖を正しく伝え、決して手出ししてはならないと冒険者ギルドや騎士団を諌めることである。

でなければ、この国が滅びかねない。


その思いを胸に、私とデリガードは報告へと急いだ。



          ♢♢♢♢



「第三騎士団ともあろう者達が、一匹の魔物になす術なく殺されたと?」



視線を鋭くしてそう声を発するのは、騎士団総長であり王国の武力部門の取り締まり役でもある、ドレイク・アートマンである。


その側には第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団それぞれの騎士団総長が控えており、例外なく私とデリガードに向ける視線が鋭い。


第三騎士団の分隊一つが壊滅したことより、一匹の魔物に壊滅させられた事実に意識が向いているようだ。



ギリッと奥歯を噛み締め、つい声を荒らげる。



「私が事前に聞いていた情報では、ステータスは高くても精々5000程度であったにもかかわらず、数日後の戦闘時には30000近くまで上がっていたのです! ステータスもさることながら、この成長スピードは異常です。最早我々には……」


「俄に信じがたいな……5000のステータスでも過去数回しか現れていないというのに、30000とは些か常識が外れ過ぎている」


「しかし、実際に我々はっ……!」


「我々は、何だね?」

「そんな荒唐無稽な話を信じるより、分隊長の指揮能力と隊員の実力を疑うのが道理だと思うが……違うか? エリザ殿」


「なっ……!?」



まさか、分隊の壊滅を実力不足と片付けるつもりか?

私の指揮能力が無いことはまだいい。それでもやってこられたのは、隊員達の団結があったからだ。


しかし、よりにもよって隊員の実力不足だと?

それが、死んでいった者へ向ける言葉か!



「何を考えているのか分からんが、やめた方がいいぞ」


「抑えろ、エリザ」



耳元で囁かれたデリガードの言葉に、はたと気付く。どうやら無意識のうちに剣の柄を握っていたようだ。



「……申し訳ありません。ですが、訂正してください。私の部下は皆有能でした。責任があるとすれば、それは……」


「何を言い出すかと思えば、今さら良い子ぶってどういうつもり? そう言えば責任が軽くなるとでも思ってるの?」



煽るような口調で捲し立てるのは、第二騎士団総長、サリエリであった。


見た目は十代前半の少女だが、凄まじい戦闘センスであっという間に総長の座についた人物である。敗けを知らない彼女は自尊心が強く、誰に対してもこんな口調である。



「そんなつもりは……」


「そもそも魔物の討伐なんて、小汚い冒険者と一緒じゃん。騎士団を名乗るのも変だと思うんだよね」



サリエリの言葉に、つい殺意が湧く。

それを敏感に感じ取ったサリエリは、ニヤッと表情を歪めてさらに続ける。



「第一、第二騎士団ならともかく、野蛮な第三騎士団なんて、負け組の集まりよね。それで全滅してるんだからホント使えない」


「いくらサリエリ様とはいえ、言ってはいけないこともありますよ」



ギリッと軋むほどに拳を握ったデリガードが、さらに声を低くしてサリエリを睨む。いつも冷静なデリガードでも、サリエリの発言には黙っていられなかったようだ。



「事実じゃない。私だったらこんな風にならないけど? あんた達が頭を下げるなら私が代わりにやってあげるけど?」


「それはなりません。二度と彼女・・に手を出してはならないのです」


「彼女? 何の話だ?」


「その魔物は『ヘレス』と名乗り、我々が手を出さない限りは、向こうも争うことはしないと約束したのです」



デリガードのその言葉に、場は騒然とした。



「魔物と取引とは……貴様、我々を危険に晒すつもりか?」


「ふふ、本性現したね。第二騎士団総長として、これは見逃せないなぁ」


「もう一度言います。彼女に手を出してはいけません。でなければ……国が滅びかねない」



知性を持つ魔物は、それだけで脅威とされている。

ましてや魔物との取引など、ここメートリス王国においては『売国行為』とみなされ大罪。


当然それはエリザやデリガードも理解しているが……下手に『へレス』に手を出し、国が亡ぶくらいであれば、たった二人の命など惜しくはない。


しかし、そんな二人の決死の思いも、彼らには届かなかった。



二人に手を下す理由を得たとばかりに嬉しそうな表情を浮かべるサリエリは、双剣を抜いて机を乗り越えようとする。


それを見たデリガードも大盾を構え、さらに言葉を続ける。



「これだけは忘れないでいただきたい。我々は国を想って……」


「もう売国奴の話は聞かないよ? あんた達を処刑して、そのへレスとやらも殺す。それで終わりじゃん?」


「もうダメだな……どさくさに紛れてエリザは逃げろ」


「なっ……それではデリガードが……」


「どうせここにいても、再び戦いに出されるか私刑にされるかのどちらかだ。どちらにせよ……」



デリガードはそう言い放つと、床を強く踏み鳴らした。

発動したスキル、《激震》によって建物全体を激しく揺らし、その場にいる全員の動きを奪う。



「ここに居ても未来はない!」


「これはもう言い訳できないよねっ」



《激震》をものともせずに一瞬で間合いを詰めたサリエリが瞬時に十回にも上る剣撃を繰り出すが、予想していたデリガードは《金剛》による防御力上昇を以って受け止めた。



「デリガード……!」


「行けっ! あいつらの死を無駄にするな!」


「っ……あぁぁっ!」



本当に嫌になる。王国の全軍に対し牙を剥いた以上、極刑は免れないだろう。

それをデリガードは一人で引き受け、私には逃げろと言う。


ここまで追い込まれてなお逃げることしかできない私の、なんと惨めなことか。

逃げるとしてもどこへ?

それは分からない。できるだけ、遠くへ。


もはやこの国に未練はない。

この命に執着もない。


……はずだったのに。

私の部下が、デリガードが死ぬなと言う。

それでは、私にできることなど一つしかないではないか。



分かった。

私も腹を括ろう。この命、なんとしてでも守ると誓おう。

誰がなんと言おうと、絶対に。



そう固く誓った私の頭の中に、声が響いた。



―――『スキル:傲慢の種を獲得しました』


誤字報告などもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 愚かだなこいつら、特にこのクソガキはわからせて、ぐちゃぐちゃに泣いて絶望と後悔の淵に沈んでほしいなニヤ(・∀・)ニヤ 人類滅びるのかな、やっちゃいそうだな
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