悪夢(別視点回)
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今回は別視点回となっています。
その魔物は、予想以上にとんでもない化け物であった。
体長は60cm以上、もしかしたら1m以上あるかもしれない。
黒と黄の派手な色のはずである魔蜂とは若干異なり、全体的に黒く艶やかな身体をしている。
さらに、その身体の表面には、光の反射なのか鱗のようなものが見えた。
そして、怒っているのか魔蜂の纏う気配は、ただただ凄まじい。
突き刺さるようなプレッシャーを放ち、その気配だけで自分が虐殺される光景を幻視してしまう程に。
あまりの威圧感に、声を出すことも逃げ出すことも出来ない。
なぜこんなやつが?
いったいどうやって生まれたのだ!?
こんなもの勝てる訳……
身体が硬直して動かない私達の前で、瀕死の魔虫三体の前に女王魔蜂が移動した。
その動きはあまりにも速く、まるで瞬間移動であった。
最初に予想していた、5000程度のステータスではありえない程の高速で。
まるでガラス細工を扱うような手つきで魔虫を水から引き上げると、なんと自分の腕を切り落として三体の魔虫に与え始めたのだ。
この魔蜂は何をしている?
魔虫を助けようとしているのか?
同族以外の魔物を排除しようとする魔蜂が、アラネイドやヘラクレスの幼体を?
そんな馬鹿な。
そこで、不気味な事実に気付く。
この魔蜂には、脚が八本もあるのだ。
得も言われぬ恐怖が心を支配していく。
あまりに歪なその姿は、もはや知っている魔蜂ではない。
まったく別物の、なにか。
そ、そうだっ、せめて《鑑定》を……!
魔虫に刺さった矢を丁寧に抜く魔蜂の鑑定を行うと、あり得ない数値が表示された。
種族:女王魔蜂(変異体)
Lv:8
状態:憤怒
HP:38048/44762
MP:29678/29678
STR:36474
VIT:36822
AGI:31820
DEX:33886
RES:32650
スキル:『禁忌の暴食Lv――』、『禁忌の強欲Lv――』、『女王の下賜Lv――』、『女王の支配Lv7』、『魅了Lv6』、『過食Lv7』、『猛毒生成Lv8』、『熱感知Lv7』、『飛翔Lv8』、『超音波Lv6』、『鑑定Lv6』、『自動再生Lv7』、『身体強化Lv5』、『毒耐性Lv6』、『斬撃波Lv7』、『空間把握Lv5』、『威圧Lv6』、『蜘蛛糸生成Lv6』、『操糸Lv7』、『隠密Lv5』、『遠見Lv4』、『アナフィラキシーショックLv5』、『遊泳Lv3』、『水魔法Lv3』、『危険察知Lv1』
称号:《禁忌を犯せし者》、《魔虫の女王》、《下剋上》
一瞬にして心が折れた。
もはや声も出ない。
一番低いMPでも、約3万。
それ以外すべてのステータスが3万を優に超えている。
HPにいたっては、4万超え。
たとえこの場にいる13人の騎士全員のステータスを合計しても、倍近い差がある。
逃げなければ、殺されるっ……!
「総員、撤退だっ!」
隊員達に逃げるように号令を出す。
あまりに桁違いな魔物の登場に身体を硬直させていた隊員も、逃げ出すように洞窟の出口に向かう。
直後、私のすぐ横を風が通り抜け、目の前に何かが噴き上がった。
私の顔にべっとりとついたそれは、血であった。
私の前にいた隊員二人の頭部が無くなっており、血飛沫を上げながら身体が崩れ落ちる光景に、ガクリと私の膝が折れる。
「ひっ……に、逃げっ……!」
「うっ、わぁぁぁぁあっ!!」
魔蜂によって地面に叩きつけられて破裂する隊員の頭部を見て、他の隊員達からも悲鳴が上がる。
命令を出していないにもかかわらず、恐怖に立ち向かおうと隊員達は各々に武器を構えて攻撃をしようとしている。
だが、無駄だ。
私達が何人集まろうが、順に殺されるだけ。
あまりにも差がありすぎるのだから。
あぁ、そうか。
あの三体の魔虫は、この魔物にとって大切な魔物であったのだ。
私達はその逆鱗に触れてしまった。
これまで数えきれない魔物を討伐してきた報いか……。
そして、悪夢が始まった。
矢を放っても、簡単に掴み取られた。
弱点であるはずの《火魔法》でさえ、《水魔法》で相殺された。
《水魔法》を使う魔蜂など聞いたこともない。
あり得ない現象は、人の正しい判断を簡単に奪う。
そんな私達の混乱を知ってか知らでか、ここぞとばかりに魔蜂の追撃が強まった。
「なっ、魔蜂が魔法をっ!?」
「こんなことがっ、ぐあっ!!」
「たっ、助けっ……!」
一人は牙の一撃で、首が喰い千切られた。
次の一人は《水魔法》によって胸を貫かれた。
鎧すら意味をなさない程軽々と。
ただ襲って殺すだけでなく、一様に残虐な方法で殺されていく。
国王に認められし第三騎士団を名乗る私達が、羽虫の如く、一方的に。
まるで、今まで私達が弱い魔物にそうしてきたかのように。
あっという間に八人が殺され、残りは五人になってしまった。
私とデリガード、そして弓士一人と魔法使い二人である。
すると、なんと魔蜂は《風魔法》と《火魔法》を同時に発動したのだ。
《風魔法》はまだ分かる。
だが、《火魔法》はあり得ないだろう!
一般的な魔物は《火魔法》が弱点であり、火を畏怖する傾向にある。
それを自ら使う魔物だと!?
「隊長!」
デリガードの声にハッと現実に意識を戻すと、魔蜂が放った灼熱の旋風が迫っていた。
「《聖魔法》――聖盾!」
私とデリガードによって発動した《聖魔法》は、《光魔法》の上位魔法である。
大量のMPを消費するうえに範囲も広くは無いが、《光魔法》よりも遥かに強い防御力を発揮する魔法である。
他三人の隊員は守りきれず、火に飲まれた。
しかし、悲しみは湧いてこない。
ただ恐怖が私の心を支配していた。
何十秒か、はたまた何分か。
時間も分からないほど続く灼熱の風に、私とデリガードのMPは凄い勢いで減っていく。
両方のMPが枯渇寸前になる頃、ようやく灼熱の風がやんだ。
《聖魔法》を使えなかった三人の隊員は、既に影も形も無い。
金属製の鎧が溶けているのを見ると、いったいどれほどの熱を持っていたのだろうか。
MP切れギリギリで解放されたが、全く助かっていない。
目の前には、あれだけの魔法を放ってもMPがまだまだ潤沢な魔蜂がこちらを見ていたからだ。
もちろんMPは減っているだろうが、如何せん元々のMPが多すぎる。
もう、私も殺されるのだろう。
MPも無い。剣を握る力も入らない。
迫る魔蜂に対して、デリガードが私の盾になるようにその身体を投げ出した。
馬鹿者っ、そんなことをしたらお前がっ……!
しかし、次の瞬間に訪れると思っていた死は、いつまでたってもやってこない。
何事かを目をやると、魔蜂の毒針はデリガードに刺さる直前で止まっていた。
なぜ、私達を殺さないのか。
その答えは無いまま、糸によって縛り付けられ、身動きを封じられた。
MPが無いため《火魔法》も使えず、力では何ともならない強度であった。
あれほど傍若無人に振る舞った魔蜂が、私達を殺すのを躊躇ったことに戸惑う。
しかし、やはり魔物なのか、既に息の無い隊員の遺体を食べ始めたのだ。
自分が知っている顔が魔物に喰われる光景とリアルな咀嚼音に、激しい眩暈と吐き気に襲われる。
あまりの精神的ダメージに耐えられず、私は意識を闇に落とした。
だんだんタイトルが適当になってる気がする……。
それと、ストックが少なくなってきて結構ピンチです。




