最悪な気分
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いつもより時間は早めですが、文字数は少な目です。
人間はあと七人。
もう既に六人殺した。
でも、私の心は全く痛まない。
私の心は寧ろ怒りに塗り潰されそうだ。
七人目、剣を握りながら震える足でゆっくりと後ずさりする男に近寄り、無造作に首を掴む。
そのまま力任せに握り潰して引き千切る。
激しく血飛沫が舞い、人間どもから悲鳴のような声が聞こえる。
『女王魔蜂のレベルが13に上がりました』
もちろん、それも私には関係ない。
私に向かって弓を構える男に、千切った頭部を投げつける。
物凄い勢いで鎧にぶつかった頭部は砕けて中身をぶちまけた。
勢いに負けて後ろに倒れる男の顔面に、毒針を深く突き刺す。
猛毒を流し込むと、身体が大きく跳ねてそのまま沈黙してしまった。
レベルが上がった《猛毒生成》の威力は《アナフィラキシーショック》を使うまでもなく、針を突き刺したダメージと相まって一瞬で人間の命を奪ったようだ。
これで八人。
『女王魔蜂のレベルが14に上がりました』
おっと、魔法が飛んできた。
風と火の複合魔法かな。
風が火を巻き込んで、火災旋風みたいになってる。
なるほど、そういう使い方もあるのね。
当たれば大ダメージかも。当たればね。
《飛翔》を使い、一瞬でその場を離れる。
人間どもには、瞬間移動にも見えただろう。
私のAGIはそれほどに高いのだ。
そんな炎の嵐に紛れ、後退する人間どもの姿を捉えた。
お、私を突き放しておいて、洞窟の外に向かう作戦?
カマキリさんみたいに思考停止じゃなくて、あくまでも逃げに徹するのは流石人間って感じかな。
逃がさないけど。
二つの魔法を合わせるの、私も真似してみようかな?
という訳で、《火魔法》と《風魔法》を同時に発動。
人間どもがやったみたいに、火災旋風を起こして彼らを焼き尽くす。
ん、MPが多いからかな?人間どもが放ったものより、随分威力が高いようだ。
あっつ!ちょっ、私にまでダメージあるんだけど!
でも、そんな威力なら、生き残ってる人間なんていないよね?
《風魔法》で炎を払うと、溶けて変形した鎧が三つと、何かが燃え尽きた後のような黒い物体が少々。
そして、火傷を負ったものの、まだ生きてる女剣士と大盾を持った男が一人ずつ残っていた。
『女王魔蜂のレベルが15に上がりました。エネルギーが一定値に達し、進化が開始されます』
へぇ、あれを耐えるんだ。
大盾のスキルか何かかな?
他三人は守れなかったけど、女の人は守ったみたいだ。
恋人とか?あんまりそうは見えないけどね。
っと、物凄い空腹感と眠気が襲ってきた。
あー、進化って言ってたもんね。
じゃ、残り二人。さっさと片付けよう。
毒針を出して女剣士へと高速で迫る。
女剣士は恐怖に塗りつぶされた表情をしていたけど、男の方はまだ生きた目をしていた。
毒針が刺さる直前、迫る私の前に、大盾の男が間に割って入った。
それを見た私は……針が男に刺さる直前で止めてしまった。
はぁ、思い出しちゃったなぁ……。
私を守ろうとした魔蜂たちを思い出してしまった。
あのドラゴンが襲って来た時、その身を賭して私を守ろうとした働きバチ達と、この男を重ねてしまった。
自分の命を投げ出してまで何かを守ろうとする姿に、私の心が反応してしまった。
怒りは収まってない。
でも、どうしても私の身体が動かない。
あと少し針を突き出せば、男を刺して殺せるのに。
……下手に人間の精神を持っているからいけないんだよね。
今回の私の虐殺、我が子達を襲ったこの人間どもと同じじゃないかと思ってしまう。
最悪な気分だ。
とりあえず、眠気が酷いから《蜘蛛糸》で生き残った二人をグルグル巻きにして動きを封じておく。
で、お腹が減ってるんだけど……まあ食べ物は人間しかないよね。
いただきます。
眠気で朦朧とする意識の中で、とにかく腹を満たすためだけに、既に死んでいる人間を食べ始める。
骨も残さず、バリバリと噛み砕いて全部飲み込む。
次第に身体から白い靄のようなものが現れ始め、私の身体を包み込んでいく。
ふぅ、ごちそうさま……。
人間を十人近く虐殺して食べるなんてとんでもないことをしているけど、とにかく今は眠気と食欲を満たすことで精いっぱい。
きっと後で罪悪感に襲われるんだろうな……。
そんなことを考えながら、眠りに落ちた。
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