パラクレート大迷宮の調査(別視点回)
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「『深緑の狩人』の情報によると、例の魔物は二階層と三階層を繋ぐ縦穴を住処としていたようだ」
「ふむ……確か、一階層には特に異変は無かったのだったな。であれば、最初からそこを目指そう」
「む、エリザ隊長。魔物です」
洞窟を進む私達の前に現れたのは、パラクレート・フロッグというカエルの魔物であった。
体長60cmにもなるカエルとしては比較的大きい魔物で、口から吐き出す毒攻撃が厄介でもある。
しかし、それさえ受けなければただの大きいカエルなので、討伐難易度は低い魔物だ。
むしろ、このパラクレート・フロッグを捕食するポイズン・サーペントや魔蟷螂が討伐難易度の高い魔物である。
「……いや、向こうから襲ってこなければ構う必要は無い。放っておけ」
「了解しました」
数匹いたパラクレート・フロッグを追い払い、再び奥を目指す。
魔物を放っておくのは、無駄な戦いをしたくないというのもあるが、むやみに命を奪いたくないという気持ちもあるのだ。
魔物の討伐を請け負う第三騎士団の隊長として、甘いことを言っているのは分かっている。
が、どうにも魔物の命を奪うことに忌避感を覚えるのだ。
そもそも私はなりたくてこの立場になったわけじゃないし……。
女の子らしくスイーツのお店とか回りたいし……。
なっちゃったからにはしっかりやるけどさぁ。
っといけない。
どうしようもないことを悩んでしまうのが悪い癖だ。
いまは、いつ命の危険があってもおかしくないような迷宮の中である。
気を引き締めなければ。
「隊長!《索敵魔法》に反応が!」
「分かっている。こいつは魔蟷螂だな……総員、戦闘準備!」
通路の陰から現れたのは、人間と同じサイズの巨大なカマキリ、魔蟷螂であった。
1000を超える高いSTRと《斬撃波》によって、一、二階層では魔蜂に次いで食物連鎖の頂点にいる魔物である。
また、動くもの全てを獲物と認識するほど凶暴な性格も相まって、比較的高いランクが設定される。
この個体も、私達を獲物と認識してキチキチと威嚇の声を上げ始めた。
鋭い鎌に《斬撃波》を乗せた一撃は、鉄の鎧をも切り裂く強烈な攻撃となる。
そのため、あまり近づいての戦闘は避けるべきなのだ。
そこで、私達はこんな戦法をとる。
「《火魔法》第一波、放て!」
私の背後にいる数人の魔法使いが魔法陣を描き、そこから火球が放たれる。
少し離れているとは言え人間ほどに大きい魔物を相手に、洞窟ゆえ避けるスペースもさほどない状態で外すことは無い。
炎に包まれた魔蟷螂は耳を劈く声を上げながら、鋭い鎌を振り上げて襲い掛かってくる。
「デリガード!」
「ふんっ……!」
目の前で振り降ろされる鎌に対し、私の前に躍り出たデリガードが身体を覆う程の盾を持って鎌を受け止めた。
《斬撃波》を合わせると、魔蟷螂のSTRは1500は下らない。
しかし装備を整えたデリガードのVITは、人類でも最上位の3000にも届くほどだ。
魔蟷螂の攻撃で、防御を突破される道理はない。
鎌を受け止めたデリガードはビクともせず、むしろ攻撃を仕掛けた魔蟷螂の方が押されているようにすら見える。
そして、致命的な隙を見せた魔蟷螂に私が攻撃を叩き込む!
「《付加術》フレイム!オォォッ!」
火を纏った私の剣が、魔蟷螂の身体を真っ二つに切り裂く。
私のSTRも、装備を整えれば3000に届きそうなほどまで上がる。
さらに魔虫の弱点でもある『火属性』を付加した剣であれば、もはや魔蟷螂に耐えられるものではない。
私の剣は魔蟷螂のHPを一瞬で消し飛ばした。
支えを失った魔蟷螂は崩れ落ち、そのまま《火魔法》によって焼き尽くされた。
「ふぅ……。これぐらいの強さなら問題はないが……」
「例の魔蜂はこの三倍……いや、成長も加味して五倍と考えた方がいいか」
デリガードの言葉に、私も押し黙る。
魔法を使っていけば魔蟷螂も苦労せず倒すことはできるが、ある意味それが限度。
はぁ、これは例の魔物との戦闘では苦労するな……。
そのまま魔物を避け、時には討伐しながら奥へと進み、件の縦穴に到着した。
縦穴の直径は2、30mもあり高さは50mを超えるだろう。
一年ほど前にこの場所で魔蜂の群れが見つかって以来、討伐も出来ずに長い間放置された場所でもある。
噂によると、この巨大な縦穴の壁一面を魔蜂の巣が覆っていたらしいのだが、今は壁が崩れており、魔蜂の巣があった形跡は残っていない。
「あの台のようになった場所で、変異体の魔虫を三匹発見したらしいのだが……《風魔法》」
『深緑の狩人』の報告にもあった場所を確認する。
が、そこにはそれらしい魔物の姿は無く、せいぜいパラクレート・スラッグがいる程度である。
ふむ……場所を移したか?
魔蜂であれば一か所に留まって生息していると思ったのだが……。
「エリザ隊長、気になる事が……」
頭を捻っていると、周囲を調査していた魔法使いに一人が声をかけてきた。
「どうした?」
「ここには元々魔蜂の巣があったと思われますが……魔蜂の姿が全くありません」
「何らかの原因で崩れたから別の場所に移動したのではないか?」
「いえ、巣が丸ごと崩れたのであれば、巻き込まれた魔蜂や幼体が残っていると思いましたが……それすら見当たらないのです」
「何……?」
周りを見渡すと、確かに巣の一部と思われる破片は見当たるが、魔蜂の死体は全く見当たらない。
パラクレート・スラッグに食べられたとも考えられるが、この縦穴を覆う程の巣ともなれば、魔蜂の数は数万にも上る。
であれば、死体の数も相当数あるはずだ。
それが全くないとなると、不自然極まりない。
「明らかに、自然のものではないな……」
私の口から漏れた呟きに隊員たちの視線が集まる。
「迷宮の地殻変動か何かで崩れたと思っていたが、どうも人為的に魔蜂を襲ったようにも見える」
……自分で言っていて、背筋が凍る思いだ。
魔蜂は、一匹一匹のステータスはさほど高くないが、問題はその数。
数万匹の魔蜂に襲われれば、私やデリガードでも数秒と持たないだろう。
そんな魔蜂を襲い、全滅させられるほどの強さを持った何か。
そんなもの、まさに人類の危機だ。
「……とにかく、今は件の魔蜂を探そう。縦穴崩壊の原因は後回しで構わん」
ここから移動するとしたら……『湖』か。
あそこの魚は強いうえに、水の魔法を使う魔物もいる。
あまり気は進まないが仕方ない。
ここには特に情報は無いと判断し、調査を進めるべく移動を開始した。
主人公視点と別視点が行ったり来たりして申し訳ないですが、話の流れ的にこの方がいいかと思いまして。(本当は早く進めたい)




