灯台下暗し
「お待たせ……。如何かした?」
「ん? いや……別に……」
大学の課題を一緒にやる為に、友人をアパートに招いた。必要な資料を持ちリビングに戻ると、友人は部屋の隅を見上げていた。
彼からの返事は何処か歯切れが悪い。何かあるのかと俺も見上げるが、白い天井と壁があるだけだ。
「そう? 何か見えているのかと思った。ほら……猫がじっと部屋の隅を見ている時があるとか聞くからさ」
「俺は猫か? いくら俺が寺生まれだからって、一度もそういう類は見たことないよ!見たいとも思わない!」
ローテーブルに資料を置き、カーペットの上に座る。動物は人間より感覚が鋭く優れているから、何か感じ取ることがあるらしいと耳にしたことがあった。そのことを口にすると、友人は切実な願いを叫んだ。
「じゃあ、何で部屋の隅を見ていたのさ?」
「え? ……なんか……見られているような? 感じがしたからさ? 監視カメラでも仕掛けられているのかと……」
話しを元に戻し、友人の顔を見て問いた。すると視線を左右に忙しなく動かした後に、口を手で覆い隠すと小声で驚きの発言をした。
「ふふっ、ドラマの観すぎだよ? 確かにカーテンの上に設置するとか観たことあるけど、普通の大学生を観ても面白いことなんてないだろう?」
「……そうだな、気のせいだったかも! 変なこと言ってごめん!」
彼の自由な発想に、思わず笑い声が漏れた。友人は反省しているのか、両手を合わせて謝罪を口にする。
「じゃあ、詫びに明日の学食を奢ってくれ」
「対価がでかいって!」
冗談交じりに告げれば彼は情けない声を上げたので、ジュースで手を打つことに決まった。
〇
「もう大丈夫だよ、出ておいで」
友人が帰ったリビングで、俺はソファーの前にしゃがみ声をかける。
「驚かせてしまって、ごめんよ?」
『ミギャア……』
ソファーの下から、白い体が這い出てくる。太く長い体を僕の胴に絡ませると、甘えるように可愛らしい鳴き声を上げた。無数の目が僕を映す。
「彼には、視えていなくて良かった」
目に触れないように、鱗をそっと撫でた。