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蟻地獄  作者: 揚羽蝶
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第一話

 いくつかの虫の描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。

 じわじわ堕ちていく。真綿でゆっくり首を絞められるって、きっとこんな感覚。




 「あ、アリ…」

 キッチンの作業台に小さなアリが一匹ちょろちょろ歩いていた。

 私は造作なくその小さな命を指先で潰し、シンクへと流した。


 アリがキッチンに現れた。嫌だなあ。どこかに巣でも作られたら厄介だなあ。

 一匹だけたまたま迷い込んだのならいいのだけど。


 アリはこんなに小さな虫なのに、集団になるととんでもなく恐ろしい虫だ。

 アリはアリでもいろいろな種類がある。ヒメアリ、クロヤマアリ、アミメアリ、アシナガアリ、クロオオアリ…日本に生息するだけでも273種類ものアリが生息しているらしい。

 アリが別の種類のアリに襲われたとしても、集団で襲い返して巣に持ち帰り、食べてしまうという。もし世界の生物が同じ大きさになったとしたら、その中でアリが最強だというのだからアリの強さは底知れない。

 

 その強さもこの小ささに相殺されて、いとも簡単に潰されてしまうとは、何とも気の毒な生き物だ。


 そんなふうに思いながらも、アリがキッチンに現れたというだけで、非常に嫌な思いがする。


 「嫌だなぁ…アリ」


 呟きながら他に仲間を呼び寄せていないか、キッチンを見渡す。

 今のところいないようだ。


 アリが一匹いただけで、私の一日の始まりが憂鬱になる。

 ため息をひとつつき、コーヒーを胃に流し込み、ぼんやりと朝のニュースを眺める。


 今日も仕事。アリ一匹に構っていられない。

 


 さして面白くもない事務仕事をこなし、生活のための金を稼ぐ。

 人生何のために生きているのやら、今のところ皆目見当がつかない。

 ただ生きるためには金が必要で、そのためには仕事をしなくちゃいけない。


 自分の好きなことややりたいことを仕事にできている人って、一体この世にどのくらいいるんだろうな。


 いつも考えたって仕方ないことを考えて、その沼にズブズブはまって抜け出せなくなる。



 「ただいまぁ」

 誰もいない部屋に向かって、帰宅の挨拶をする。電気を点けてとりあえずご飯だ。

 コンビニのお弁当を買ってきたから、それで軽く済まそう。


 お茶の準備をしにキッチンに行くと、アリがまたいた。しかも3匹だ。


 「やめてよ、もう〜」

 うんざりしながら、すばしこく動くアリをさっさと片付ける。親指と人差し指の間でもぞっと動く気配があったのを、ギュッと強く押し潰す。

 嫌だ、嫌だ、アリは嫌だ。

 昨日までいなかったのに。どうして、どこから?困ったな。アリは本当に嫌だ。


 今夜寝ている間にも、行列になって私の部屋を侵食していったらどうしよう。

 キッチンにある砂糖やらハチミツを食い尽くされていたらどうしよう。

 食い尽くされているだけならまだいい。仲間が仲間を呼んで、集合体となって砂糖に群がっていたらどうしよう。


 気分が悪くなって、コンビニのお弁当も半分食べたらすっかり食欲が失せていた。

 でもこのまま生ゴミとして出したら出したで、そこに群がるアリを想像してしまう。


 アリはすっかり私の思考の中枢部分にまで入り込んでしまっている。

 一刻も早くアリを駆除しなければ。

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