舞台裏2
ノックの音が聞こえ返事をするとグレンが部屋に入ってきた。
「顔を洗う水を冷たい水にしてくれ」
「かしこまりました」
昨日の夜会潜入に少し疲れてしまったが今日は寝過ごす訳にいかないので冷たい水をグレンに持って来させてそれで顔を洗う。
グレンに手伝ってもらって着る服は普段僕が着る服よりもずいぶん安物だ。
刺繍も装飾品も少ない服だが僕はいつもの服よりこのシンプルな服の方が好みだった。
服をきて顔を少し認識しづらいようにキャスケットを目深に被る。
僕はまだ正式なお披露目前の人間だが自分の顔が万人受けする容姿でそのため目立つことを知っていた。
裕福な商人か下級貴族の子息風ルックになった僕はお付きの従僕風として普段よりも数ランク下の服を着ているグレンを連れて部屋を出る。
◆◆◆
商人風の馬車で向かうのは貴族向けに開放されている花園だった。
その花園は普段護衛まみれで行動する事が常な貴族が1人でも出歩ける唯一の場所で憩いの場になっている。
普通だったらどんな場所だろうと護衛無しはあり得ないがこの花園は先の王の中の1人であるこの国でも五指に入る賢王の1人だった女王陛下の愛した花園でこの中で犯罪行為をした者は偉大なる女王陛下の顔に泥を塗ったとしてどんなに軽微でも死刑になる。
そもそも入り口は厳戒で身分証明出来た者しか入れず、中も兵の駐屯所がいくつもあり、兵の見回りもこまめにある場所でもある。
そのため1人の時間が欲しい貴族がのんびり出来る場所になっていた。
ボルフスはいつものようにグレンを置いて目的地に向かう。
そこは四季により花の種類の変わる花壇でその前のベンチに1人の女性が座っていた。
「ミルティさん。こんにちは」
一応顔を確認してから挨拶をすると女性がボルフスの方を向いてにっこり笑った。
「こんにちは」
声をかけてきたのがボルフスだとわかるとミルティはにっこり笑ってこちらも挨拶を返してくれた。
ベンチを気持ち端によってくれたのでボルフスは遠慮なく隣に座る。
今日のミルティの格好も凡そ侯爵令嬢の服装とは思えないいくらかランクの下がるものだ。ボルフスと同じく一応お忍びファッションなのだろう。
いつものように2人で他愛ない話をしてその場でお別れをした。
これが花園で会った時の2人の日常だった。