舞台裏5
ミルティが婚約破棄をしてから1週間後。
ようやくボルフスはルワーヌ家に求婚に向かっていた。
それというのもボルフスがなかなかミルティに贈る物が決まらなかったせいである。
「……グレン。女性には何を贈れば良いのだろうか?」
「求婚には花束や指輪が定番かと思いますがそれぞれ好みがありますから一概にはいえないのではないでしょうか?」
「たしかに花にしても宝石にしても色や種類が様々だ。……好み、好みか」
「……ミルティ嬢の好みを調べてきましょうか?」
「そうだな。彼女は植物が好きだから花はすきだろうが、出来れば完璧に求婚したい」
「かしこまりました」
一概に贈り物といっても種類は膨大で途方に暮れたボルフスはグレンに調査を頼みそれから情報をもとに5日かけて納得のいく品を選び出した。
今日はプレゼントを持ち、グレンに注文をつけてことさら身だしなみに気を使っている。
「ボルフス様。到着しました」
グレンに声をかけられて慌てて顔をあげる。
考えこんでいる間に着いていたようだ。
応接室に案内された先でルワーヌ侯爵とミルティが出迎えてくれた。
ルワーヌ侯爵に2人で話したいと伝えると侯爵は挨拶だけを済ませ、使用人を残して退室したので、座るように促すためミルティに顔を向けると緊張した様子が見てとれた。
「ミルティ僕のせいでごめんね。大丈夫だった?」
ボルフスは真っ先に言わないといけない謝罪を口にした。
あれはボルフスの策だがボルフスだって他にやりようがあるならあんな目立つような方法はとりたくなかった。
「……ボルフ…ス殿下が謝罪する事はございません。
こちらこそ、お気遣いいただきありがとうございます」
ある意味辱めを受けたというのにミルティは微笑んで許してくれた。
本当の事がわかるとミルティはきっとボルフスを嫌うだろうと思うとボルフスはさらに言葉を続けてしまった。
「でも、僕が君の元婚約者の不貞を目撃してしまったから騒ぎが大きくなってしまったから」
そう、ボルフスはたしかにあんな策を考えていたが、結局あの日にあの2人が密会なんてしなければボルフスは策を弄することは出来なかった。
ボルフスは本音を隠して建前でも、ミルティには本当に申し訳ない気持ちで謝罪した。
ミルティの顔を見ればボルフスの謝罪に心を打たれたのか穏やかな表情でボルフスを逆に宥めてくれた。
1度唾を飲み込むとある意味ボルフスの本当の意味での目的を口にするべくタイミングを見計らう。
「……ミルティ。それで、傷心中な事はわかってるんだけど、僕との結婚を考えてもらえないだろうか?」
「…………え?結婚!」
ミルティのすっとんきょうな声にボルフスは不安になる。
王族からの求婚なので断られることはありえないが、ミルティが誕生日前で現在は4歳だが年下は範囲外なのだろうか?
そう思いながらミルティが顔を上げるのを絶望した気持ちで待っていたボルフスだが、顔を上げたミルティはボルフスと目が合うとほんのり頬を染めた。
「ボ、ルフス殿下。殿下が責任を感じる必要はないのですよ。殿下も知っていると思いますが私は5歳も年上です。殿下ならよりどりみどりなんですから」
「ミルティ。僕は貴女と花園で話をするのがずっと楽しかった。貴女となら幸せに暮らしていけると思ったのです。
……貴女は僕との話は楽しくなかったですか?」
先ほどは多少は脈があるかと思ったミルティがお断りに向けた言葉を言った事でボルフスは焦った。
今までは建前ばかり言っていたが、ボルフスは自分の気持ちを告げた。
ミルティと話していると王族としてではなくボルフスとして話せて楽しかった。彼女となら周囲の顔色を伺う息苦しい生活ではなく、笑って暮らせるのではないかと思ったのだ。
「私もボルフくんと話をしているのは楽しかったです」
「良かった。では、すぐに侯爵に婚約の打診をしてきます」
ミルティがボルフスの話を聞いて彼女も自分との語らいに好意的でいてくれたと言われボルフスは素直に嬉しかった。
どう考えても婚約の了承ではなかったがこのまま話しているとまたお断りにもっていかれると困るため強引に話を打ち切った。
子供らしいボルフスが見れたでしょうか?




