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日常トリオ

作者: KENNZAKI

 こんにちは,吉田心よしだしんです。

 突然ですが、友達が異性のパンツを持っていたらどうしますか。

 えっ、そんなことない。

 いやいやいや、あるから困っているのです。

 そうあれはほんの数秒前。

 普通高等学校、二年二組の教室。

 時刻は13時10分、昼休みがもうすぐ終わるころ。

 教室の一番後ろの窓側の席で集まっている三人組の男子。

 「あーあ、もうすぐ授業始まっちゃうよ」

 湯崎遊技ゆざきゆうぎ

 三人の中では一番小柄で子供っぽい印象を与えてくる。

 言うことなすこと無邪気なので、常に楽しく話せる奴だ。

 「……」

 渡辺体我わたなべたいが

 無口かつ無表情で読書中の本のページをめくる。

 何を考えてるかわからないが、遊技とともに幼馴染で悪いやつではなく嘘をつけないやつであるのはわかっている。

 そして、メガネが似合う三人目。

 それこそが俺、吉田心だ。

 この三人の中では一番の常識人かつリーダーのような存在だ。

 二人ともいつも俺を頼ってくれる。

 頼られれば答えるのが俺のいいところなのだ。

 「どうしたの心。 めっちゃ気持ち悪い顔しているけど」

 遊技の発言に首を縦に振る体我。

 「失礼な。 俺の顔はもとからだ。……それじゃあ元から気持ち悪いみたいじゃあないか!」

 一人ツッコミを入れてしまった。

 「あははは。 相変わらずだなー。 何か面白い物はないかなー」

 体我のバッグをあさりだしたが、そこは重要じゃない。

 「おい、遊技。 今の発言撤回しろ。 このままじゃ俺は元から気持ち悪い顔ってことに」

 遊技に物申そうとした時、遊技の手に持っているそれに目を奪われた。

 遊技が持っていたのは、下着のパンツだ。

 男物だったらそこまで驚かないであろう。

 しかし、出てきたのはフリルがあしらわれた赤い女もののパンツだったのである。

 俺とパンツを取り出した遊技は、驚きのあまり瞼と口をこれでもかと大きく開けて、あほみたいな顔で固まってしまった。

 体我は興味がないのか、女もののパンツに見向きもせず読書を続ける。

「ねぇ、心。 今まで体我のことについては、多くの誤解があったけど、これはどう説明しよう」

 引きつった声で問いかけてくる遊技。

「そうだな……。 何ていうのかな……」

 俺も引きつりながら、体我のことについて思い返す。

 俺たち三人は、保育園の頃から一緒に過ごしているため、人柄をよく理解している。

 ほかにも、付き合いが長いおかげで、当時のトラブルもよく覚えている。

 体我は、瞼や口角をろくに動かさないこともあり、これまで大ごとではなかったが、数多くの謎を引き起こしてしまっていた。

 「結構昔から、体我は謎めいたよねー」

 遊技の発言に俺は小学2年生のころも思い出す。

 これは小学校に存在していた七不思議の一つ。

『枯れない花』

 理科室で花瓶に入れられた花束。

 なぜ、あの花は枯れないのか。

 あの花はいつ枯れるのか。

 そんなことでクラスメイトははしゃぎ回っていたこともあった。

 特にはしゃいでいたのは遊技だったが、あいつの性格はわかるので、特に気にしなかったし、『枯れない花』の謎は先生が水を取り替えてると俺は思っていた。

 水は取り換えられていたが、取り換えていたのは、先生ではなく体我であった。

 このことは、クラスメイトが放課後まではりこんで、分かった真実である。

 なぜ、体我が水を取り替えていたのか。

「見過ごせなかったから」

 どうしてそれを教えてくれなかったのか。

「俺の我がままだから」

 らしい。

 もっと前から体我に謎は多かったが、それを俺と遊技が認識し始めたのは、この出来事からであるのを覚えている。

 中学に上がっても、体我の謎は多かった。

 それは中学生のころ、ある女子生徒を体我が泣かせていると言う、目撃証言があがっていた時があった。

 当時は、クラス中から冷ややかな目や疑いの眼差しを向けられていた体我だが、本人は特に気にせず、学校生活を送っていた。

 後に女子生徒の口から真実が語られた。

 女子生徒は意中の男子生徒に自信をアピールしようと必死だった。

 女子生徒の事情を知った体我は、男子生徒の情報を集め、信頼を築き、女子生徒も入り込めるように人間関係をコントロールしていた。

 その期間、1年。

 女子生徒が告白に成功し、体我にお礼をしていた時に、嬉しさのあまり泣いてしまったことが、事情を知らない人から見たら、体我が泣かせているように見えたのだった。

 俺と遊技は真相を知り、体我に問いかけた事がある。

「何で、事情を話さなかったんだ?」

 体我は言った。

「俺のことで彼女の恋が終わってしまったら、それこそ台無しになる」

 体我の恋愛事情は、俺たちにさえ打ち明ける気はなかったと言っていた。

 ほかにも、中学のクラス委員を決める話し合いの中、先生が体我を名指ししたことに対し、体我は異議を申し立てず、優秀なほどクラス委員をやり切ったこと。

 体我の知られざる優秀さのせいか。

 中学の三年間、連続でクラス委員を務め続けた。

 このことについて体我は、嫌な顔など作らずに活躍しっぱなしだった。

 体我がクラス委員を務めたクラスは、みんな体我に感謝していた。

 高校に上がってからは、静かな学園生活をおくっていたため、久しぶりの体我の謎に困惑してしまった。

「心。 どうしよっか」

 遊技が見せてきたパンツを持ち、思考を凝らそうとしたとき。

「はいはい。 みんなー。 席につけー」

 聞きなれた男の教師の声に思わず、ビクッとビビり、持っているパンツを机にかけている自分のバッグに突っ込んでしまった。

 体我は本を閉じる。

 遊技は俺の前の自分の席につく。

 俺も深呼吸をしながら、自分の席につく。

「それじゃあ、持ち物検査するぞー」

 そして、始まる持ち物検査……持ち物検査?

「さっき、学校にマンガを持ってきてるのがいたから、抜き打ちでやるぞ」

 男の教師の発言に頭を抱える俺。

「どうするの? さっきのパンツ」

 遊技が小声で話しかける。

「何とかしてごまかす。 なるべく時間を稼いでくれ」

 俺は思考を巡らせる。

 どうすれば、パンツを教師から隠すことができるのだろうか。

 男の教師は机の隅から隅、椅子の裏、生徒のポケットまで調べている。

 俺は考える。

 何が最善の策なのか。

「じゃあ、次。 吉田」

「あ、はい」

 ……えっ? もうきたの? 早くね?

 突然のことで思考が停止してしまった。

 俺は遊技に視線を向ける。

 遊技は手を合わせて、『ごめん』と申し訳なさそうに頭を下げる。

「あ、レディースのパンツ。 吉田は放課後で指導室な」

 こうして、俺の放課後はつぶれた。

「おい。 渡辺。 このブラジャーは何だ」

 ブラジャー!?

 あいつまだ、何か持ってたのか!?

 驚きによりすぐに体我に目を向ける。

 男の教師の手には、パンツと同じ色で花の模様が目を引くブラジャーを持っていた。

 体我は表情を一つも変えず。

「妹がバッグを間違えたのでしょう」

 なぜ、下着をセットで持っているのか。

 妹がどうしてバッグを間違えたのか。

 気になることはあるが、体我の発言で俺は一筋の光明を目の当たりにする。

「先生!」

「声でかっ」

 俺の大声に肩を震わせた先生。

 俺は大声で続ける。

「そのパンツは、俺の妹のです」

「お前一人っ子だろう」

 俺は家庭環境をよく理解してくれていたことに先生に対して、涙を流しました。

 日が黄昏る河川敷を歩く、心と遊技と体我。

 「あーあ、ひどい目にあった」

 放課後、先生に呼ばれた俺は当然説教を受ける羽目になった。

 正確には説教と言うよりも、何か可哀そうな物を見る目をしていたようだが、

 「まぁまぁ、先生に誤解があったって、伝わってよかったじゃない」

 俺の傷ついた心を遊技は慰めてくれている。

 持つべきものは友達だ。

 「遊技。 お前がいて助かったよ。 あのままじゃ俺、妹に対して妄想を抱く変態扱いを受けるところだったよ」

 「そんなことないよ。 体我も一緒になって説明してくれたから助かったんだよ。 ねっ、体我」

 「……」

 体我は返事として首縦にコクッと下げる。

 「しっかし、知らなかったなー。 体我に妹がいたなんて」

 「結構長い付き合いだけど、知らないこともあるもんだね」

 遊技の言うとうりだ。

 今日のことをふまえて、もう少し友達付き合いを考えるべきかな。

 「僕、もうちょっと体我のこと、知っていきたいな。 そのほうが、体我も楽しいでしょ」

 相変わらず、心のこの無邪気さは俺たちにとって癒しになるな。

 心の言葉に体我は口を開いた。

 「そんなこを気にすることはない、こう見えてオレはお前らといることを楽しんでいるんだぞ」

 体我の何事も正直に伝えるところは、かなり安心する。

 友達付き合いを考え直すのは、気にすることじゃなかったな。

 「あははは。 僕たち三人。 正直者の似たもの同士だね」

 「ああ、そうだな」

 ああ、そうかも……?

 「ちょっとて、俺も似ている? 言っちゃなんだが、俺はお前らと似てるなんて思ってないぞ」

 「似てるよ。 心って思ってること顔に出るもん」

 遊技の即答に体我は首を縦に振る。

 「ああ、この中で正直者と言えば、お前が筆頭だ」

 「……」

 「「今、まじかよって顔してるぞ」」

 「お前ら、エスパーかなんかか!?」

 声を揃て言われた、ちょっとショックだよ。

 「あははは、すごく落ち込んでる。 それにしても」

 遊技が何か言おうとした直後。

 「体我君!」

 女の子の大きな声に驚き、三人同時に振り替える。

 そこにいたのは、黒い黒髪をポニーテールにした、華奢で、聖なる雰囲気を漂わせる、学校一の美人の。

 「「生徒会長!」」

 俺と遊技は声を揃えて驚いた。

 「どうした、めい

 体我はすごく自然に話しかけていた。

 何だろう、この感じ。

 何か引っかかるような。

 「あのね、昨日。 ……何か……忘れていってないかな……って」

 耳まで赤くさせ、恥ずかしさを感じさせる声色をする生徒会長。

 待て! 落ち着け俺! さっき、体我は生徒会長のことを名前で呼んでいたよう。

 「ああ、今持ってるから渡すよ」

 体我はカバンから例の下着セットを取り出す。

 取り出した瞬間、生徒会長は目にもとまらぬ速さで下着を奪い取った。

 「こんな、道のど真ん中でいきなり出さないでよ!」

 「悪いな。 今帰りなら、今日も一緒に帰るか」

 「いいよ。 今日は私が当番だから先に帰るけど、体我は友達と楽しんでいいよ」

 今日も? 当番?? 先に帰る???

 意味不明な単語が次から次に出てくる。

 それに何だ。

 生徒会長から感じる、このふわふわしてような感覚は!?

 考え込む心に対して遊技はただただ、傍観を続けながら思った。

 (会長、綺麗だなー)

 「いや、やっぱり一緒に帰る」

 体我は発言は今まで俺たちが聞いたことのない覇気をまとっている。

 「えっ? 楽しそうなんだから、私に付き合わなくても」

 「最近、日が落ちるのがまだ早いからな。 心配になる」

 「でも、」

 「それにな」

 不安そうな生徒会長をまっすぐと見つめる体我。

 何だこいつの眼力。

 今まで見たことないぞ。

 いつも死んだ魚目してるくせに。

 いつも眠そうに瞼半開きのくせに。

 体我と生徒会長に対する疑惑が大きくなっていく。

 「お前と一緒にいたい。 それじゃだめか」

 「た、体我君」

 生徒会長の嬉しさがすぐにわかるくらいの満面の笑顔。

 疑惑が今、確信に変わった。

 「そういうわけなんだ。 お前らとはここまでだ」

 「うん。 心も固まっちゃってるし、また学校でね」

 体我に笑顔で答える遊技。

 体我は生徒会長の右隣を歩く。

 歩き出したところで、生徒会長が右の手の指で体我の左手の甲に触れる。

 体我はすぐに意図を理解したのか、生徒会長の右手を握る。

 やがて、生徒会長と体我の指は絡まり合い、恋人つなぎを作り出した。

 「心。 どうしたの? ずっと口パクパクさせながら固まって」

 遊技が話しかけてきたが、そんなこと問題じゃない。

 「か」

 「か?」

 「か」

 「??」

 「彼女いたのかよ!」

 今日の教訓。

 友達でも知らないことは多い。

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