第34話 お茶会(sideベル)
sideベル・アルフェ
あぁ、なんて憂うつなのかしら。今日は私が主催する初めてのお茶会。お茶会は貴族令嬢の嗜みではあるが乗り気ではない。
「ベルお嬢様、それではお着替えをさせていただきます」
メイド達に連れられてドレスに着替えていく、私の髪と同じ緑のドレス。お父様が買ってくれた物だけど気に入ってはない。地味なんだもの、このドレス。
私たちアルフェ子爵は農業貴族と言われ蔑まれてきた。帝国の貴族は観光地やダンジョン、戦場の武功で華を咲かせるべきだという認識があるからだ。
だから農地の経営だけで生計を立ててきたアルフェ子爵は社交界でも蚊帳の外になりやすかった。
お姉様のお茶会も他の貴族たちに散々バカにされたという。
「可愛い私のベル」
そう言われてハッと後ろを向いた。そこには父であるザルド・アルフェが立っていた。
「ベル、今日がお前にとって憂うつなのは知っている」
「はい」
「だがそれを相手に知られたら終わりだと思いなさい、お前は最善を尽くだけで良いんだ」
「はい」
メレお姉様も最善を尽くしてバカにされた。それでも手を抜くことは許されない。それは貴族として相応しい行動ではないからだ。
「それとお前には是非仲良くして欲しい方が居るんだ」
「仲良く..........」
お茶会は貴族女性による情報の奪い合いとプライドを賭けた戦いだ。その中で仲良くというと協定を結ぶきっかけにしたいということだろうか。
「どなたなのですか?」
「ここから2つ隣の領、アレクサンドラの令嬢だ」
アレクサンドラってこの前反逆罪で捕まった??
そしてメレお姉様のお茶会をバカにした夫人たちがいたあの??
「といってもメレのお茶会に招待された2人では無い、その2人の末の妹で現在皇帝の命令で領主を務めているリーティア・アレクサンドラ殿だ。【炎滅騎士】なら聞き覚えがあるだろう?」
【炎滅騎士】、吟遊詩人がよく語ってるあの救世の英雄のこと?本当に生きる伝説だったんだ。
「は、はい。覚えはあります」
「アレクサンドラ領の薬草や発売された商品は喉が出るほど欲しい代物。だから仲良くして良い取引出来るようにしてくれ」
「分かりました............」
はぁ、さらに憂うつになってきた。英雄だからといって性格が良いとは限らないのだし。失礼があったらどうしましょう。
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「ようこそ、私のお茶会へ。是非良い時間を過ごしてくださいませ」
小さい拍手と共に音楽が流れる。これからは招待を受けた令嬢が主催者に挨拶に来る筈なのだが誰1人として来ない。
侮りがそうさせるのだろうか。
「農業貴族に頭を下げるなんて」
そんな声が聞こえた気がした。あぁ、だからやりたくなかったのに..............
カツンッカツンッ
こちらに近づいてくる令嬢がいた。赤いドレスを纏い堂々と歩く姿はまるで迫り来る炎のよう。そしてあと2歩という所でお辞儀をした。なんて美しい作法、何処の方かしら。
「ごきげんよう、そしてご招待いただき感謝を申し上げます。ベル・アルフェ様。
私は2つ隣のアレクサンドラ領を治めております、リーティア・アレクサンドラと申します」
この人が【炎滅騎士】リーティア・アレクサンドラだったのか。随分若く見える。あ、返事をしなければ!
「リーティア・アレクサンドラ様、御足労ありがとうございます。どうか良き時間をお過ごしください」
もう一度お辞儀をして彼女は去って行った。あぁー!会話するの忘れたっ!
しかしその後彼女を皮切りにぞろぞろと他の令嬢が挨拶をしに来たのでそれどころでは無かった。彼女が挨拶したことで焦ったのかしら?




