第10話 アレクサンドラ家の屋敷
「さぁ、領主様。着きましたよ」
ギギッという音を立てながら停車した馬車の御者席から声が届く。
やっと着いた、長かった。腰辛い。ジャックが馬車のドアが開けると右にメイド、左に男性使用人がズラッと屋敷の玄関口で並んでいた。
「「「帝都からのご帰還お疲れさまです、領主様」」」
あぁ~、出迎えかぁ。初めてやられたかもしれない。馬車から降りると
スッと一番近い男女が近くにやって来た。銀髪の若い燕尾服を着た男と金髪のカギ束を腰に下げメイド服を着ている女性だ。
「初めまして、領主様。この屋敷の執事を任されているステンと申します」
「お初にお目にかかります、領主様。同じくこの屋敷のハウスキーパーを務めてさせていただいております、サニーと申します」
なるほど現在の使用人トップか。仕事をちゃんとやってくれるなら文句ないよ。あれ?目の前の2人が従者のトップならジャックとアメリアはなんなの???
「ステンにサニーだな、覚えた」
疑問を感じつつ、使用人トップの挨拶が終わるとアメリアが手を叩く。
「それでは領主様、仕度をして貰います」
「仕度?」
「はい、その通りです。ソフィー、レティア、ナーシャ、リリー、アリア。頼みましたよ」
「「「「「畏まりました」」」」」
ソフィーを含めた5人の侍女たちが屋敷内に連行された。あ、嫌な予感。と思う頃には素っ裸にされて風呂で体を洗われてた。そして息つく間もなく髪のセットや化粧が終わり、ドレスを着させられた。
実は帝都で足止めされた時に化粧商から化粧商品を買い、またあの仕立屋がやって来てドレスを用意させられた。
白粉は中世ファンタジーあるあるの銀や鉛が入りだったので必死に抵抗して買わなかった。銀や鉛が入っている白粉の方が貴婦人には喜ばれるそうだが私はそれが入っていないのを買った。意外がられたが割高な方のを買ったから化粧商はニコニコしていた。
ドレスは流行りものを勧められた。今の流行りって金糸が使われた布で作るドレスらしい、金かかるねぇ。
そうして貴族令嬢の格好になった私は夕食のため食堂に案内された。
豪奢な壁に、真っ白なクロスカウンター。よく見たら金の刺繍されてる。食べるときのマナー忘れてないと良いな..........。
「本日のメニューは~」
料理を持ってきたメイドがナニソレ魔術詠唱?ってぐらいに分からない単語を並べながら皿を並べる。なんか肉や魚のゴテゴテしたものが多い気がする、サラダないし。
一口食べると濃厚な味が口全体に広がる。というか濃厚過ぎる。もしかして#あの家族__クソやろう共__#の好みなのだろうか。
何とか全て食べ終わり、食後の水で味を洗い流していると、メイドたちと並んでいた料理人らしき小太りの男性が近くまでやって来た。
「りょ、領主様。お初にお目に掛かります、料理長のデリックと申します。わ、わたくしの料理はいかがでしたでしょうか..........?前領主様たちご家族の好みに合わせたものです」
やっぱりそうだったか。流石にこの料理を毎日出されたら胸焼けする、正直に言おう。
「まず、サラダが欲しいのと全体的に濃すぎるから薄くしてくれ。あと肉と魚料理、デザートは一品ずつで良い。酒は辛口で後に引かないものを頼む、他を飲みたくなったら連絡しよう。
ついでに言っておくと朝は軽いものを用意して昼は腹にたまるものを頼む。飲み物はハーブティーか水を用意してくれ」
怒濤の要求に料理長が固まってしまう。少し言い過ぎたかな..............。
「了解しました!明日からそのように手配します!」
めっちゃ笑顔やん。良かったプレッシャーでは無かったらしい。あ、ついでにステンやサニーにも頼み事してしまおう。
「ステン。明日から仕事に掛かりたいから領の主要な商会の名簿と各ギルドの関係者のリストを家臣に用意するよう伝えてくれ、この屋敷と領の予算とかも一緒に。サニー、会議室の用意を明日の午後までに頼む」
「か、畏まりました」
「明日の午後までにご用意いたします」
2人が頭を下げ退出したあと、私は自室に戻ることになった。もちろん昔の自室ではない、領主の自室だ。
宝石や金でギラギラしてるかと思いきや上品な内装に仕上がってる。ソフィー曰くジャックとアメリアが事前に変えておいてくれたらしい、#GJ__グッジョブ__#。
「なぁ、ソフィー。貴女ここに勤めてどのぐらい?」
「5年ほどです」
「聞きたいんだがあの家__お父様たちはいつも今日出されたような料理を?」
「はい、たまに気分では無いと怒鳴りつけて皿を投げることもありました。でも夕方にリクエストなされていた料理だったらしいのですが」
マジか、それはあんな態度になるのも仕方ないよな。てかソフィー今までずっと表情筋が動いてる所見たことないけど、それがデフォなの?