表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

破壊的探偵活動

日本側のローザファンクラブには、ルポライターや新聞記者も居た。

ついでに言えば、国会議員秘書もいた。秘書とはいえ将来確実に地盤と看板を受け継ぐ、現職議員の息子だ。

もちろんサイバーセキュリティの専門家は日本に限らず世界中に居る。

全員が、修学旅行の金の流れを追っている。選定業者と共に、個別の教職員の財務状況も一緒に。


そこから出てきた談合の仔細は恐ろしいほど単純だった。

まずは視察旅行として数人の教職員が海外に行き、そこで業者が歓待したカラオケ店でハニートラップに引っかかる。

そこで作った借金を業者負担で棒引きするために、修学旅行先を決定した。ただ、それだけ。

あえて大規模な謀略ではなく、代理店が肩代わりできる範囲の金額で、わざわざ見積もりにちょっとだけ金額が上乗せされたモノを提出している。

予算も、妥当な範囲にしてあるのが周到だ。

大した役得じゃないからバレても大ごとにはならないだろう、ぐらいの感覚で代理店すら仕掛けていた。


ただ、肝心の現地で接待を受けたカラオケ店の実態は、風俗兼セクキャバだった。

わざわざ経営者が名目上軍幹部の妻の店となっている店を使っていた。

そんな怪しい店でも、校内にほとんど若い女がいない、免疫のない学年主任には効果絶大だった。


ここまで収集するのに1日。

コレではまだ足りないと踏んだ海外のローザファンクラブは、レアメタルの架空の先物取引と仮想通貨の取引も盛り込んだ。仮想通貨取引は本当だったが、納税も申告もしていない。


翌日には、全世界の新聞とネットで高専と学年主任の不正蓄財による特別背任を大々的に報道し、ワイドショーは意味が分からないまま当てずっぽうで適当なことを言っていた。

そのワイドショーには、有識者としてまふゆの父も同席していた。微妙に、息子が行方不明になった事を引き合いに出して。


こんな分かりやすい罠にかかりおって、と学年主任に対して議員も激怒している。しかも、育てればいずれその国に対する制裁カードにも使えたのに、即刻起爆されて大炎上だった。

数代前から懇意にしていた旅行代理店には東京地検特捜部が現れ、処分する間も無く資料をすべて没収した。


速攻とはまさにこの事で、裏で軍が運営するカラオケ店も実名入りで詳細に報道される。

ジャスパーの策通り、事態は過去の同様の保護者会以上の紛糾を見せる。

特に、今回は未来の日本のテクノロジーの担い手という事で、ただの汚職として内々で処分を済ませる訳にはいかなくなる。

なぜ第一報から学年主任の顔と名前が晒されたのか、という点に不信感を抱く者もいて、まだ何かが隠されていると想像する余地を残した。


エニグマは、クラスで

「みんなにまで迷惑がかかるから絶対に修学旅行に行かない」

と明言。理由は、クリムゾン・ライジングに実装された管理者モードの新技術が悪用された時の保険だと、ハッキリと言い切った。

どうせ収入が大きすぎて確定申告でバレる、ということでエニグマであることをカミングアウトに踏み切った。


困ったのは修学旅行先だった。

この期に及んでも、高専生の招聘にこだわっていた。宥めすかしてなんとか呼び込もうとするが、そもそも罠を罠だと見破られているのだから仕方がない。

どういうわけか、TVも報道しない自由を行使できない。


累は家族にまで及び、エニグマの父の勤務先の資材調達部を通じてエニグマにも圧力がかかる。こっちはエニグマ名指しの招待という露骨さだった。

しかし、エニグマの父は慇懃に聞き流し、帰宅するなり東京地検の元検事のいわゆるヤメ検弁護団が代理人として辞表を持参して本社に現れる。新聞テレビ海外と、あらゆるメディアを引き連れて。

もちろん、全員日本のローザファンクラブ『デウス・エクス・アンスロポス』通称DEAのメンバーだった。

本当に謎なのは、エニグマ以外の家族のほうだった。


ホームルームを利用して外人が教壇に立つ。

最近いきなりイギリスから留学してきたジャスパー・エゼキエルだ。

「行くところもないので、いっそ北海道の懇親旅行にしましょう! 自衛隊の駐屯地近くのホテルに旅行です。毎日牧場牛乳に海の幸です。バイオサイエンスが刺激にもなるかもしれません」

いつ聞いても完璧な日本語だ。とても初来日とは思えない。

「イエーッ!」

学生たちは大騒ぎだ。みんなエニグマが狙われそうな理由は百も承知だ。

エニグマの親の電撃転職も、学校とエニグマの家の近くに試験運用と称してそれぞれ紛争地帯のトーチカみたいな重装備の派出所が作られたことも知っている。

巡査の半分が各県警の機動捜査隊か自衛隊のレンジャーからの出向であるため、まだ重装巡査隊の育成が終わってない。そのせいで詰めているのが女性巡査ばかりというのが、なんともアンバランスだ。

「修学旅行の行き先を、そんな軽々しく決めるものじゃない」

担任が口を挟む。


「おや、行き先を決めるのは修学旅行じゃありませんよ。あくまでも規模の大きめな懇親旅行、まあ3泊4日のキャンプみたいなものですね。

……それより修学旅行のプラン、押し通すんですか? 首謀者が東京地検特捜部に検挙されたプランを」

正直担任は修学旅行自体が面倒臭いと思っていたため、このままみんなには教室とか部室でクソゲーとかガラクタでも作っておいてほしかった。

修学旅行で消耗するより自分の研究がやりたいと、溜息をついていた。

まあ、パスポートを既に取らせてありはするが、代替の懇親旅行は地元の農大や高専との交流がメインになる。


そうして高専関係者を隔離しておいて、首都圏全域でまふゆの本体の捜索に集中する。

普通の高校生ことまふゆはエニグマのスマホを見ている限りでは、まだAIを通じてクリライの管理者モードに接続されている。移動はそう簡単には出来ないはずだ。


スーパーチャットのお陰もあり、普通の高校生(まふゆ)独立紅蓮悪役令嬢ヴィラネス・レッド・カンパニーの面々は元気に、最初の大規模イベント『ゲルマン国境砦防衛戦』に大勝利した。

弱い普通の高校生をなんとか戦えるレベルに持っていくには、ガチャで集めたアイテムを駆使して、ゲルマン民国越境前での地道な経験値稼ぎが必要だった。

おかげで世界のみんなから貰ったスーパーチャットが見る見る溶けていたのは、ご愛嬌の範囲と言っていいいだろう。


そしてまふゆと一緒にゲルマン民国国境を超えた独立紅蓮悪役令嬢、通称カンパニーはゲルマン民国への入国を果たした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ