クリムゾンライジング起動(ライジング)
さて、なぜエニグマはこのソーシャルゲーム、通称ソシャゲーを始めたのかというと、広告に出てくる『真紅の毒蛇』ジェルソミーナのイラストがエロカッコ良かったからだ。
本当にただそれだけ。
どんなゲームかすら知らなかった。ネット広告ではジェルソミーナが出てくるとだけ宣伝してたぐらいだ。
さてジェルソミーナなんだが……このゲームの開発会社の作品にはジャンルを問わず必ず登場するお約束キャラで、困ったらジェルソミーナが出てきて全部ぶっ殺して辻褄を合わせる。
コラボ等も含めて色々出過ぎて、今は種の存亡をかけて戦う絶滅戦争をモチーフにした、元宇宙海兵隊員の悪役令嬢という意味が分からないキャラクターになっている。
というか、シリーズ自体が人類の存亡を賭けっぱなしで、絶滅戦争シリーズと言われている。
昔出したZ指定のスローライフシミュレーション『断末魔が響く絶望農場』でも、納豆菌の開発に失敗して炭疽菌作ったり隣の家の奥さんが超先鋭的フェミニズム思想
『無条件去勢主義』
を開発してしまうと簡単に人類が全生物を道連れに絶滅していた。
そうなると出てくるのが、ジェルソミーナだ。
ジェルソミーナが出たんだからしょうがない。
という意味で『退場の審判』という渾名を付けられたら、別の乙女ゲームアプリ『汚物は消毒しちゃうぞ!』で半年に一人づつ生徒会執行部員を邪神の生贄に捧げる一般的な平民出身の邪教徒ヒロインをジェルソミーナが断罪するときの必殺技になって出てくるぐらいフリーダムだ。
人類はジェルソミーナという神出鬼没のデウス・エクス・マキナを1600年かけて再発明した、とも言える。
最初は声優目当てでプレイしていたものの、
「どのゲームのどのミーナか、よく考えて役作りをしています」
と担当声優さんが言うぐらいキャラクターが崩壊している。
声優が今は開発会社の社長の嫁で、ジェルソミーナ以外の当たり役は一つもない。
その代わり、ジェルソミーナとしては何本も深夜アニメの主役級キャラを張り、インターネットではVtuberにもなっている。
【普通の高校生視点】
よくジェルソミーナのチャンネルには社長がゲストで出てきて、なぜか毎回トンカツの話をしている。
息子としては、息子が親よりトンカツの方が好きだと言ったとか喋ってて、そんなのがよく人気があるモノだと思う。
ほぼ声優養成所出たてで20本しか売れなかった同人ソフト時代から20年以上同一人物が声優なので……というか声優志望の彼女を使うためにゲームを作ってジェルソミーナに採用していたら今まで来たらしい。
ネットラジオもVtuber活動もファンはAMラジオのコアリスナーのようなおばさんMCの域に達しているわけだ。
普通の高校生な息子は、トンカツを無限に食べる。どうやったら野菜も食べるようになるか一緒に考えるのが人気コーナーだ。
まあ、普通の高校生にはなんでそんな当たり前の事を言ってるのかがイマイチ分からない。
しかしパソコンあたりから追っかけている古参ファンは、夫婦で回してるのを聞いてむしろ気持ちがホッコリするそうだ。ジェルソミーナへの投げ銭ことスーパーチャット代が、息子のトンカツ代になる。
息子である『普通の高校生』は、子供の頃には
「お前の母ちゃんジェルソミーナ〜」
とからかわれたものだが、
「そうなの、羨ましかろうなのなの」
とジェルソミーナの姉のローザの声で言い返したら、いじめっ子は本気で大泣きした。どうやら本当に羨ましかったらしい。
しかも泣きながら下の方はオッキしてた。これが原因でコイツは好きな女に罵られないと満足できないドMに目覚めたと思うが、俺は絶対に悪くない!
そもそもダミーデータで初登場のローザの声を入れたのが10年以上前、母ちゃんのスタジオで宅録だった。
なぜだかダミーデータだったのに製品版にそのまま残り、あとはアニメ収録もネットラジオも全部宅録だった。そして今に至っている。
ついでにおまえが隠れてエッチな本を通販で買ってるローザの中の人は、実は親よりトンカツが好きな俺だ、とも言いそうになったが誤魔化す。
……ローザの中の人は自分だと言うと、死ぬか壊れるか変な扉を開くかしそうなので黙っている。
青少年の性癖を歪めて飯を食う悪党は、あくまでもオヤジであって俺じゃないのなの。
ローザのファンは、ねちっこいけどカネ離れはいいの。
たぶんロリコンの哀しいサガってやつなの。
他人の奢りで焼肉食いたいとはよく言うが、ファンの投げ銭で食うトンカツだって美味い。
ただ、焼肉とトンカツは比べられないこの感じ、ローザとジェルソミーナどっちのエロ同人誌を使うかに似てる。当然普通の高校生はどっちも使わない。
だってどっちもオヤジがセリフ書いてんだぞキモいだろ。しかも、声は俺か母ちゃん。
うん、どう考えても地獄みたいな家内制手工業だ。忘れよう。
そもそも声変わりしたらやめようと思っていたが、幸か不幸か声は小学校時代とほぼ同じだった。
無理して低い声で喋ってやっと、中身はおじさんだと公言してるバーチャル美少女受肉、通称バ美肉おじさんか大人の女性に聞こえるぐらいだ。
声変わりが止まったのは、中学時代にネットラジオからVtuberへの移行で頑張りすぎたのが原因に違いない。
オヤジのゲームは今回はシミュレーションRPGで、その前は乙女ゲーム、その前はSFバトルロイヤルサバイバルシューターだった。その前は自由度が高いのが売りのRPGの初期の仲間だったっけ。
さらにその前はグロテスク度満点のパソコン用エロゲームのキャラクターだが、ローザの声をやってる俺が生まれる前、元々は20本しか売れなかったビジュアルノベルの同人ゲームだったそうだ。そこから既にジェルソミーナは居た。
20本しか売れなかったこの同人ソフトは、オヤジの記念品という名の在庫で、いまでは家で一番高いモノになっている。なにせ、住んでる家自体より高い。
夫婦喧嘩の時に母ちゃんがオークションに出したら、アメリカとかアラブの外交官ナンバーの付いた車で来た連中がブリーフケース一杯の万札を持って直接家に来た事がある。お陰で両親は離婚寸前になった。
カナダのマフィアはブリーフケース2個だったが、いかんせん米ドルだったし、どう考えてもカナダに入国不可能になる未来しか見えない。裏社会でも巨額の現金の代わりに使えるお墨付きのお宝だとよく分かった。
最後にドヤ顔で木っ端コンサルが50万円でどうだと言ってきたが、ため息つくのすら無駄だと思った。アンタ手に入れたら死ぬよ? 割と高確率で。
出来れば分かりたくはなかった世界をチラリと見た。
結局、安物の目覚まし時計にローザかミーナの音源をダイレクトで録音したやつを渡してお引き取り願った。もちろん木っ端コンサルは家にすら入れてないの。
オヤジは、大抵のことは俺か母ちゃんの音声入り目覚まし時計を渡して済ませてきた。
Vtuberブームが無ければマジでヤバかった。
家の平和のため、ほぼ毎週インターネットラジオにローザ役で出る羽目になったのは苦い思い出だった。
「……とまあ、このぐらい喋れば俺が『普通の高校生』だと信じて貰えたかな?」
『出来れば知りたくなかった』
エニグマとかいう奴は、スマートフォンを机の上に置いて嘆いた。パソコンには母ちゃんの涙声のライブ配信が流れていた。
「トンカツが大好きな息子が、亡くなりました。息子は普通の高校生でした」
へえ、こんなふうに見えてたのか。
『普通の高校生』は一瞬だけそう考え、まずはジェルソミーナで母ちゃんの、死んだという誤解を解いて安心させなければと、エニグマにゲーム起動とクリライ起動配信の指示を出す。
「……まずは、俺は生きてるなの、ミーナ」
うん、声はいつも通りだ。
……さて、行きますかなの、エニグマ。
【重要】
本作はある人物を通じて投稿小説『独立紅蓮悪役令嬢 ヴィラネス・レッド・カンパニー』とも繋がっています。
スマートフォンの中で何が起こっているかは、そちらでご確認いただけます。
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