俺様は『普通の高校生』である。本名プレイは勘弁な
どう見ても自殺だった。
道に落ちていた銀杏の枯葉を拾おうとしていたという証言もあるし、残った防犯カメラにもそう写っている。
ただ、なんで普通の高校がそんなモノを拾うためにわざわざ横切るダンプカーの前に飛び出さなければならないのか？
「あークソ！ 最初の十連ガチャってSR以上保証とかじゃ無いのかよ！」
プレイヤー・エニグマは頭を抱える。今日は新作ソーシャルゲーム、『クリムゾンライジング』のサービスインの日だった。
それでプレイヤーキャラの引きがノーマル。チュートリアルを長々と見せられた時間返せよ！
「確率５０パーセントでレア以上を１０枚貰えるハズなのに、全部ノーマル。キャラクターは『普通の高校生』とか、泣けてくるわー」
明らかに途方に暮れている。
「クソ、ゲームのサービスインスタートダッシュに賭けてたのにの仕打ち。１０連続で外すなんて、ある意味すげえわ」
確率を考えるのはやめた。しかもこのゲーム・クリライは今どきインストール用のアカウントを取り直さなければリセットマラソン、通称リセマラは不可能。
「……こうなったら攻略サイト荒らしてやる！」
エニグマは『クリムゾンライジング』で検索しようとする。
「クリムゾンライジング クソゲー」
が真っ先にサジェストされた。まあコレは想定通り。ただ、続くサジェストが
「お高く止まりやがってよ」
「何を作ってもいつも通り」
「なぜ無駄に凝ってるのか」
「パソコンに帰っておいで」
「おじさんは嫌いじゃない」
「オッサン達にだけ大評判」
「ある意味現代の昭和演歌」
と、謎のサジェストがズラズラ並ぶ。
めげずに頑張って荒らそうとするも、エニグマの発言など
「オマエの文句はつまらん」
「クソみてーな品性が丸出しのクレームおじさん」
「攻略情報５００回読んで出直せ」
と、ダイレクトに人格否定から入る文句以降は以降はガン無視で絶賛大炎上中だ。
まさに歴戦のなんかアレな人の煮こごり状態で、殺伐としか言いようがない。最初っからここまで治安が悪いインターネットは初めてだ。
根が良い子のエニグマは荒らすにも知識が必要と痛感し、攻略情報を真面目に漁る。
熱心なやり込みプレイヤーが多いのか、既に莫大な攻略情報が載っていた。その中の
「ゴミのはずの謎のキャラクター『普通の高校生』、実はSSR以上のウルトラSSRブッ壊れキャラ？」
というスレッドが目を引く。
荒らそうと思ったらいきなり人格をバッサリ撫で斬りにされて、めげそうになっていたが、ちょっとだけ興味が湧いた。
「マジ凄えわ、普通の高校生。最強じゃね？」
マジで？ だって『普通の高校生』だぞ？
「居ねーよ、そんなノーマルキャラ」
こんなクソ雑魚ゴミキャラ、居るんだなぁ。
「重装突撃型極道とか企業天狗とか戦略級陰陽師より凄えのか？ だいたいどれか出るまでリセマラ地獄やって攻略が王道みたいだが」
ノーマルのふりをしたレアなのか？
「当選確率0.13パーセントの上に、当たっても再抽選。８回連続で0.13パーセント当ててゲームがバグったら出る仕様らしい。これはなぜか削除するとゲーム自体が壊れるデカい致命的バグを塗りつぶした、ダミーデータのもよう」
レアどころか天文学的に低い確率じゃねーか？
「……嘘だろ」
ホントなんだな、『普通の高校生』は俺のキャラだ。エニグマは優越感に浸る。
「ちなみにロシア系ダークウェブ情報な」
英語の投稿画像のスクリーンショットが写っている。サービスインしたばっかりなのによくやるな、とエニグマは感心する。
『全部聞こえてるぞ』
普通の高校生は言う。
「？……いまなんか言った？」
『俺だよ俺、普通の高校生だよ』
「すげえナチュラルに話しかけてくるなぁ」
『ああ、声は聞こえてるからな。一つ聞きたいんだが……ここ、何処だ？』
「……クリムゾンライジング？」
『あ？ クリライ？ あの微妙な評価の？』
「オマエ、登場キャラクターのくせに、よく言うね！」
『そりゃ言うさ、管理者権限キャラクターの「普通の高校生」は、ウチの親がなぜか途中で開発止めたシステムで動いてっから』
「じゃあ、本来のシステムで遊べるのって……オマエ使ってるヤツだけ？」
『そういうこったから、とっとと削除して屁こいて寝ろ』
いいこと聞いた。エニグマは思った。荒らしなんてやってる場合じゃねえ！
エニグマは家に帰り、実況配信の準備を始める。配信タイトルは
【実在！ クリライ普通の高校生】
で決まりだ。ざっとクリライの配信を確認したが、批評チャンネルでも『普通の高校生』の実在には否定的で、ロシア情報を疑問視していた。
コレはみんなひっくり返るだろう。エニグマはプレイヤーが驚くさまを想像して、ほくそ笑んだ。
来ちゃった……
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